今回も、またまたシュトゥットガルト近郊の町エスリンゲンについてです。先日、2〜3年おきに開かれるエスリンゲンの「水辺の文化祭(Stadt im Fluss)」が開催されました。2013年にStiftung“Lebendige Stadt(活気溢れる町)”という財団により、ドイツで最も素晴らしい文化祭と称賛された文化祭です。ネッカー川や複数の小さな運河に囲まれているエスリンゲンの町は、この文化祭の期間中、旧市街地の歴史ある建物を背景に、街角のあちこちが小さなステージに姿を変えます。かつて、本コラム(第685号、2007年10月19日発行)で「街頭オペラ祭」について書きましたが、今年はまた違った印象を受けました。
まずは舞台セットですが、4度目となる今回も、前回や前々回と同じものは1つとしてなく、また今年は、難民や移民、人種差別といった、現在最も関心の高い社会問題がテーマとなっていました。
駅前通りからまっすぐ進んだ橋の真ん中に、大きなテーブルとたくさんの椅子の舞台セットがありました。ここで演じられていたのは、老人ホームの食卓。ストーリーは、50人あまりの老人と2人の若い世話係。しかもこの世話係は、いずれも移民2世という設定でした。ドイツの高齢化社会を象徴的に、そしてこれを支えているのはほかでもなく、たくさんの移民やこれからさらにやって来るであろう若い難民たちかもしれない、というメッセージが伝わってきました。
橋の真ん中に現れた「老人ホームの食卓」
裁判所前の広場では、黒人に対する人種差別撲滅をテーマにした演劇や、若者同士の友情をダンスやアクロバットと演劇を組み合わせて表現したショーが、新市庁舎前でありました。
驚いたのは、いつも通りかかるデパートの一角が即席ステージになっていたこと。普段はショーウインドーであるその空間を舞台にし、音楽や会話はスピーカーを通して聞くことができる仕組みで、人々は外から観て楽しんでいました。
即席ステージとなったデパートのショーウインドー
芸術的な面から見ても、素敵なシーンがたくさんありました。サンパウロ教会(Münster St. Paul)では、歌によるインスタレーションがありました。ゴシック教会の独特な音響空間を利用した、面白い作品でした。基本は聖歌隊のコーラスなのですが、舞台は設置されておらず、歌い手が教会内にランダムに配置されていました。柱やどこかに身を隠しながら、それぞれのパートを不規則にずらして合唱することで、不思議な音響効果を作り出していました。目を閉じて聞いていると、空間が上下左右に無限に広がるように感じ、どこまでも続く回廊にいるような気分になりました。
文化祭の脚本と監督を手掛けたのは、シュトゥットガルト在住のフリーの舞台監督ヴィルフレッド・アルト(Wilfried Alt)さん。今年、バーデン=ヴュルテンベルク州とシュトゥットガルト市から、舞踊・舞台賞を受賞したばかりです。次回の文化祭が、もうすでに待ち遠しいです。
www.esslingen.de/,Lde/start/es_themen/stadtimfluss.html
中国生まれの日本国籍。東北芸術工科大学卒業後、シュトゥットガルト造形美術大学でアート写真の知識を深める。その後、台北、北海道、海南島と、渡り鳥のように北と南の島々を転々としながら写真を撮り続ける。
www.kakueinan.wordpress.com