スーパーにずらりと並ぶネコの餌、これらは体にいいのでしょうか、何が入っているのでしょうか。そんな疑問を抱いたベルリン在住の藤川志野さんは、ネコのホリスティックなごはんをテーマとしたビジネス「kuronogohan(クロのごはん)」を昨秋立ち上げました。 ハノーファーのアート展で知り合った藤川志野さんの活動についてご紹介します。
愛猫クロちゃんとのポートレイト
広島出身の藤川さんは地元で働きながら、2006年に初めてニューヨークに1年留学したほか、世界各国を旅しました。2011年にニューヨークに移住し、レストランで働きながらアートの学校に通ったそうです。ニューヨークで愛猫クロちゃんに出会ったのは2016年。ある日藤川さんは、「愛猫が毎日食べている猫缶やカリカリ、私が食べても平気なのかな」と考えます。それから独学でクロちゃんに手作り食を与え、ネコのホリスティック栄養学の授業を受けるなどして勉強するようになりました。実際に自然食を始めてみると、ネコの外見や排泄物に大きな変化が見られ、おいしそうにごはんを食べてくれることに感激したといいます。この経験から「愛猫の栄養について不安な人、純粋にかわいいネコに幸せになって欲しいと思う人に向け、少しでもお役に立てれば」と考えるようになりました。
ニューヨークに8年間住んだ後、縁あって2019年秋からベルリンに住んでいる藤川さん。コロナ禍を機に時間ができたこともあり、ネコの栄養学を広めようと思い切って起業しました。ネコの栄養学の講座やワークショップを開き、ネコの体の構造や消化システム、習性を理解してもらうことから始めます。
スタンドを構えてお手製のバッグや猫のおもちゃ、絵葉書を販売
ホリスティックは「全体」という意味があり、物事の全体を捉えながら包括的に考えます。「等身大でいれられるためには、人間、ネコ、それぞれの正しい食性を知ること」という藤川さん。講座やワークショップをメインに、ネコごはんのコンサルタントやレイキヒーリング、オーガニックの猫おもちゃの制作もしています。フリーマーケットでスタンドを構え、絵葉書やグッズを販売しつつアピール。また、4年一緒に過ごしたクロちゃんは、残念ながら2020年に不慮の事故で亡くなりました。この経験から「いずれペットロスカウンセラーの資格を取り、大切な動物を亡くした方の心のお手伝いもしたい」と考えています。売り上げの一部は動物愛護団体へ寄付しているそうです。
藤川さんの活動を見ていて感じるのは、情熱を持ってわくわくしながらやっているということ。コロナ禍で先が見えない時代、好きなことを追求することが、ある種の突破口となるのかもしれません。 自分の強みと興味を生かし、ネコと人間が自然体で幸せに生活することを目的とした新ビジネスは、閉塞感漂う現代社会に新しい風を吹かせてくれそうです 。
kuronogohan:www.kuronogohan.com
日本で新聞記者を経て1996年よりハノーファー在住。ジャーナリスト、法廷通訳・翻訳士。著書に『なぜドイツではエネルギーシフトが進むのか』、『市民がつくった電力会社: ドイツ・シェーナウの草の根エネルギー革命』、共著に『お手本の国」のウソ』(新潮新書)、『コロナ対策 各国リーダーたちの通信簿』(光文社新書)など。