ドイツにおいて将来性が見込めそうなもう1つの白の土着品種に、エルプリング(Elbling)があります。 エルプリングはラテン語の「アルブス(albus)」(白の意)が訛ってできた言葉とされています。このほか、クラインベルガーと呼ばれることもあります。 エルプリングにもヴァイサー(白)・エルプリングと、その突然変異であるローター(赤)・エルプリングがありますが、ローター・エルプリングは果皮がほんのり色付くだけで白品種に分類されています。エルプリングはホイニッシュ(Heunisch)種と混同されていた時期があり、おそらく親戚ではないかといわれています。ちなみに、リースリングにもホイニッシュが掛け合わされているそうです。
エルプリングは、中世から19世紀にかけてドイツの広い地域で栽培されていたそうで、200年前にはドイツで栽培されていたぶどう品種の大半がエルプリングだったともいわれています。このほか、エルプリングはフランスのシャンパーニュ地方やアルザス・ロレーヌ地方、ルクセンブルク、スイス、そして東欧でも栽培されていました。
古代より続いていた「十分の一税」の廃止(この税制は、地域によっては19世紀に入っても実施されていた)とともに、より優れたぶどう品種、例えばリースリングやジルヴァーナーへの植え替えが進み、エルプリングは徐々に姿を消していったそうです。また、1787年にトリーアの選帝侯クレメンス・ヴェンツェスラウスが地元のワインの品質向上を命じ、「優れた品種」の栽培を奨励したため、エルプリングが姿を消し、代わりに植えられたリースリングが世界的名声を得ることになりました。
現在もエルプリングがかろうじて栽培されている地域が、上モーゼル(Obermosel)地域と下モーゼル(Untermosel)地域の一部。そのほとんどはゼクトのベースワインに使われていますが、スティルワインを生産している醸造家たちもいます。ただ、栽培面積は600ヘクタール未満で、減少傾向にあります。ルクセンブルクでも、ごく少量栽培されているようですが、スイス、フランスではほぼ消滅したといって良いでしょう。
エルプリングはヨーロッパ最古の品種の1つとされ、もともとローマ人がモーゼル川流域など北方にもたらした品種であると伝えられていますが、そのルーツは定かではありません。このほか、ライン地方が起源という説、ガリア地方からもたらされたという説もあります。
エルプリングは他品種よりも糖度が低い状態で完熟し、果皮が薄く、カビ菌が付きやすくなるため、早々に収穫しない場合は栽培に細心の注意が必要です。また、香りが控えめでボディーは軽やかなので、素朴な日常ワインに適した品種です。前回ご紹介したグートエーデルとも共通した性質といえます。とはいえ、古代より逞しく生き延びてきた品種だからこそ、飛躍する可能性は十分にあるはず。今、造り手も飲み手も、ようやくエルプリングを再発見し始めているようです。
ドステルト醸造所(モーゼル地方)
ルクセンブルクとフランスとの国境に近いニッテルにある家族経営の醸造所。創業は20世紀初頭。現オーナーのユルゲン・ドステルトは1970年代半ばに醸造家マイスターの資格を取得し、高品質のワイン造りに取り組み始めた。息子ヨナスは先頃、ガイゼンハイムのワイン醸造大学を卒業したばかり。現在はルクセンブルクの醸造所で修業しながら実家を手伝っている。所有畑は6ヘクタール。モーゼルと言えばスレート岩土壌を連想するが、所有畑であるニッテルのライターヒェンとロシュスフェルスはともに貝殻石灰岩土壌。上モーゼル地方のぶどう畑は過去に世界的名声を得ることはなかったが、地酒として愛され、その多くはドイツ人が大好きなゼクトのベースワインに使用されている。
Weingut Jürgen Dostert
Moselstraße 45, 54453 Nittel
Tel. 06584-263
www.dostert-nittel.de
2011 Elbling Classic
2011年 エルプリング・クラシック 4.30€
ロシュスフェルスの複数の区画で栽培されているエルプリングを使用。樹齢は35~40年。ヨナスは、「エルプリングは古代から生き延びていた品種。生き延びるためにできるだけ多くの実を付け、遺伝子を残そうとしてきた。つまり、植物の原点とも言える性質が強く出ている品種」と言う。香りも味わいも控えめなので、単独で味わうより、食事と合わせて楽しみたい。ヨナスは今年から実家のエルプリングの畑の一角で、自らぶどうの手入れをし、ワインを造り始めている。父親とは違う、自らのスタイルを見出すための実験場だ。彼のブログ「若き醸造家の悩み」で、ヨナスの最新報告を読むことができる。 http://elbling-plus.de/wordpress/