公的医療保険と民間医療保険とは?
ドイツの健康保険(Krankenversicherung、通称 Krankenkasse)には公的保険(AOK、DAKなど)と民間保険(通称Privat)があります。この健康保険証(実際にはカード)がないと全額現金払いとなります。ドイツの勤労者の9割近くは公的保険に加入していますが、収入が多くなると公的保険の支払い額が民間保険より高くなるため、よりサービスの充実した民間保険に加入した方が有利だと言えるでしょう。
家庭医、病院、大学病院の役割分担
ドイツでは家庭医、開業専門医、病院、大学病院の間で明確な役割分担ができているため、好きな病院をすぐ受診できる日本とは若干、利用方法が違っています。通常は、ハウスアルツト(Hausarzt)と呼ばれる「かかりつけ」の家庭医を決めておきます。そして家庭医が必要に応じて専門医、病院、大学病院を紹介してくれます。持病などにより定期的に診察を受けることが予想される場合は、早めにかかりつけの家庭医を選んでおきましょう。一方、病院(Krankenhaus)は主に入院患者の治療を目的としているので、退院すると元の家庭医で経過を診ることになります。
図1 ドイツの医療システム
※あくまで初診の新患患者の流れの一例を示したものです。
ほかの流れは省略しています
ドイツの専門医(Schwerpunkt Facharzt、Fachärztin)
原則的に、専門医受診の際には家庭医からの紹介が必要です。例えば内科の専門医の場合、呼吸器、糖尿病、消化器疾患など各々の専門分野の患者のみを扱います。同じ疾患でも家庭医と専門医が診る場合では診療費が異なってきます。また、ドイツの家庭医でレントゲンや胃カメラの装置を備えているところは日本ほど多くありません。そのため、レントゲン写真が必要と判断された場合にはレントゲン設備のある放射線科医師(Radiologist)で、胃カメラの場合は消化器専門医のところで検査が行われます。
診察の予約から受診まで
ドイツでは電話で予約を入れ、指定された時間に来院するようにします。さもないと、長い時間待たされることにもなりかねません。診察室に入ると、患者は日本のように医師の横に並んで座るのではなく、大きな机を隔てて向かい側に座ります。そこで医師と話をした後で、診察台の上で診察を受けます。疾患部位によって上半身裸になったり、ズボンを脱いだりして診察を受けることもあります。血圧計は丸い小型のタイコス型血圧計が多く用いられます。また、採血の際に日本のような酒精綿ではなく、アルコールスプレーが用いられます(用いられないこともあります)。
表1 ドイツでの初めての受診
・ これから受診する医院に電話予約
(民間保険のみを扱っている医院もあるので確かめてください)
専門科の受診や入院治療が必要が場合
・ 家庭医から専門医や病院へ紹介してくれます
夜間・休日などの救急の場合
・ 大きな病院(Krankenhaus)の救急外来へ自分で直接受診
・ 救急車(112番)で
救急医の来診が必要な時
・ Ärztlicher Notfalldienst に連絡し、救急医に来診してもらう
薬の処方と薬局
医薬分業の進んでいるドイツでは、医師の処方箋を持って薬局(Apotheke)に行き、薬をもらいます。在庫がない場合は薬局で取り寄せてくれます。日本のように服用時刻や食前・食後、何日分など親切な記載のある袋ではなく、何十錠も入った薬箱ごと渡されます。薬局では服用についての詳しい説明がなされないので、医師に服用の仕方・留意点について聞いておきましょう。
ジェネリック医薬品の普及しているドイツ
ジェネリック医薬品とは薬の特許権が消失した後に、別の製薬会社が製造する、同じ成分と効果を有する後発医薬品です。オリジナルに比べて価格が低くなるため、ドイツではこのタイプの医薬品の使用が広く普及しています。そのため、同じ薬でも製品名が違っていたり、製造元が違ったりすることがあります。
表2 ドイツで薬局から薬をもらう医院で | 医師より処方箋(Rezept)をもらう |
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薬の飲み方と注意の説明を受ける | |
薬局で | 処方箋(Rezept)を渡し、薬をもらう |
薬代の一部を払う(公的保険の場合) 薬代を払う(民間保険の場合) | |
自宅から | 領収書を保険会社に送る(民間保険の場合) |
代替医療と家庭医学の活用
ドイツは主要先進国の中で最も代替医療が活用されている国です。薬や注射を用いる通常医療の代わり、もしくは、通常医療と合わせて用いられたりするため「補完医療」とも呼ばれています。また、薬草を用いた治療薬を処方したり、風邪などの時に煎じたお茶を飲む家庭医学も広く活用されています。
Dr. med. ...とは?
ドイツにて医学博士号を取得した人に付けられる称号です。日本や米国で医学博士を取得した場合にはこの称号は付きません。そのため、ドイツ人の中にも「Herr(Mr.)」などとDr. med.の肩書のない医師もいます。一般に、男性医師の場合にはDr.○○、女性医師の場合にはFrau Dr.△△のように呼びます。
クリニックの長期休暇
夏やクリスマスの時期に驚かされるのが医療施設の長期休暇です。休暇シーズンになると医院は1~2週間単位で休みになります。この休暇は権利であると同時に医師の義務にもなっています。休暇期間中は、予め頼まれたほかの開業医が代わって家庭医を代行してくれます。