ハンブルク州立劇場の専属俳優の原サチコさんが2019年2月、古巣であるハノーファー州立劇場で「ヒロシマ・サロン」を開催しました。広島の原爆投下についてのパフォーマンスを披露したほか、核問題についてのトークや日本の歌謡曲のカラオケなど多彩なプログラムで100人以上の観客が楽しみました。
原爆投下の様子を伝えるパフォーマンス
パフォーマンスでは、サチコさんが演じる女の子が戦時中の広島で生きるなか、突如原爆が投下され、そのときの様子を表現。光と影、また映像を使いながら臨場感を出し、多くの人が傷つき亡くなった無念さや、妖怪のような顔になってしまった少女のやるせなさをドイツ語と日本語で伝えます。普通の人々の暮らしを一瞬で壊してしまう原爆の恐ろしさに 、観客はしんとして舞台を見つめていました。日本では原爆について学校で教わり、皆よく知っていますが、ドイツの人の中にはよく知らないという人も少なくありません。サロンは原爆や平和について興味がない人にも、考えるきっかけを与えるてくれます。また、お釜で炊いたご飯を食べたり、折り紙の鶴が出てきたりという日本の小道具が登場し、日本らしさを演出していました。
「ヒロシマ・サロン」はもともと2011年1月、当時ハノーファー州立劇場の専属俳優だった原サチコさんが、広島が姉妹都市のハノーファー市で始めた「広島の今及び日本の今」を紹介するプログラムでした。広島はもちろん福島原発事故後は福島を訪れるなど、原さんが撮影したビデオを使いながら、日本の様子や平和について語りかけます。平和活動に尽力してきた被爆者の故・林壽彦さんのインタビューを毎回上映し、林さんの「私は40年余り両都市に働きかけてきました。まだまだ仕事は終わっていません。両都市の若い人が世界平和へ向けて何ができるか楽しみにしています」というメッセージを伝えています。サロンでは、日本の歌の紹介やコスプレイヤーによるカラオケ、お寿司の振る舞いなどもあり、楽しい催しです。原さんは東京やワルシャワなども含め総計40回サロンを開催してきましたが、今夏スイスのチューリヒ劇場に移籍するため、ハノーファーでの開催は最後でした。
パフォーマンスにはベルリン在住の音楽家・内橋和久さんが作った曲が使われ、雰囲気を盛り上げました。内橋さんは「74年前のこの悲劇を音楽で伝えることはできませんが、少しでも観客の心に何かが残るようなものにしたいと思って作りました」と話し、観客からも好評でした。パフォーマンスの後は、平和活動をするブラウンシュバイク在住のパウル・コッホさんが核廃棄物最終処分場について、またハノーファー在住のハイデマリー・ダンさんがドイツ国内の米軍基地ビュッヘルに核兵器が置かれている現状について話してくれました。私も少し福島について話しましたが、残念ながら途中で時間切れに。内容の濃い催しで、平和について考えつつ、あっという間の2時間でした。
最後に関係者全員と観客と記念撮影
日本で新聞記者を経て1996年よりハノーファー在住。社会学修士。ジャーナリスト、裁判所認定ドイツ語通訳・翻訳士。著書に『市民がつくった電力会社: ドイツ・シェーナウの草の根エネルギー革命』(大月書店)、共著に「お手本の国」のウソ(新潮新書) など。