ドイツで産業革命が起きた19世紀半ば~後期は、グリュンダーツァイト(Gründerzeit)と呼ばれます。当時、凝った装飾を施した重厚で華やかな建物が多く建てられました。しかし、1990年の東西ドイツの統一前後から激しい人口流出を経験したライプツィヒでは、グリュンダーツァイトに建てられた歴史的建造物にも空き家が目立つようになり、補修・改修工事が行われないまま、劣化が進んでいる建物が多くあります。
空き家状態が長く続くと、建物の老朽化は加速します。そこで2004年、「ハウスハルテン(直訳:家を守る)」という市民団体が発足し、空き家を救う活動を開始しました。この団体は、空き家の家主と利用者との間を取り持つ「ヴェヒターハウス(守り人の家)」というプロジェクトのほか、2011年からはセルフリノベーションを施した共同住宅 「アウスバウハウス(AusBauHaus)」の管理を行っています。
グリュンダーツァイトに建てられた歴史的建造物。
現在、アウスバウハウスとして再建中
アウスバウハウスの対象となる物件は、都市計画という視点で重要な位置を占め、歴史的建造物として文化的な価値を持つ建物です。ヴェヒターハウスの対象物件が5年の利用期限付きで、しかも居住を前提としていないのに対し、アウスバウハウスでは、家主の意向に沿って期限付きないし無期限のどちらの利用方法を取るかが決められ、家主と利用者の双方が、居住を含む長期的な視点で建物の利用計画を立てられる仕組みになっています。格安な家賃で物件を貸し出しているため、屋根の防水と基本的な設備系統以外、補修・改修工事は利用者の責任範囲となります。しかし、建物の状態があまりに劣悪で、専門技術者や建築家、構造家を必要とする場合は、ハウスハルテンが仲介支援を行います。
天井に装飾が施されている改修前の部屋
ライプツィヒに目立つ空き家の家主のほとんどは、ミュンヘンやフランクフルトなど、旧西ドイツ地域在住で、大金を投資して改修工事を施し、部屋を貸し出すことはまずありません。発展に時間が掛かりそうなライプツィヒでは、家賃回収の目処が立たないからです。アウスバウハウスの特徴は、家主にとっては改修目的の投資をしなくても建物の劣化を避けることができる上、家賃収入も見込めるということです。
アウスバウハウスのさらなる目的は、人生の形成期にある若い世代の支援です。クリエイティブな仕事に就く人やこれから所帯を持とうとしている人たちが、自由な住環境で自立した人生計画を立てられるよう手伝っているのです。この試みは若者たちに、完成した住宅を与えられるのではなく、自らの手で住環境を整えることで、人生の価値を築いていく可能性を示すものと言えるでしょう。
福岡県生まれ。東京理科大学建築学科修士課程修了後、2003年に渡欧。欧州各地の建築設計事務所に所属し、10年に「ミンクス.アーキテクツ」の活動を開始。11年よりライプツィヒ「日本の家」の共同代表。www.djh-leipzig.de