ジャパンダイジェスト

ドイツに一番近いフランス、アルザスのワイン

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番外編 フランスワインバーデン地方、ラールという街のシュッターリンデンベルクに登ったことがある。ぶどう畑に彩られた小高い山の頂からは、ライン川の向こうのストラスブールの大聖堂の塔を臨むことができる。ドイツ最南端のワイン生産地バーデン地方の大部分と、フランスのワイン生産地アルザス地方は、お互いに手が届き合いそうなほど近い。

この2つのワイン生産地方は、ライン川を挟んで平行線を描いている。アルザス地方の背後にはヴォージュ山脈が連なり、西風によって運ばれる雨雲を遮っている。そのためアルザス地方は、フランスで最も雨量の少ない地方の1つであり、バーデン地方もその恩恵を受けて、とても天気が良い。

アルザス地方は近代、ドイツとフランスの狭間で翻弄され、ワイン生産地として発展するチャンスを幾度も奪われた。17世紀以降のアルザスは安価なブレンドワインの生産地、1870年にドイツ帝国領となった直後にはフィロキセラなどの病害に襲われ、畑は壊滅した。その後栽培されたのはヨーロッパ品種とアメリカ品種のハイブリッド種で、今日、特級畑が連なる斜面は長い間放置されたままだった。第1次大戦後にフランス領となってから、ようやく特級畑でもぶどうの栽培が再開され始めたが、第2次大戦時は再びドイツ領に。アルザス地方がアイデンティティーを確立し始めたのは、戦後にフランス領となってからのこと。アルザスで特級畑(グラン・クリュ)の制定が行われたのは、1983年だった。

アルザス地方のぶどう畑は全長100km、幅3kmの細長いリボン状で、アルザスワイン街道が畑の間を縫うように通り、51の特級畑が海抜175~420メートルの斜面に広がる。畑には、花崗岩、片麻岩、石灰岩、砂岩、スレート、粘土、陶土が混在し、多彩で可能性に満ちた土壌を織りなしている。

同地方のぶどう畑の面積はおよそ1万5000ヘクタールで、バーデン地方とほぼ同じ。栽培品種は白品種が85%を占め、リースリングやピノ・グリ、ゲヴュルツトラミーナ、ムスカテラ(以上4種は、グラン・クリュ認可品種)、 ピノ・ブラン、シルヴァーナ種などが栽培されている。一方、赤はピノ・ノワール種だけ。品種構成はドイツと非常に似ており、エティケットにはドイツワイン同様、品種名が表記されている。ドイツとの類似点はほかにもあり、ヴァンダンジュ・タルディヴ(Vendanges Tardives)と呼ばれる、ドイツのシュペートレーゼからアウスレーゼに相当するワインや、セレクション・ドゥ・グラン・ノーブル(Sélection de Grains Nobles) と呼ばれる、ドイツのアウスレーゼからベーレンア ウスレーゼに相当するワインも生産されている。いずれのデザートワイン(甘口ワイン)も、果汁の糖度や収穫時期などが細かく定められている。

普段、私はドイツワインに接する機会が多いが、アルザスのワインを味わうときは、フランスへの旅の出発点に立つような感覚にとらわれる。アルザスワインは、ドイツワインからフランスワインの世界へと旅に出ようとするあなたの架け橋となってくれることだろう。

※アルザスワインに関する詳しい情報は、以下のオフィスおよびウェブサイトより収集できます。
Conseil Interprofessionnel des Vins d'Alsace
12 avenue de la Foire-Aux-Vins BP 11217
68012 Colmar Cedex France
Tel. +33-(0)3-89201620 / Fax +33-(0)3-89201630
www.VinsAlsace.com

Domaine Paul Ginglinger (ポール・ジャングランジェ醸造所)

ぶどう畑の風景

コルマーの南に位置するエーギスハイムは、アルザスワインの発祥地と言われている。街からヴォージュの頂を臨むと、ル・トロワ・シャトー(Les Trois Châteaux)と呼ばれる3つの城の塔が見える。いずれも11~13世紀頃の城の廃墟だ。3つの塔のモチーフは、ジャングランジェ醸造所のワインのシンボルマークとなっている。

旧市街の片隅にあるジャングランジェ醸造所は創業1636年。現在、醸造所を率いてワイン造りに取り組むのは13代目のミシェル。ランス大学醸造科とディジョン大学で学び、フランス国内ではシャンパーニュとブルゴーニュの醸造所で、海外では南アフリカとチリの醸造所でワイン造りを行った経験を持つ。

ミシェルはクレマン(シャンパーニュ製法のスパークリングワイン)からデザートワインに至るまで、あらゆるタイプのワインを生産しているが、中でも2つのグラン・クリュ畑「プフェルジッヒベルク」と「アイヒベルク」から造られるリースリングやゲヴュルツトラミーナは傑出している。石灰岩土壌である「プフェルジッヒベルク」のリースリングは黄桃を連想させる、 果実味あふれるエレガントな仕上がり。石灰岩のほかに粘土や砂岩が混じる「アイヒベルク」のリースリングは、オレンジの皮のコンフィ(砂糖漬け)が香る重厚で力強いワインだ。「僕のワインは酸味という背骨がしっかりしているから、残糖も酸味とのバランスが良く、甘さを感じることはないはず」と、ミシェルは言う。

世界各地でワイン造りを行った経験を活かしながら、現在ミシェルはできる限りナチュラルなワイン造りに挑戦しようとしている。多くを語らない彼だが、澄みきった大空を感じさせるワインのピュアな味わいからは、彼のワインの方向性がしっかりと感じられる。

ワイン ミシェルさんとロレットさん夫婦
1. エーギスハイムの3つの塔が見えるぶどう畑の風景
2. ミシェルさんのワイン
3. ミシェルさんとチリ出身のロレットさん夫妻。夫婦でワイン造りに挑む

Domaine Paul Ginglinger
8, place Charles de Gaulle 68420 Eguisheim
Tel. +33-(0)3-89414425
www.paul-ginglinger.fr(近日完成予定)

 
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岩本順子(いわもとじゅんこ) 翻訳者、ライター。ハンブルク在住。ドイツとブラジルを往復しながら、主に両国の食生活、ワイン造り、生活習慣などを取材中。著書に「おいしいワインが出来た!」(講談社文庫)、「ドイツワイン、偉大なる造り手たちの肖像」(新宿書房)他。www.junkoiwamoto.com
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