老後への備え
「高齢時の住まいの形」①
人は歳を取るほど、新しい環境には馴染みにくいものです。ドイツには「Alte Bäume soll man nicht verpflanzen.(老いては居を移さず)」ということわざがありますが、平均寿命が延びた現代、「足腰が衰えて段差や階段がきつい」、あるいは「買い物や病院が遠くて困る」という理由から、住み慣れた家からの引っ越しを余儀なくされることがあります。ですから、家を建てたり、長期間住む予定の住居選びには、その時点でのご自身やお子さんの状況のみならず、お子さんが家を出た後のこと、またご自身の老後も考えて、長く暮らせる家を念頭に生活設計を行うべきなのです。
しかし、多くの人は、残念ながらそんなことは考えもしなかったというのが現実でしょう。人は、自分が病気になったり、障害を持つようになるとは考えたくないものです。そういう状況になって初めて不自由さを知り、引っ越しを考える人がほとんどです。または、引っ越すこともせず、そのまま介護付きホームに移るということもあるようです。お子さんの住居やその近所に引っ越す場合には、新居選びから引っ越しまで、お子さんの支援を得られて容易にできるかもしれません。しかし、そういった場合でも、高齢者用住居を元気なうちに自分で選んでおくことができたら、自身もほかの人もずっと楽なはずです。
以前、本コラムで取り上げた、Lさんが住む集合住宅(973〈2014年3月7日〉・975号〈4月4日発行〉)は、高齢者用住宅のお手本とも言える集合住宅でした。今回は、一般的に言われる「高齢者用住居とは何か」について考え、ご紹介したいと思います。
高齢時の収入を考える
ドイツにおいて高齢者用住宅について考える際、絶対に忘れてはならないことに収入が上げられます。日本でも同じですが、高齢時は現役で働いていた時代よりも大幅に収入が減ります。個人差はあるものの、通常、退職後の収入は年金と自身で掛けた年金保険が基本となり、年金は就業時の収入よりかなり少なくなります。フランクフルター・アルゲマイネ紙によれば、2013年度のドイツの年金受給額の平均は夫婦で2433ユーロ(月額)、男性1人では1560ユーロ(同)、女性1人では1292ユーロ(同)だそうです。この金額では、高齢者用住居を考える場合、経済的な制限が出てきます。
居住資格証明書の活用
そこで、低収入の高齢者が検討してみるべきなのは、WBS(居住資格証明書=Wohnberechtigungsschein)と呼ばれる制度です。これは、市や郡の住宅福祉振興策(Soziale Wohnraumförderung)により助成されている住宅に住むための資格証で、高齢者用住宅もその対象に入っています。
居住資格証明書は、住宅を探している人とその同居者の全収入が一定額を超えていないことや、本人や同居者に株や不動産・貯蓄など、高額の財産がないことが条件です。例えば、デュッセルドルフ市では現在、条件としての名目収入(Bruttoeinkommen)の上限は成人1人で年間2万8287ユーロ、2人では3万9954ユーロで、1人なら50㎡のアパート、2人なら2部屋あるいは65㎡のアパートの居住資格が得られます。ちなみに、ベルリン市の収入の上限は、1人なら1万6800ユーロ、2人は2万5900ユーロです。この収入証明のほか、外国籍の人は最低1年間有効なビザが記載されているパスポートも提示します。申請する市以外に住んでいる場合には、現在の居住地の住民登録証が必要です。なお、WBSは1年間有効です。
対象となるアパートは、助成のないアパートに比べて割安で、中には新築物件もあります。ご興味のある方は、市の住宅局に問い合わせてみるか、都市名とWohnberechtigungsscheinのキーワードでインターネット検索をすると、ほとんどの自治体で書式のダウンロードが可能です。
講習会情報
・障害がある人の食事介助方法(知識とテク二ック)
・不随が伴う人の移動補助の方法
期日 | 6月21日(土)14:00~17:00 |
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講師 | 斎藤絵里(介護士) 勝見舞、平松・Fischer由紀子(共に看護士) |
場所 | デュッセルドルフ日本クラブ |
費用 | 日本クラブ、DeJaK-友の会会員は無料 非会員3ユーロ |
申込 | Tel. 0211- 179206-0(日本クラブ) |
邦人の老後を考え行動する会「DeJaK-友の会」代表。ネット作り、情報の共有化の活動に対し、NRW州健康省大臣より表彰を受ける。著書に『日本語でどうぞ』『Bildwörterbuch zur Einführung in die japanische Kultur』など。