ここ数年、ヨーロッパの各ワイン産地では、忘れられていた土着品種(Autochthone Rebsorte) が再び脚光を浴び始めたり、栽培・収穫方法や醸造方法を改良することで格段に美味しくなったりしているように感じます。土着品種は、固有品種あるいは自生品種と訳しても良いかもしれません。また、このような土着のぶどう品種からワインを造る際には、単独で醸し、品種名をアピールする傾向もあるようです。
例えば、最近ドイツでも注目され、レストランでよく提供されているスペイン・ルエダ地方の白品種ベルデホ、ガリシア地方などで栽培されている白品種のゴデージョ、スペイン・ガリシア地方とポルトガルのヴィーニョ・ヴェルデ地方にまたがって栽培されている白品種アルバリーニョ、オーストリアで栽培されている白品種グリューナー・フェルトリーナ、南チロル地方の赤品種ラグラインなどが思い浮かびます。
さて、土着品種とはどのような品種のことを指すのでしょう? 少々漠然とした定義ではありますが、それは各々の土地、地方に特有の、そこで昔から育てられている品種のことをいいます。つまり、近代以降に他の地方から「輸入」されていない品種のことです。ヨーロッパの各地域では、古来ワイン造りが行われてきたため、栽培品種の多くが土着品種で構成されています。
ドイツで最も知られた土着品種に、リースリングがあります。その他の土着の白品種には、モーゼル地方のエルプリング、主にプファルツ地方で栽培されているグラウブルグンダー、ムスカテラー、ゲヴュルツトラミーナー、フランケン地方やラインヘッセン地方で栽培されているジルヴァーナーなどが、赤品種ではヴュルテンベルク地方のトロリンガー(ヴェルナッチの変種)、レンベルガー(ブラウフレンキッシュ)などがあります。シュペートブルグンダーもブルゴーニュ由来とはいえ、上記の解釈に従えばドイツの土着品種の範疇に入ります。
ところで、リースリング、グラウブルグンダー、ムスカテラー、ゲヴュルツトラミーナー、ジルヴァーナーはアルザス地方でも栽培されており、これらは皆、アルザスの土着品種でもあります。また、リースリング、ジルヴァーナー、レンベルガーはオーストリア、トロリンガーは北イタリア、南チロル地方の土着品種でもあります。ワインを選ぶときは、ついドイツワイン、オーストリアワイン、フランスワインという風に国別に線引きをしてしまいますが、土着品種の分布から地図を描いてゆくと、思いがけない発見があります。
ドイツの土着品種は、世界各地で移民やその子孫たち、あるいは現地の人たちによっても栽培されています。例えば、リースリングは米西海岸と東海岸の双方で栽培されていますし、オーストラリアのクレア・ヴァレーやイーデン・ヴァレー、そしてニュージーランドにも優れたものがあるほか、日本でも栽培されています。また、ゲヴュルツトラミーナーもカリフォルニア州や南アフリカ、オーストラリアやニュージーランドなどで栽培されています。
(プファルツ地方)
左からフォルカー& ヴェルナー・クニプサー兄弟、シュテファン
©Weingut Knipser
クニプサー家の先祖は南チロル出身。17世紀初頭にプファルツ地方に移住した。現在のオーナーであるヴェルナー&フォルカー兄弟は、いち早くボルドー品種の栽培に取り組み、とりわけ赤ワインの可能性に挑戦し続け、成果を挙げてきた。2人はバリック樽導入の先駆者でもある。主力品種はリースリングとピノ・ノワール。第三紀の貝殻石灰岩土壌、ライン川岸に堆積した砂や小石の土壌から畑の特性を表現するワインを生み出している。石灰岩が支配するグロースカールバッハのブルクヴェークでは、同醸造所のトップクラスのピノ・ノワールとシャルドネ、一部のボルドー品種が栽培されている。2005年からはヴェルナーの息子シュテファンもワイン造りに参画している。
Weingut Knipser - Johannishof
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www.weingut-knipser.de
2009 Gelber Orleans Spätlese trocken
2009年 ゲルバー・オルレアンス・シュペートレーゼ(辛口) 15€
(2010年産まで、全ヴィンテージ完売。2011年産は3月から入手可能)