ぶどう品種の交配が盛んに行われるようになったのは、フィロキセラ、ウドンコ病、そしてベト病の襲来がきっかけでした。フランスでは1880年頃から、ドイツでは1920年代半ばから、フィロキセラに耐性のある米国の野生品種の交配が行われるようになりました。交配の試みはまもなく、台木において成果を上げました。
一方、病害に耐性のある栽培品種の交配はなかなか成果が上がりませんでした。ドイツでカビ菌に耐性のある品種が市場に登場したのは1990年代半ばになってからでした。最初に認可されたのが白ワイン品種のフェニックスと赤ワイン品種のレゲントでした。いずれもヴィーティス・ヴィニフェラ、つまりワイン用ぶどうといわれる欧州品種に属し、ウドンコ病とベト病、灰色カビ病にある程度の耐性があります。以前ご紹介した、ピーヴィー(PiWi)種と呼ばれるものです。
欧州の伝統品種はすべて、ウドンコ病とベト病に耐性がありません。これは致命的で、ぶどうを守るためには農薬散布が必須です。しかし米国やアジアの野生品種には、これらの病害に耐性のあるものがあります。ただ、これらの野生品種からは、欧州品種のような品質の良いワインができないという問題があります。
そこで、研究者たちは欧州品種と米国やアジアの野生品種を掛け合わせることで、双方の長所を備えたぶどうを得ようしました。その際、欧州品種と野生品種を1度掛け合わせるだけでは十分でなく、最初の交配で誕生した各々の新品種を、さらに別品種と掛け合わせ、それを納得の行く新品種が誕生するまで、何世代も続けます。
クローン選別では「選別」だけが人の手によって行われ、植物に対しては人工的に手を加えませんが、「交配」では人工的に授粉を行います。ぶどうは自家受粉するので、昆虫などの媒介の必要がありません。開花と同時に受粉が行われるので、人工交配は開花前に手作業で行い、母親となる品種の雄しべをあらかじめすべて取り除き、父親となる品種の花粉で受粉させます。その後、できたぶどうの房を収穫、得られた種をすべて植え、苗を育てます。
1年目はその中から丈夫な苗を選別し、2年目から4 年目にかけて、優秀な苗を選別していきます。その際、結実量、糖度、酸度、ぶどうの味、丈夫さなどが選別の基準となります。5年目から8年目は「初期検査期間」と言い、接ぎ木をして増やし、少量のワインを作って味を確認しつつ、選別を行います。9年目から14年目は「中間検査期間」と言い、これまでに選別した苗を、接ぎ木で増やし、少量のワインを作ってさらに選別します。このとき、実際に高品質のワイン生産が可能かどうかを選別基準とします。14年以降は「最終検査期間」と言い、やはり接ぎ木で増やし、少量のワインを作ってさらに厳しく選別します。中間検査期間までは通常1種類の台木を使用しますが、最終検査段階では、複数の台木を使うほか、複数のワイン産地で試験栽培を行います。1度の交配で、新品種が複数誕生することもあれば、成果がない場合もあります。
交配により、理想的な品種を得るには、このように長い年月がかかります。 例えばレゲントという品種は、最初の交配から30年の歳月を経て誕生しました。
イエズイーテンホーフ醸造所(ファルツ地方)
クラウス&モリッツ父子
イエズイーテンホーフは19世紀初頭に興った伝統ある醸造所。1980年代に醸造所を継ぎ、新風を吹き込んだのはクラウス&アンドレア・シュナイダー夫妻。2011年以降は、ガイゼンハイム大学を卒業した息子のモリッツが栽培・醸造においてさらなる磨きをかけている。ディルムシュタインの優れたぶどう畑、イエズイーテンホーフガルテン、ヘアゴッツアッカーなど計25ヘクタールを所有。主な栽培品種はヴァイスブルグンダー、リースリング、シュペートブルグンダー。ファルツ地方ではまれなジルヴァーナーにも挑戦している。最もポテンシャルの高い、単独所有畑でもあるイエズイーテンホーフガルテン(2.5ヘクタール)では ハイレベルのリースリングとシュペートブルグンダーを栽培している。
Weingut Jesuitenhof
Obertor 6
67246 Dirmstein
Tel. 06238-2942
www.jesuitenhof.de
2014 Jesuitenhofgarten Spätburgunder trocken Kleiner Garten
2014年産 イエズイーテンホーフガルテン、
シュペートブルグンダー「クライナー・ガルテン」辛口 18.00 €
イエズイーテンホーフガルテンのシュ ペートブルグンダーは実も房もコンパクトなフランスのクローン。「クライナー・ガルテン」は石壁に近い区画に植えられた樹齢12年のシュペートブルグンダーだけを醸造したもの。この区画はブルゴーニュの栽培法と同じく密植で、幹の高さも標準の90cmではなく40cm。土壌により近いところで実るぶどうはほかの区画より早く熟す。バリック(小樽) で熟成。ミックスベリーのコンポートのような豊かな果実味が印象的。