Hanacell

サッカー大国の現場の最前線でドイツサッカーを支える日本人

サッカー王国ドイツ。この国で活躍する日本人選手に対する注目は、年を追うごとに膨らんでいる。そして、ドイツに挑戦の機会を求めてやってくる日本人の数もまたしかり。ここでは、生活の中にサッカーが根付くこの国で、選手というあり方以外で、ドイツサッカーを支える日本人にスポットライトを当てる。彼らの目から見たドイツサッカーのリアルとは。そして、彼らがドイツサッカーに魅了される理由とは……?

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プロゾーン日本担当アドバイザー
浜野 裕樹 Yuki Hamano

浜野裕樹さん

ケルン体育大学のサッカーコースを受講していた浜野裕樹は、2013年2月のある日、必修科目である情報処理・メディアテクノロジーの講義を受講するため早めに教室に入り、いつもの習慣で一番前の席に座った。すると目の前で講師であるシュテファン・ノップと同級生の学生が何やら話し合っている。

浜野が聞き耳を立てていると、どうやらサッカーの分析をテーマにしたセミナーのことらしい。彼が関心を寄せていることに気付いたノップが、「お前も興味があるか?」と声を掛けてくれたので、思わず「参加したい!」と即答していた。「それなら1カ月後にここに来い」

言われた通り、指定の場所に行ってみると、そこにはノップと30人以上の学生が集まっており、その場で、そこにいたメンバーでワールドカップ(W杯)に出場するドイツ代表のための対戦相手の分析を進めていくことが告げられた。
※ドイツ代表はこの時点では予選を戦っており出場未決定

浜野が状況を完全に理解するには時間が必要だったが、この日は、ドイツ代表の2014年W杯ブラジル大会での優勝を、データ分析面から支えることになった"チーム・ケルン"の立ち上げの日だったのだ。

ドイツに来るきっかけになったのは、大学受験を控えた高校3年生の春にふと手にとった日本体育大学の紹介パンフレットだった。

そのほとんどは卒業生や教授、在校生のインタビュー記事から成っていたが、パラパラとページをめくっていた浜野は、ほんの2ページほどの特集記事に目を留める。それは、日体大が提携関係にあるケルン体育大学への留学制度についての紹介と、留学生のインタビューだった。「これだ!」それまでドイツにもドイツ語にもほとんど触れたことがなかった浜野だったが、"日体大に行ってケルン体育大学に留学しよう"と決心した。もともとサッカーをしており、将来はサッカーの指導者になろうと漠然と考えていた浜野は、ケルン体育大学で指導者ライセンスを取ろうと心に決めた。

無事に日体大に入学した浜野は、ケルン体育大学への留学資格を得ることのできる4年生になるまでの間に、ドイツ語をみっちり勉強し、2010年9月に晴れてケルン体育大学への留学を果たす。そして1年間の留学を経てドイツにすっかり魅せられた浜野は、2012年3月に日体大を卒業すると、今度はケルン体育大学の正式な学生となるため再びドイツの地を踏む。この時はまだ、半年後に自分がドイツ代表のサポートチームに加わることになるとは夢にも思っていなかったのだが……。

チーム・ケルンでは分析を一から学んだ。元来、サッカーは野球などと比較してデータ化が難しいスポーツと言われていたが、近年は軍事技術を転用したトラッキングシステムやGPSを活用した位置情報データなどのテクノロジーの進歩をベースに、ピッチ上のあらゆるプレーのデータを収集し、解析する試みが急速に進んでいる。

サッカー経験者、さらに指導者としての勉強も始めていた浜野だったが、分析に関してはほかの学生と同様、全くの素人だった。それでも持ち前の好奇心と粘り強さでデータ収集・整理のコツを少しずつ掴んでいった浜野は、ドイツ代表のオーダーに応じて対戦相手の分析を行うことで、後に世界を制覇することになるドイツの最先端の戦術に触れることのできる喜びを感じるようになっていく。

W杯本大会に向けて、浜野は事前に割り振られた4チーム(ブラジル、イタリア、ガーナ、韓国)のセットプレー(コーナーキックやフリーキック)の分析を任された。

相手チームがセットプレーを得た場合、誰がキッカーを担当するのか。それは位置や試合展開、時間帯等によって変わるのか。また、攻撃時と守備時それぞれのセットプレーの戦術や選手の位置関係、マークする選手の担当はどうなっているのか。浜野は4チームの試合映像を大量に仕入れ、その中で行われたセットプレーの一つひとつをつぶさにチェックしていった。

それはとても地道で根気のいる作業だったが、ドイツがガーナ戦やブラジル戦でセットプレーから得点をしたことで浜野の努力は報われた。仲間から「おいユウキ、お前の分析のお陰だな!」と冷やかされながらも、なんとも言えない幸福感と充実感を味わったのだった。

ドイツ代表がW杯を優勝という最高の結果で締めくくった後、チーム・ケルンのメンバーはそれぞれのフィールドへ進んで行った。1.FCケルンやボルシア・メンヒェングラッドバッハの分析担当になった者もいれば、指導者になった者、スカウトの道を選んだ者もいる。

浜野裕樹

浜野の中には一つの新たな夢が芽生えていた。
「チーム・ケルンで得た経験、ノウハウを日本サッカーのために活かしたい」

"チーム・トウキョウ"を作って日本代表の強化に貢献したいという思いを実現するため、2015年10月、浜野はProzone(プロゾーン)の日本担当アドバイザーに就任した。プロゾーンこそは、ドイツサッカー協会を全面的にサポートしている同名データ分析ソフトのデベロッパーである。プロゾーンがあったからこそ、ドイツ代表がチーム・ケルンによるデータ収集・分析を最大限に活用することが可能となり、ワールドカップを制することができたといっても過言ではない。

「このプロゾーンをJリーグのクラブにも使っていただくことで自チームや対戦相手の分析が進み、日本のサッカーが更にレベルアップすることに貢献できたらこんなに嬉しいことはありません。いつか日本代表がワールドカップで躍進するために自分にできることは、何でもしていきたいと思います。」

浜野は今、日本のサッカー関係者にプロゾーンの有用性を理解してもらうため日夜奔走している。

浜野裕樹は、おそらくW杯優勝を経験した唯一の日本人だ。浜野の夢が叶うときは、日本サッカーの夢が叶うときかもしれない。

 
柳田 佑介(やなぎだ・ゆうすけ)
公益財団法人日本サッカー協会登録仲介人
1977年チリ・サンティアゴ生まれ。東京大学法学部を卒業後、日本貿易振興機構(JETRO)に入構。2008年株式会社ジャパン・スポーツ・プロモーション(JSP)に転職し、日本サッカー協会公認代理人資格を取得。2013年渡独、2015年には当地で独立し、フリーランスとして活動している。
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