1870年、ハンブルクの隣町ヴェーデルで生まれたエルンスト・バーラッハ(1938年没)。彫刻家、デザイン画家であり、作家でもあった彼の作品が、ハンブルク市内のイェーニッシュ公園(Jenischpark)の中にあるバーラッハ・ハウスに集められています。
そこに聖書を題材にした作品があるらしいと聞いて、早速行ってみることに。そこで私が目にした作品からは、「バーラッハの表現したかった世界」というものが如実に伝わってきました。それもそのはず、バーラッハは20世紀初頭表現主義の重要な芸術家の1人で、彼の信条は「言葉で表現できないものを形によって表現し、他者に提供すること」だったとか。彫刻作品のほとんどは人物像で、実際の人間よりやや小さめです。物乞いをする人や兵士など、虐げられている人々を題材にした作品が多く、素朴で朴訥(ぼくとつ)とした力強い作風からは、社会的な弱者とみなされている人々に対するバーラッハの温かい視線が感じられました。
緑の公園内のバーラッハ・ハウス
1927年に完成した第1次世界大戦の犠牲者のための記念碑が、国のために戦う情熱を否定したものとみなされ、ナチス時代にはバーラッハの作品は「民族の名誉を傷つける堕落した芸術」として社会的に排除されたそうです。しかし戦後、彼の名誉は回復され、1962年に現在の場所に彼の作品を集めた美術館がオープンしました。
また、バーラッハは神の探究者としても知られていて、聖書を題材にした作品も展示されています。中でも復活したキリストと弟子が出会うシーンを表現した「再会」という木彫には、人の心を惹きつけるものがありました。キリストの手足には十字架に釘づけられた跡が残り、一方、弟子はキリストが十字架に架けられる時、キリストを見捨てて逃げてしまったという負い目からか、その表情には再会の喜びというより戸惑いの表情が見られます。その弟子をキリストは穏やかな表情で見つめ、大きな手で引き寄せているのです。人間の弱さを赦し受け容れたキリストの大きな愛を感じました。
また「犠牲」というタイトルの十字架に架けられたキリストの石膏像は、その他の多くの十字架像と違って、うなだれているのではなく、しっかりと上を向き、しかも穏やかな、どちらかというと喜びの表情をしていることが強く印象に残りました。
イェーニッシュ公園は、S1のクラインフロットベック(Klein Flottbek)駅から徒歩10分の場所にある、緑豊かでゆっくりと散歩するのに最適な公園です。また、公園内にある16~18世紀の上流邸宅「イェーニッシュ・ハウス」の見学もできます。入場料はバーラッハ・ハウス6ユーロ、イェーニッシュ・ハウスと共通券8ユーロ、12歳以下無料。
復活したキリストと弟子の再会
ハンブルグ日本語福音キリスト教会牧師。イエス・キリスト命。ほかに好きなものはオペラ、ダンス、少女漫画。ギャップが激しいかしら?