ドイツのホームでの生活
現場から その2
私が現在勤務している老人ホームは、キリスト教、とりわけカトリックの教えを大事にし、それを実行に移すべく尽力している教会主導による施設です。そうは言っても、この施設内で入居者および従業員にキリスト教の信仰を強要することはありません。
また、民間企業の経営・管理による施設もあります。私が以前、勤務していた老人ホームにはこのタイプの施設もありました。そこでは、教会の影響は少なく、入居者および従業員の宗教は、キリスト教をはじめ、イスラム教、ユダヤ教、仏教と様々で、ナショナリティーもドイツ人のみならず、トルコ人、ロシア人、イラン人、日本人、台湾人、コンゴ人と実にマルチカルチュラルな老人ホームでした。
このように、老人ホームを経営・管理する組織が持つ背景や性質に相違はありますが、介護の内容は大きく変わらず、基本の形が決まっています。それぞれの施設は、サービスの質の管理について外部、すなわち保健所やメディカルサービス機関(MDK)、ホーム監督機関による監督および審査を受けます。細部にわたって施設のクオリティーが問われ、その結果は公表されることになります。この審査はとても厳しいもので、良い結果が出れば問題ありませんが、結果によっては、入居制限を受けたり、ホームの存続にかかわる事態になったりすることもあります。審査結果は、一般の人でも見ることができます。
【ドイツの老人ホームでの1日】
ここで、老人ホームでの1日の流れをご紹介したいと思います。
介護士の朝の仕事は7時頃から始まります。朝の介護をするために入居者を順番に訪れてケアをし、8時頃から朝食。できる限り個々人の要望や健康状態に見合った朝食が用意されますが、入居者が自分で準備することももちろん可能です。薬を服用する場合は、資格を持つ看護師から渡されたものを服用します。
10時半頃からは、グループあるいは個人での活動をします。私は、この時間に音楽を取り入れた内容の活動を入居者に提供しています。ほかに、ビンゴや絵画、記憶トレーニング、美容、編み物、ダンス、料理など様々な活動が行われます。そして、12時からは昼食。13~14時頃は昼休みの時間となり、多くの入居者がお昼寝をします。
14時半頃になると再び起きて、コーヒーとケーキで寛いだひと時を過ごします。15時半からは、午後のグループ/個人活動。17時半頃から夕食の準備が始まり、夕食をいただきます。その後、19時から映画鑑賞会を催すこともありますが、日が暮れると就寝の準備が始まります。そして20時には大半の入居者がそれぞれの部屋に戻り、テレビを観たり、共同の休憩所に数人で集まってワインを飲んだりと、思い思いの時間を過ごします。中にはカードのグループ活動を自主的に催している方たちもいらっしゃいますが、1日の活動で多くの方々は疲労を感じ、早めに就寝されます。
さらに、年間を通して月に一度は大きな催し物が企画されます。これは入居者の方にとってはホームでの生活のハイライトで、その日のためにきれいな洋服を着たり、ヘアサロンを訪れたり
と、気分転換をします。こういったことも大事な活動の1つです。
基本的には、上記のような構成になっていますが、前回もお伝えしたように、バイオグラフィーに沿った介護が重要な意味を持ちます。入居者それぞれに合った生活のリズムと様式が尊重さ
れ、それが遂行されることが一番大切です。
- Katholisches Altenheim (n) カトリックの老人ホーム
- Privat Altenheim (n) 民間企業の老人ホーム
- MDK (m)
(Medizinischer Dienst der Krankenversicherung)
健康保険会社共同のメディカルサービス機関 - Heimaufsicht (f) ホーム監督機関
(m)男性名詞、(f)女性名詞、(pl)複数
国立音楽大学楽理科卒業。1984年渡独。ドイツの療法士養成所で音楽療法士の資格を取得。
2007年より老人施設の社会課に勤務。現在就業のかたわら大学にて、文化教育学を学ぶ。
公益法人DeJaK-友の会賛助会員