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日本との違いをしっかり解説!ドイツの歯科事情&オーラルケア

「そもそも歯医者さんに行くのが苦手」、「ドイツではすぐに歯を抜かれると聞くから不安」など、ドイツで歯科クリニックに行くのはちょっと勇気がいるものです。でも定期検診や毎日のケアを怠れば、虫歯や歯周病になってしまう可能性も……。本特集では、ドイツの歯科事情について、ドイツ在住歯科医の宮川順充先生に詳しく教えていただきました。歯の健康を保つヒントのほか、日本語で安心して通える歯科クリニックもご紹介します。(文:ドイツニュースダイジェスト編集部)

参考:本誌1005号特集「ドイツで始める正しいオーラルケア」、本誌1076号特集「ドイツの病院・医療ガイド」、本誌コラム「ドイツの歯科事情」(2015 ~ 2019年連載)

ドイツの歯科事情&オーラルケア

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ドイツの歯科クリニックに行くためのQ&A

ドイツで歯医者に通う前に、そもそも日本とどのように違うのか、どんな治療の選択肢があるのかなど、Q&A形式で解説します。

お話を聞いた人

宮川 順充先生

1995年に歯科医師の資格を取得した後、2003年から2007年までオーストリアのウィーンで勤務。2009年よりシュトゥットガルトのランドハウス歯科医院に勤務、2014年に同医院の共同経営者となる。日本人と欧州人の特徴を考慮した治療を行っている。
www.landhausstrasse.com

Q1. ドイツの歯科医療は日本とどう違う?

ドイツは保険診療と自由診療の「混合診療」

ドイツの歯科医療制度は、保険診療では足りない分を自由診療で賄う「混合診療」が基本です。保険診療費はドイツ全国一律ですが、そこに加算される自由診療費はその医療機関の裁量(技術や地域性など)によって左右されます。一般的に旧東ドイツ地域のほうが歯科医療費が低い傾向にあり、治療のためにわざわざ遠方まで足を運ぶ人も。しかし、「それでも高すぎて払えない!」という場合は、国境を越えて貨幣価値や物価の低い外国で治療を受ける人も少なくありません。なお、日本では保険診療と自由診療は完全に別々に行われています。

ドイツは保険診療と自由診療の「混合診療」

治療費の支払いは振込が一般的

日本では、治療が終わるとすぐに受付で治療費を支払うことがほとんど。一方ドイツの場合は、歯科治療費は高額になることが多く、現金でのやり取りによる紛失や盗難などのリスク回避、保険や税務関係の事情から、銀行振込が一般的になっています。ただし、小額の治療費やデンタルケア用品の購入程度であれば、クリニックで直接支払うこともあります。

自由診療では見積書がある⁉

基本的に自由診療については見積書が発行されます。日本の歯科医院で自由診療の治療(セラミッククラウンやインプラントなど)を受ける際は、ほとんどの場合は簡単な資料か口頭で金額を伝えられ、治療終了時に治療費を払って領収書をもらいます。一方ドイツでは、自由診療において治療内容や使用される材料、またそれぞれの項目についての価格を医療法の指針に沿って、明確に表記することが義務付けられています。ドイツの歯科クリニックで自由診療を受けると、見積書にサインを求められるため、特に初めて治療を受ける方は驚くかもしれません。

Q2. 治療費は保険でどこまでカバーされる?

原則的に痛みや生活に不都合がある場合

ドイツでは、痛みがあったり、生活する上で何か不都合があったりする場合は、公的健康保険であってもカバーされます。例えば、詰め物が取れてしまった場合、歯に穴が空いている状態となり、食事に支障を来すため、その応急処置として保険治療を行うという考え方です。ほかにも、検診、親知らずの抜歯、歯ぎしり用のマウスピースの作成などにも保険が適用されます。プライベート保険の場合は、プランによって適用範囲もさまざまなので、契約内容を確認してみてください。

海外滞在保険は緊急時のみ

ワーキングホリデーや語学留学などの場合は、一般的な公的健康保険やプライベート保険とは異なる海外滞在保険(海外旅行保険の長期バージョン)に加入していることが多いでしょう。海外滞在保険の場合は、夜眠れないほどの歯痛があったり、歯が欠けて食事ができなくなったり、緊急処置を要する症状でない限りは、歯科治療費はカバーされません。

デジタル化に伴って適用範囲も拡大

昨今のデジタル化に伴い、ドイツの保険システムも徐々にデジタル移行が進められており、保険の適用範囲も少しずつ拡大されています。例えば、従来は矯正の型取りにはピンク色のアルジネート印象材が使用されてきましたが、嘔吐反射などがあって型取りが難しい場合は、口腔を3Dスキャンするという選択肢があります。以前は保険診療では3Dスキャンができなかったのが、2023年7月から追加料金を支払うことで選択可能になりました。

3Dスキャンで映し出された口腔内3Dスキャンで映し出された口腔内

保険申請はアプリから可能

混合診療の治療費に関しては、最初に全額を自費で支払い、保険会社に申請して返金される仕組みになっています。一般的にそれぞれの保険会社には専用のアプリがあり、アカウントを登録し、請求書をアップロードすることで簡単に手続きが完了します。

Q3. 日本人の歯と欧州人の歯に違いはある?

