半世紀以上の伝統と権威を誇り、若手音楽家の登竜門として名高いARDミュンヘン国際音楽コンクールが、今年で60回目を迎えました。同コンクールのユニークな点は、弦楽器や管楽器、鍵盤楽器、声楽、打楽器、ハープ、たて笛など、全28部門の中から毎年3、4部門が選ばれることです。今回はピアノ、オーボエ、トランペットに加えて、「楽器の王様」と言われるパイプオルガンのコンクールが12年ぶりに開催され、私はパイプオルガンの若手トップが集まるオルガン部門のセミファイナルを観に行ってきました。
会場は、ミュンヘンの南西115キロに位置するメミンゲン(Memmingen)近郊のオットーボイレン修道院教会(Basilika Ottobeuren)。ここにある1766年建造の美しいオルガンが使われました。開催数日前の嵐で教会の窓ガラスが割れるというハプニングがありましたが、急遽楽器のメンテナンスが行われ、無事開催の運びとなりました。
「楽器の王様」と呼ばれる美しいパイプオルガン
さて、コンクール参加者にとっては、2時間半という短いリハーサル時間に、この歴史ある楽器の特徴をいかに掴んで弾きこなすかが重要な課題の1つとなります。オルガンにはそれぞれ個性があり、例えば今回使われたのは古典的な美しい響きを持つ楽器でしたが、現代のものより鍵盤やペダルが短く、可能な音の組み合わせにも限りがあります。つまり、「どう弾けば最も美しいプロポーションを持つ音を作れるか」を事前に見付けることが、曲の魅力を最大限に引き出すための鍵となるのです。また、高い場所にある演奏者の席と聴衆席では音の響き方が異なるため、演奏者は録音して音の出方を研究するなどの努力もしていたそうです。
ファイナルは、ミュンヘン音楽大学とガスタイク文化センターで2日間にわたって行われ、見事1位の栄光に輝いたのはオーストリア人のミヒャエル・シェーヒさん。確かな演奏技術に加え、曲の解釈と表現の豊かさ、オーケストラと共演した際の音のバランスが高く評価されていました。
セミファイナル会場となったオットーボイレン修道院教会
コンクールの各部門の入賞者は、バイエルン放送交響楽団と共演することになっています。なお、予選は無料で公開されており、セミファイナルとファイナルは有料ですが、10~20ユーロと大変リーズナブルです。
難関とされる同コンクールには日本人の参加者も多く、歴代の3位までの入賞者は56人に上ります。今年は全部門合計で19人の日本人が挑戦し、ピアノ部門で津田裕也さんがセミファイナル進出を果たしました。
www.br-online.de/br-klassik/ard-musikwettbewerb
2002年からミュンヘン近郊の小さな町ヴェルトに在住。会社員を経て独立し、現在はフリーランスとして活動中。家族は夫と2匹の猫で、最近の趣味はヨガとゴルフ、フルート。