Hanacell

世界を動かすビジネスリーダーに聞く!ドイツ発グローバル時代を生き抜くチカラ

海外進出が、大企業だけではなく、中小企業や個人にとっても必要不可欠な選択肢となっている時代。欧州の中心部に位置する地の利を活かして、ドイツを活躍の拠点としているビジネスパーソンが見いだした海外での挑戦の意義や魅力とは?


第15回

建築で社会の仕組みを変える
ASOBU GmbH共同代表

和田健一郎 氏金田真聡氏&
永井宏治氏
Kaneda Masato&Nagai Koji

プロフィール


ベルリンを拠点とするASOBU GmbH は、持続可能な建築やまちづくりを目指す人材育成・コンサルティング会社。ベルリン在住建築家の金田真聡氏(右)と、ビーレフェルト在住建築・都市地域計画プランナーの永井宏治氏(左)が共同代表を務める。ともに講演や執筆活動も行っている。
www.asobu-gmbh.com

2018年、金田真聡氏と永井宏治氏が共同代表として設立したASOBU GmbHは、日本の企業や自治体向けに持続可能な建築や都市計画のプランニングのほか、ワークショップや研修を通じてドイツの環境建築やまちづくりについて学ぶ機会を提供している。その未来志向型の新事業について、共同代表の金田氏に話を伺った。

疑問を仕事につなげるチカラ

それぞれが別の分野で経験を積んできた金田さんと永井さん。ドイツに来た経緯を聞いてみると、どちらも個人的な体験がきっかけだった。「東日本大震災と福島原発事故があった2011年、私は日本の建設会社の設計部で働いていました。その当時、社会的な不安やエネルギー問題に対して何か建築を通して自分にできることがないかと考えました。そこで、思い切って環境建築の先端を行くドイツに来ることを決意。その後、現地の設計事務所に就職しました。

一方、永井は高校時代に足を怪我したことがあり、そのときに街中のバリアフリーに不便さを感じたことが、建築や都市計画に興味を持つきっかけになったと話しています。彼は大学時代に教授のすすめでドイツに留学し、そのまま現地の都市計画局やエコ建築研究機関で働いてきました」

金田さんも永井さんも、ドイツの優れた環境建築やできるだけ多くの人が便利に暮らせるようにと工夫されたまちづくりについて、実践を通して学んできた。そんなお二人は数年前に仕事を通じて出会い、同じ目標を持っていたことで共同で事業を始めるというアイデアが浮かぶ。「私たちには『持続可能な建物や街をつくりたい』という共通の目標がありました。それぞれが研鑽を積みお互いの得意分野が違ったので、一緒に仕事をしたら何か良いものをつくれるんじゃないかと思ったんです」

世の中に必要とされるチカラ

それから金田さんと永井さんは構想を練り、共同代表で2018年2月にASOBU GmbHを創業。顧客は日本の企業や自治体が中心だ。ASOBUが建物の設計ではなく、コンサルティングや人材育成をメイン事業にしているには理由がある、と金田さんは続ける。「個人の設計事務所では、実現できるプロジェクトの規模に限界があります。仮に、建物一つが環境に良かったとしても、それだけで環境に良い街をつくることはできません。そこでどうしたらいいかと考えたときに、プランナーやアドバイザーという立場であれば企業や自治体とともに大きなプロジェクトを実現できるのではないかと思ったんです。

例えばこれまでに、大手建築事務所の建材メーカーのコンサルティングのほか、自治体と一緒に環境建築のワークショップを企画したり、日本の学生のドイツ視察をオーガナイズしてきました。私たちがドイツで学んできたことが、少しずつ日本社会で活かされていると実感しています」

金田さんにとって、建築の世界のなかで環境に特化することは自分の強みになったと言う。しかし、渡独当初は苦労も多かったそう。
「ドイツ行きを決意した10カ月後に運よく設計事務所に採用してもらえたのですが、ドイツ語がままならない状態で……。言語ができない分、自分にしかできないことをしようといつも考えていました。例えば、すごく複雑な建築でも図面を隅々まで理解し、『ここはどうなっているの?』と聞かれたときに、必ず答えられるように心がけていました。ドイツ語は下手くそだけど、このプロジェクトに必要な人間だと思ってもらえていたと思います」

半年に1回の契約更新時には、どんな新しい技術が身についたのかを毎回の面談で発表できるようにしたと金田さんは振り返る。そうした下積みが、現在の働く姿勢の基本にもなっている。
「希少価値があって社会に貢献することができれば、世の中から必要とされるはず。ドイツで働き始めてから、そのことを常に意識していますし、特に外国で生きていくには必要なことだと思います」

持続可能性を高めるチカラ

ASOBUは欧州や日本の設計パートナーと個別に契約し、金田さんと永井さんも含む全員が在宅勤務で、フレキシブルにプロジェクトに関わるワークスタイルを採用している。「在宅勤務なら通勤時間がなくなって、その分家族と過ごしたり自分のために時間を使うことができますよね。環境に良い街や持続可能な社会を目指すためには、何かを我慢したり、犠牲にしなければならないのではないかと考えられがちですが、それ自体がすでに持続可能ではないと思っています。実際に、ドイツでは残業も休日出勤もなしに良い建物ができるわけです。

ASOBUでは自分の生活を犠牲にしない仕組みを積極的に取り入れています。普段は顔を合わせないパートナーたちとスムーズに仕事をするために、クラウド技術などを利用しつつファイル名の付け方から進捗状況まで、徹底して情報を共有。それはまさに効率化を図るドイツの職場で学んだことですね」 

2018年9月に実施された芝浦工業大学のドイツ研修より、永井さんの都市計画ワークショップの様子
2018年9月に実施された芝浦工業大学の
ドイツ研修より、永井さんの都市計画
ワークショップの様子

実は、そんなASOBUには働き方に関するセミナー依頼もあるという。建築だけでなく、まちづくりやライフスタイルの考え方を変えていくことは、社会をより豊かにするための一つの手段。日本のこれからを後押しするASOBUのミッションは、まだ始まったばかりだ。

 
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