ここ数年、ベルリンにある馴染みのお店が突然閉店するという話を聞く機会が増えたように思います。建物全体が投資会社に買われ、それによって家賃が一気に高騰。店を続けることが困難となり、廃業に追い込まれるケースが目立ちます。
商店やレストランだけではありません。クロイツベルク地区にあるドイツ最古の映画館といわれるMoviementoも、現在売却の危機に。2007年からこのインディペンデント系映画館を率いているヴルフ・ゼルゲル氏が地元紙に語ったところによると、昨年10月、映画館に不動産業者が突然現れ、施設の鑑定と売却を告知してきたといいます。「最初は悪い冗談かと思いました」とゼルゲル氏。
コトブサー・ダム22番地にある映画館Moviemento
最終的な売却額は186万8000ユーロにも及んだとか。しかし、ゼルゲル氏は諦めず、それならば自分たちで映画館を購入しようと決意。改修費に充てるつもりだった蓄えをかき集め、さらにクラウドファンディングで資金の提供を募りました。第一段階の目標を10万ユーロと定め、これまで1500人以上の支援者により8万3000ユーロもの寄付が集まっています。
U8のシェーンラインシュトラーセ駅前のMoviementoに足を運んでみました。一見ごく普通の集合住宅の一角に映画館があり、階段を上がると、歴史を感じさせる受付ロビーが見えてきます。小規模ながらも大小3つの上映ホールがあり、さらにイベント等に使えるバーも完備。1907年にオープンしてから施設の名称や経営者は何度も変わりましたが、映画文化は連綿と受け継がれてきました。1980年代には、後に著名な映画監督になるトム・ティクヴァがここで映写技師として働いていたこともあります。
壁一面に映画のポスターが貼られたMoviementoの受付ロビー
平日の午後ということもあり、客席には私のほかに2人いただけ。静かな雰囲気のなか、久々に映画館で過ごす時間はやはりいいものでした。上映前のコマーシャルでは、さまざまな映画人や地元のファンがMoviementoへの支援を呼びかける映像が流れていました。
党派を問わず、地元の多くの政治家もこの映画館への連帯を呼びかけていますが、具体的な対策を講じるのは難しい現状があります。家賃の値上げを原則禁止するなど賃貸住宅への法律が整備されつつある一方、映画館などの文化施設には売却額の上限等を定める法律がないからです。
映画館への支援を呼びかけるコーナー
「文化や芸術を守ることができるのか、社会に対して問いかけたい」と話すゼルゲル氏。100年以上もの時間を堆積してきた映画館の雰囲気は、一度失われるともう元には戻りません。
Moviementoのクラウドファンディング:www.startnext.com/en/moviemento