ここ数年、ドイツでも一部の醸造所で「オレンジワイン(Orange Wein)」が造られるようになりました。白ワイン用品種から造られる、ほんのりとオレンジがかった色調のワインのことです。
オレンジワインの醸造法は伝統的な赤ワインの醸造法とほぼ同じで、果皮と果汁を長時間接触させ、通常はそのまま発酵に導きます。スキンコンタクトと呼ばれるこの工程は、近年、テロワール(本コラム第24回(第790号、2009年11月6日発行)参照)を意識した白ワインを醸造する場合に積極的に取り入れられていますが、長くても数時間から数日程度です。しかし、オレンジワインの場合は、さらに長期間にわたりスキンコンタクトを行い、発酵に導くため、3~4週間果皮と接触させておく造り手もいます。
スキンコンタクトを行うと、果汁の中に果皮の持つ色素やフェノール類、そしてタンニンが抽出され、ワインが濃い黄色、場合によってはほのかなオレンジ色に染まります。通常、白ワインを造る場合には、収穫後すぐに圧搾して果皮と果汁を分けますが、オレンジワインはこのように果皮の成分をしっかりと生かすので、風味にも強い個性が出ます。
ワイン発祥の地といわれるジョージア(旧称グルジア)では、約5000年ほど前から、アンフォラ(クヴェヴリ)と呼ばれる陶製の瓶(かめ)を土中に埋め、その中につぶしたぶどうを入れて自然発酵させていました。それは、オレンジワインの原点ともいえる造り方です。瓶を土中に埋めることで、醸造中の瓶内部の温度が一定に保たれ、ワインが取り込む酸素の量もわずかにとどまります。ジョージアには、現在もこの方法で造られているワインがあり、白ワインも例外ではありません。世界で初めて誕生したオレンジワインは、おそらくクヴェヴリで醸されたジョージアの白ワインだったことでしょう。
ドイツでも、アンフォラを使用した原初的な醸造法に挑戦している造り手がいます。その場合、オレンジワインと言わずに「アンフォラ・ワイン(Amphorenwein)」と言ったりします。筆者は、ドイツのほかにポルトガル、イタリア、そしてクロアチアでアンフォラ・ワインの造り手に出会いました。ほかにも、スロヴェニアやオーストリア、フランスなどにもアンフォラを使用している造り手がいるそうです。
ビオ農法やビオディナミ農法に取り組んでいる造り手たちは、昔ながらのシンプルな醸造法への関心が高く、自然発酵にこだわり、できるだけナチュラルなワイン造りを行おうと努めています。オレンジワインはそのようなワイン造りを目指す彼らの1つの試みです。そして、オレンジワインを極めていくと、アンフォラを使ってみたくなるのでしょう。
オレンジワインの造り手はビオの造り手であることが多く、亜硫酸添加量を極力少なくしようとしています。そのため、造り手たちは完璧なぶどうを収穫し、クリーンな醸造環境を保つことを第一としています。ヴィンテージにより、収穫したぶどうが完璧ではない場合は、オレンジワインの生産をきっぱりとあきらめる造り手もいます。
アンカーミューレ醸造所(ラインガウ地方)
オーナーのビルギットさんとワインメーカーのヨルンさん
アンカーミューレ醸造所の前身は、14世紀半ばより稼働していたという水車による穀物製粉所。1891年以降は、アイザー家が4代にわたってこの場所で醸造所を営んだ。初代は水車による製粉業と、ワイン醸造業の双方を営んでいたという。同家は後継者に恵まれず、2008年にシュヴァーベン地方出身のビルギット・ヒュットナーさんとヘッセン州出身の夫のホルガー・J・ブップさんが新たなオーナーとなった。ビルギットさんは、広告、石油大手、インターネット・マーケティングなどの業界で活躍した後、醸造所の運営に取り組み始めた。ホルガーさんは、セールスエージェント会社を共同経営するかたわら、週末にアンカーミューレの仕事をサポートしている。2009年に改装オープンした同醸造所には、居心地満点のレストラン(スローフード協会会員)も併設されている。
Weingut Ankermühle
Kapperweg
65375 Oestrich-Winkel
Tel. 06723-2407
www.ankermuehle.de
2011 Jesaja Riesling trocken, Landwein
2011 イエザヤ(イザヤ)リースリング 辛口ラントワイン (完売)
※2013年産が新ブランド名で近日リリース予定
同醸造所でワイン造りを一手に引き受けているのは、エアフルト出身のヨルン・ゴツィエフスキーさん。ガイゼンハイム大学卒業後、ラインガウ、スペイン、南チロル、ニュージーランドで経験を積み現職に。オレンジワイン「イエザヤ(イザヤ)」は、ハルガルテン村の畑「ユングファー」のリースリングを除梗・破砕し、低温で1週間スキンコンタクトした後、そのまま自然発酵させた。発酵終了後はさらに1週間放置し、素手で圧搾。バリック(オーク材)の新樽に詰め、2年間熟成させた。濾過をしていないため、ワインには少し濁りがある。ハーブ系の香り、ビターオレンジとバニラの風味。力強い味わい。
ヨルンさんは、最初からオレンジワインを造ろうと狙ったわけではなかったという。ぶどうのアロマなどの成分をより多く抽出しようと試行錯誤するうちに、この製法にたどり着いた。2011年産は、ヴィンケル村の畑「イエズイーテンガルテン」からも、同じ製法のオレンジワイン「イエズス」をリリースしている。2012年はぶどうの質に納得がいかず、オレンジワインは断念。2013年産からは、ヨルンさんの個人ブランドワインとして、新しいエチケットでお目見えする。