ジャパンダイジェスト

ワイン史とビール史の接点を探して 2

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ワインの歴史に思いを馳せるとき、避けて通れないことがあります。それはキリスト教です。カール大帝はワイン造りを奨励する際にも、キリスト教を活用できると分かっていたので、教会にぶどう畑を分与したのでしょう。ドイツでは、ワイン造りはキリスト教の普及と共に本格的に始められました。ワインとビール、2つの文化の混在は、キリスト教文化と北方のゲルマン文化の融合の軌跡と言えるかもしれません。

さて、中世も後期になると、北部ドイツを中心にビール醸造ブームが起こり、12世紀末にはフランドル地方や北欧にまで輸出を行う醸造所も現れました。16世紀末のハンブルクには600ものビール醸造所があり、高品質のビールを生産していたそうです。

一方、ぶどう栽培地域が拡大していた南部では、ビールより安価に造られるワインが飲まれ、当時ミュンヘンで消費されていたビールのほとんどは、北部からの輸入品でした。バイエルンのビールの品質向上とパン用の穀物確保のため、ビール純粋令が公布されたのは1516年のこと。この法律のおかげでバイエルン公国のビールの品質が向上し、16世紀後半になると、本格的なビール醸造所が出現し始めます。

しかし、その後の30年戦争(1618~48年)によってドイツの土地や田畑は荒廃してしまいます。そして、戦後の復興の折りにビール造りに拍車が掛かりました。壊滅したぶどう畑を新たに開墾し、ワインとなるぶどうを収穫できるようになるまでには何年もかかりますが、ビールは麦の種をまけば翌年からすぐに醸造に取りかかれます。そのためバイエルン公国では、修道院も市町村もワイン造りを諦め、ビール造りに邁進していったそうです。もしここで伝統のワイン造りに拘っていたら、バイエルンはワイン大国になっていたのでしょうか?

また、30年戦争後はドイツ全域に300余もの諸国が分立し、諸国間の物資の移動には関税がかかりました。そのため、それぞれの国および市町村が独自に地ビールを醸造するようになり、地方色豊かなビール産業の基礎が出来上がりました。

フランス革命後は、営業の自由という権利を得た市民がビールを輸出品として売り出すようになります。ミュンヘンはビール都市として発展し、18世紀末には60の醸造所が当地で営業していました。

19世紀には醸造元でのビール酒場の開業も認められるようになり、ミュンヘンには1000人を超える客を収容できるビアホールが開業するまでになります。ただ当時、クナイペ(居酒屋)の数ではベルリンが2500軒でトップの座を誇っていました。19世紀末、ドイツには2万近い醸造所があり、全世界で生産されるビールの4本に1本はドイツ産だったほどです。さらに、この頃には冷却機も発明され、年間を通して安定した品質のビールを生産できるようになりました。

2回にわたり、大ざっぱにドイツのビール史を追ってみましたが、こうしてみると、ビールとワインは互いに補い合って発展してきたように思われます。リューベック出身の作家トーマス・マンはワイン通でしたが、ビールも毎晩欠かさず飲んでいたそうです。ワインの造り手たちも、畑仕事の後はしばしばビールで渇きを潤しています。ドイツはフランスやイタリアと異なり、2つの飲料文化が共に栄えた稀な国なのですね。

Winzergenossenschaft Britzingen ブリッツィンゲン共同組合醸造所
(バーデン地方)

ブリッツィンゲン共同組合醸造所
写真:©Winzergenossenschaft Britzingen

バーデン地方の最南端に位置するマルクグレーフラーラント地域のワイン造りの歴史は古く、西暦773年からワインが生産されていたという記録がある。同地域の中央に位置するブリッツィンゲンの共同組合醸造所の設立は1950年。180のぶどう栽培農家が所属し、会員の畑の総面積は199ヘクタールに上る。マルクグレーフラーラント地域はバーデン地方の中でも独特のワイン文化を持ち、グートエーデル種の栽培面積が4割を占めている。グートエーデルは伝統的に、辛口に仕立てられる白ワイン。同地方では日常的に楽しまれている。天候に恵まれた年には、ベーレンアウスレーゼやアイスワインも収穫可能だ。ところで、ともに名高い温泉処であるブリッツィンゲン近郊の街バーデンヴァイラーと福島県いわき市は2000年から交流事業を行っており、01年からは、いわき湯本温泉郷の旅館でブリッツィンゲン共同組合醸造所のワインを提供している。同醸造所社長のアヒム・フライ氏は、今年もいわき湯本温泉郷にワインを出荷しており、被災者への支援募金なども積極的に行っている。

Winzergenossenschaft Britzingen
Markgräflerland e.G.
Markgräflerstr. 25-29,
79379 Müllheim-Britzingen
Tel. 07631-17710
www.britzinger-wein.de


2010 Britzinger Rosenberg Gutedel QbA
2010年 ブリッツィンガー・ローゼンベルク・ グートエーデル QbA

4,20 €

2009 Dr. Siemens

アヒム・フライ氏によると、マルクグレーフラーラント地域のぶどう栽培農家では、9時頃に摂る2度目の朝食「ヴェスパー (Vesper)」の際、グートエーデルを軽く1杯楽しむのだそう。農家の人たちにとっては、この1杯が1日の活力源だという。グートエーデル種はスイスではシャスラ種と呼ばれ、各地で栽培されている(スイスのヴァレー地方に限り、フォンダン種と呼ばれる)。グートエーデルはリースリングと違って酸の量が少なく、「毎日飲めるワイン」などと言われる。このローゼンベルクのグートエーデルも、まろやかで穏やかな飲み心地。ほのかな柑橘系の香りが漂い、ミネラリティー、骨格、そしてボリューム感もある。野菜だけの軽い食事にも、肉料理(仔牛肉や鶏肉)や魚料理にも合わせられる1本。
 
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岩本順子(いわもとじゅんこ) 翻訳者、ライター。ハンブルク在住。ドイツとブラジルを往復しながら、主に両国の食生活、ワイン造り、生活習慣などを取材中。著書に「おいしいワインが出来た!」(講談社文庫)、「ドイツワイン、偉大なる造り手たちの肖像」(新宿書房)他。www.junkoiwamoto.com
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