2013年は選挙の年である。日本では7月に参議院議員選挙が、ドイツでは9月に連邦議会選挙が実施される。総選挙となる連邦議会選に向けての各政党の動向や主張が、ドイツでも連日盛んに報道されている。日本とドイツの議会制度の違いやドイツの政党など、選挙報道をより深く理解するために必要な知識を身に付けよう。
日本の衆議院とドイツの連邦議会
ドイツも、日本と同じく二院制を採用している。日本の衆議院に当たるのが、今年9月に総選挙となる連邦議会だ。単純に両制度を比較することはできないが、それぞれの特徴をまとめると【表1】のようになる。
【表1】日本の衆議院とドイツの連邦議会
日本 | ドイツ | |
名称 | 衆議院 | 連邦議会 |
---|---|---|
議員定数 | 480人 | 598人 |
任期 | 4年 (衆議院解散の場合には、 その期間満了前に終了) |
4年 |
選挙権 | 満20歳以上 | 満18歳以上 |
被選挙権 | 満25歳以上 | 満18歳以上 |
選挙区 | 小選挙区:300人 比例代表選出:180人 |
小選挙区:299人 比例代表選出:299人 (超過議席あり) |
解散 | あり | なし※例外規定あり |
ドイツでは、小選挙区制を加味した比例代表制を採用している。1票目で小選挙区の候補者を選び、2票目で比例代表区の政党を選択する。小選挙区で得票が一番多かった候補者は、所属する政党に関係なく当選する。これにより、各選挙区から少なくとも1名の議員が連邦議会に送られることになる。
2票目により、政党の相対的な力が示され、どの政党や同盟から連邦首相を選出するかが決まる。得票率が全投票数の5%に至らなかった政党は議席を獲得できない。この阻止条項は、「5%のハードル」と呼ばれる。これは、第1次大戦後のワイマール共和国時代に小政党が乱立した結果、政治の混乱を招き、ナチスの台頭を許した背景から、政治体制の安定を目指して導入された制度だ。
2票目の得票数に合わせて各政党の議席数が確定する。その際、各州での得票に応じて州ごとに議席数が決められる。まず小選挙区で当選した候補者(各選挙区から1名)に議席が割り当てられ、残りの議席には各州の比例代表の名簿から補充される。比例代表の名簿は、選挙前に各政党によって準備される。
定数598議席中半分に当たる299議席が、小選挙区からの当選者で占められ、残りの299議席が比例代表分となる。小選挙区からの得票は非常に重視されていて、小選挙区で当選した候補者数が、比例代表枠の議席数を上回る場合、その候補者の議席は確保される。この議席のことを超過議席と呼ぶ。現在の連邦議会は620議席であり、これは2009年の総選挙で22の超過議席が発生したことを意味する(うち2名はすでに議員辞職している)。
選挙権と被選挙権の年齢
ドイツでは、選挙権は18歳から発生する。日本の20歳からというのは世界的にみても遅い方で、欧州では、ほとんどの国で選挙権年齢が18歳となっている。日本では、選挙権と被選挙権の年齢を分けているが、ドイツでは選挙権を持つと同時に被選挙権も発生する。18歳の政治家が現れる可能性もあるのだ。
解散について
日本の衆議院では、解散総選挙が多い。戦後、任期満了を迎えた衆議院議員選挙は1976年の1回のみである。ドイツでは、連邦首相の指名選挙を3回行っても首相が決まらない場合には、議会が解散される。また、連邦首相の信任決議案が否決された場合には、首相の助言により連邦大統領が議会を解散する。この方法で連邦議会が解散したのは戦後、3回のみである。
日本の参議院とドイツの連邦参議院
948 号(2013年2月15日)でも触れたが、参議院の特徴をまとめると【表2】のようになる。各州の政府によって選ばれた者が連邦参議院の議員になるため、直接選挙は実施されない。
【表2】日本の参議院とドイツの連邦参議院
日本 | ドイツ | |
名称 | 参議院 | 連邦参議院 |
---|---|---|
議員定数 | 242人 | 69人 |
任期 | 6年 (3年ごとに半数改選) |
なし (各州の任期に合わせて4~5年) |
選挙権 | 満20歳以上 | ー |
被選挙権 | 満30歳以上 | ー |
選挙区 | 選挙区:146人 比例代表選出:96人 |
ー |
解散 | なし | なし |
人気急上昇中の新政党AfD
9月の連邦議会選挙を半年後に控えた2013年2月6日、1つの政党が旗揚げされた。AfD(Alternative für Deutschland)である。4月14日にはベルリンで初の党大会が開催され、約1500人が出席した。結党後わずか2カ月でこれだけの人数を集めたことは快挙と言えるだろう。初の党大会で決定されたマニフェストの主な点は下記の通りである。
● 現在のユーロ問題を解決するためには、もっと小さな安定した通貨圏が必要である。ドイツがユーロ圏から脱退し、DM(ドイツマルク)を再導入することを検討する。
● ドイツが欧州の一員として、共通の市場を維持することには賛成するが、ブリュッセルの欧州委員会に予算編成や執行を移管することには反対する。
● ドイツの債務を削減する。また、現在のユーロ救済の方針から発生するリスクと、それに伴う責任が、財政計画の中にきちんと組み込まれることを望む。
ユーロ通貨の廃止ではなく、ドイツのユーロ圏からの脱退を目指していることが、この政党の大きな特徴だろう。その結果として、不景気や高失業率にあえぐ南欧諸国を助けることにもなるとAfDは主張する。では、AfDが急速に支持を集めたのはなぜだろうか。
既存の大政党は、原則的に欧州連合(EU)およびユーロの維持に対して疑問を抱いていない。そのため、ユーロ圏国家に破たんの危機が迫るたびに、与野党の激しい議論もないままに、国民の税金が投入されてきた。ドイツ国民としては、自分たちの血税が他国に流れていくことに不快感を抱いてはいたが、それが表に出ることはなかった。その国民の心理を明確にマニフェストに表したのがAfDだったのである。メルケル首相が率いるキリスト教民主同盟(CDU)からAfDに移った議員もいる。また、2013年5月のヘッセン州議会選挙では、同党はすでに一議席を獲得している。
2013年連邦議会選挙 Bundestagswahl 2013
連邦統計局によると、9月22日の連邦議会選挙の投票権を持つドイツ国民は6180万人である。有権者が最も多いのがノルトライン=ヴェストファーレン州で1320万人、最も少ないのがブレーメン自治州の50万人である。今回の選挙に向けて、人口の変化に合わせ、21の選挙区で調整が行われた結果、メクレンブルク=フォアポンメルン州では1つの選挙区が失われ、ヘッセン州では1つの追加された。参考
■ Deutscher Bundestag“bundestag.de“
■ Zur Orientierung Basiswissen Deutschland (Hueber 2006)
■ wikipedia.org “Deutscher Bundestag”“Bundestagswahlrecht” ほか
■ 衆議院“shugiin.go.jp”
■ AfD “alternativefuer.de”
■ reuters.com "焦点:ドイツで反ユーロ政党が旗揚げ、9月選挙で「台風の目」か" (15.04.2013)
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