9月1日にテューリンゲン州とザクセン州、同22日にブランデンブルク州で行われた州議会選挙で、極右・極左政党が高い得票率を獲得したことは、市民の連邦政府への不満と怒りが強まっていることを示した。
9月23日、記者会会見に臨んだAfD共同党首のティノ・チュルパラ氏(左から2番目)とアリス・ヴァイデル氏(同3番目)
初めて極右政党が州議会選挙で首位に
今回の結果は、米国や英国、フランスなどで起きているポピュリズム勢力の拡大と社会の分断がドイツにも到達したことを示す。この傾向が最も極端に現れたのは、テューリンゲン州だ。極右政党「ドイツのための選択肢」(AfD)は、得票率を前回(2019年)の選挙に比べて9.4ポイント増やした。同党は32.8%の得票率を確保し、首位を占めた。ドイツの州議会選挙で極右政党が首位に立ったのは初めてだ。
AfDテューリンゲン支部は、同州の憲法擁護庁から「過激団体」として監視されている。同党筆頭候補のビョルン・ヘッケ氏は、ナチス突撃隊のスローガンを演説中に使ったために、国民扇動罪で有罪判決を受けた。AfDは過激な排外主義を標ぼうし、ユーロ廃止やドイツの欧州連合(EU)脱退などを求めている。それにもかかわらず、州の有権者のほぼ3人に1人がこの党に票を投じた。ドイツのユダヤ人団体は、「多くの市民が、あえて民主主義を否定する政党を選んだ。この国にとって破局的な事態だ」と衝撃をあらわにした。
さらに、今年1月に結党したばかりの極左政党「ザーラ・ヴァーゲンクネヒト同盟」(BSW)も、15.8%の得票率を確保し、第3位になった。BSWは親ロシア政党で、やはりショルツ政権とEUに対して批判的だ。つまりテューリンゲン州では、現在の政治・経済体制に批判的な過激政党が有権者のほぼ半数の心をつかんだ。逆に、緑の党と自由民主党(FDP)は、得票率が5%に達しなかったため、州議会での議席を失った。オラフ・ショルツ首相の社会民主党(SPD)はかろうじて州議会にとどまったが、得票率は6.1%とAfDの約5分の1にすぎない。
ショルツ政権への不満が過激政党の追い風に
AfDとBSWが高い得票率を得た理由は、ショルツ政権の経済、財政、環境保護、難民政策に対する不満が、旧東独で特に強いからだ。今年8月にテューリンゲン州とザクセン州の有権者を対象に行われた世論調査では、回答者の3分の2が「今回の選挙では、連立与党三党を懲らしめる」と答えていた。つまり有権者は、ショルツ政権に「落第通知」を手渡したのだ。
ただし、AfDのテューリンゲン州での政権入りについては未知数だ。第2位の保守中道政党・キリスト教民主同盟(CDU)と社会民主党(SPD)、BSWは連立政権を組む方向で協議を続けている。だがCDU内部には、「ロシアの回し者であるBSWと連立してはならない」と反対の声もあり、連立交渉は難航すると予想される。その理由は、安全保障への見解の違いだ。BSWはドイツの対ウクライナ軍事支援と米軍の中距離ミサイルのドイツ配備に反対だが、CDUは賛成の立場を取る。CDUのフリードリヒ・メルツ党首は、「これらのテーマは譲れない一線」と述べている。
旧東独ザクセン州でも、AfDが得票率を前回に比べて3.1ポイント多い30.6%に引き上げた。BSWも初の選挙で11.8%の得票率を確保した。ただしザクセン州ではCDUが31.9%の得票率で首位を守り、SPDなどと連立して、AfDの政権参加を防ぐとみられている。
旧東独ブランデンブルク州でも、AfDは前回の選挙に比べて5.7ポイント多い29.2%の得票率を記録した。ただしこの州では、34年間にわたり政権に参加しているSPDが30.9%の得票率を確保して首位となった。これはディートマー・ヴォイトケ現州首相への個人的な人気が理由だ。BSWは同州で初めての選挙にもかかわらず13.5%という高得票率を獲得した。SPDはCDUやBSWと連立政権樹立の可能性を探る。
「過去との対決」は失敗したのか
AfD・BSWは共に外国人の受け入れに否定的だ。われわれ日本人にとっても懸念の種である。私が驚いたのは、テューリンゲン州の18~24歳の世代で、AfD支持率が38%とほかの世代よりも高くなっていることだ。ドイツ政府・経済・学界は第二次世界大戦後、若い世代にナチス・ドイツの犯罪について詳しく伝えてきた。若者は歴史教育の時間に、ナチスの非道さについて詳しく学ぶ。それにもかかわらず、旧東独では有権者のほぼ3人に1人がAfDを選んだ。AfDの幹部には、ナチスの犯罪を矮わいしょう小化する発言を行う者も少なくない。連邦政府に対する抗議とはいえ、これだけ多くの人がネオナチに近い政党を選ぶ現状を見ると、「ドイツの歴史教育は果たして成功したのだろうか」という疑問を抱かざるを得ない。
旧東独市民の間では、ドイツの民主主義制度に疑問を持つ者も少なくない。アレンスバッハ人口動態研究所が8月22日に公表した世論調査結果によると、「『政府からどう生きるべきかについて常に指図されている』と感じているか」という設問に対して、旧東独では63%が「そう思う」と回答。これは旧西独(53%)よりも10ポイント高い。また「民主主義は、見せかけだ。実際には国民に発言権はない」と答えた人は、旧東独では54%で、旧西独(27%)の2倍だった。
現在の連立与党は来年9月の連邦議会選挙で敗退する可能性が強い。現在支持率が35.5%でトップのキリスト教民主・社会同盟(CDU・CSU)は、メルツCDU党首を首相候補に擁立することを決めた。メルツ氏は、民主主義に失望したAfD・BSW支持者の信頼を回復することに成功するだろうか。