ドイツでは、17世紀後半からワイン産業の立て直しが始まりました。戦略として、新たに開墾したより条件の良い畑で優れた品種を栽培することが奨励されました。
リースリングは15世紀半ばに初めて文献に登場する伝統品種ですが、盛んに栽培されるようになったのは17世紀以降でした。例えば、1667年にマインツ大司教がビンゲンにある特定の畑のぶどうをリースリングに植え替えるよう命令を出したことが知られています。また、ラインガウ地方でも1760年頃、フルダ侯が新たに取得したヨハネスベルクの畑にリースリングとオルレアンの2品種を栽培するよう命じます。さらに、1787年にトリアー選帝侯で司教だったクレメンス・ヴェンツェスラウスが、低品質の品種をすべてリースリングと思われる品種に植え替えるよう命じました。この頃から、畑ごと、品種ごとに、出来上がるワインの品質に格差が生じるようになります。
一方、南ドイツでは、それまで主に栽培されていたエルプリングに代わってジルヴァーナーが栽培されるようになります。また、1711年にはプファルツ地方シュパイヤーのルーラント氏が紹介したグラウブルグンダーが、彼の名前を冠して「ルーレンダー」という名称で栽培され始めます。ただ、グラウブルグンダーは早熟ゆえに晩熟のリースリングと収穫期が異なり、ぶどう栽培農家にとっては収穫に二度手間がかかる上、聖職者身分が農民に課していた10分の1税の負担も大きく、あまり好まれませんでした。グラウブルグンダーはフランス革命後、10分の1税が廃止されてからプファルツ地方を中心に広まりました。
17~18世紀にかけては、現在のシュペートレーゼやアウスレーゼに相当する遅摘み収穫法も試みられるようになったといわれています。また、1712年頃からエーベルバッハ修道院などが、出来の良いワインを「カビネット(Cabinet)」と名付けるようになりました。カビネットは小部屋を意味し、修道士が小部屋に極上のワインを隠していたことに由来する、優れたワインの名称です。やがて、主にトラミーナー種の収穫において、現在のベーレンアウスレーゼに相当する粒選りの手法が取り入れられるようになり、18世紀末には貴腐ワイン(トロッケンベーレンアウスレーゼ)が登場します。1775年に、ヨハネスベルクで領主の収穫許可を報告する伝令が遅れたために収穫期がずれ込むという事件が起こり、その間にぶどうが貴腐化したため、この希有な甘口ワインが誕生したという逸話が伝えられています。
このようにドイツワインはどんどん進化し、18世紀に入ってからは、ワイン取引の中心地ケルンで、高品質ワインのオークションが開催されるようになりました。ケルンの商人たちはワインの品質基準を厳密に定め、例えばフランスワインやイタリアワインなど、他国のワインとドイツワインをブレンドすることなどを禁じました。
(ナーエ地方)
写真: アルミン・ディール氏と共にワイン造りを営むカロリン
ナーエ地方の土壌を活かした、優れたリースリングを世に送り出している醸造所。醸造所の建物は、築12世紀のライエン城が基礎となっている。オーナーは、長年ゴーミヨ・ドイツワインガイドの編集長を務め、ドイツワインの発展に貢献してきたアルミン・ディール氏と長女のカロリン。カロリンは2006年に醸造家としてのスタートを切り、長年醸造責任者を勤めるクリストフ・フリードリッヒ氏と共にワイン造りに専心している。ドースハイム(Dorsheim)にあるゴールドロッホ(Goldloch)、ピッターメンヒエン(Pittermännchen)、ブルクベルク(Burgberg)の3つの畑のリースリングは、世界中に愛好家を持っている。
Schlossgut Diel
55452 Burg Layen
Tel. 06721-96950
www.schlossgut-diel.com
2008 Pinot Noir Caroline
2008年産ピノ・ノワール・カロリン(辛口)
45€