日本人の歯並びはガタガタでもこもこ

一般的に日本人と欧州人では、歯並びや歯の形に大きな違いがあります。日本人の歯は、 乱杭歯 らんぐいば や八重歯をはじめ、歯並びがガタガタしていたり、表面がもこもこしてくぼみがあったりするのが特徴です。一方で、欧州人はあごの骨が大きいため、歯がしっかりと並び、表面はつるんとしています。日本人の場合、特に前歯の窪みから虫歯が発生する確率が高い傾向にあるため、念入りなケアが必要です。

日本人の矯正に慣れていない歯科医も

ドイツの歯科医が日本人やアジア人の歯に慣れていないということもしばしば。特に矯正治療では、欧州人とは異なる治療計画が必要です。そのため日本人の歯に慣れていないと、間引きのためにすぐに抜歯する傾向にあります。もし不安がある場合は、日本人歯科医や日本の患者さんが多いクリニックでセカンドオピニオンを受けることをおすすめします。遠方で難しい場合は、一時帰国時に日本の矯正歯科医に相談することも一案です。

Q4. 理想的な歯科検診の頻度は?

年2回の検診とクリーニングを!

定期的な口腔内検診とクリーニングを行うことが、歯科疾患を予防する最善の方法。どんなに丁寧に磨いていても取りきれないようなプラーク(歯垢)や歯石は、プロの手で除去してもらう必要があります。そのため検診とクリーニングは、それぞれ年2回受けることが理想的です。またクリーニングの際は、歯科衛生士が歯の磨き方などについても指導してくれます。

加入している保険によってはクリーニング費用がカバーされる。公的保険のTKの場合、年最大40ユーロが支給される加入している保険によってはクリーニング費用がカバーされる。公的保険のTKの場合、年最大40ユーロが支給される

Q5. よくあるトラブルについて知りたい!

詰め物(Zahnfüllung)やクラウン(Jacketkrone)の離脱

在独邦人が歯科クリニックに来る一番の理由は、詰め物(インレーなど)やクラウンの離脱です。離脱した際に、表に出た歯がきれいな場合は、外れたインレーやクラウンをクリニックに持っていくと、そのまま接着してくれます。ただし、インレーやクラウンが隣の歯と接触している場合は、外れてからすぐに診察を受ける必要があります。というのも、1~2週間もたつと、歯と歯が寄ってきて形が合わなくなってしまうのです。インレーやクラウンで隠れていた部分が虫歯になっていることもあるため、外れたら速やかにクリニックに行きましょう。

詰め物(Zahnfüllung)やクラウン(Jacketkrone)の離脱

虫歯(Karies)

初期の虫歯の場合は、少し削ってコンポジットレジン(樹脂)で詰め物をします。もう少し大きな虫歯であれば、セラミックやジルコニアなどの金属(日本の銀歯に使用されるパラジウムはドイツでは使用禁止)を用います。セラミックや金属は保険が利かず、価格はピンキリです。虫歯が深くなれば、さらに高額な費用がかかる根管治療(後述)が必要になります。また、インレーやクラウンの接着面の隙間などから細菌が入ると、外側から虫歯を発見できなかったり、金属製の場合はエックス線で撮影しても中が見えないため、痛みが出るまで虫歯と分からなかったりすることも。

歯周病(Parodontitis)

進行した歯周病になると通常のクリーニングだけでは不十分なため、局所麻酔を行った上で、歯周ポケット(歯と歯茎の隙間)の奥深くまで入り込んだ細菌を除去するディープスケーリングを行います。歯科医に歯周病と診断された場合は、公的保険でもディープスケーリングの費用がカバーされます。また、歯周病は遺伝性もあるため、家族に歯周病の方がいる場合は特に注意が必要です。

根管治療(Wurzelkanalbehandlung)

虫歯が進行して感染範囲が広がると、神経を抜かなければならない可能性が高くなります。根管治療に必要な通院回数は2~3回(感染が深い場合には3~4回)、治療に必要な時間は前歯で約1.5時間、奥歯では3~5時間ほどかかります。基本的に自由診療で、ドイツの歯科医院では一般的に前歯で500~1000ユーロ、奥歯で1200~2000ユーロの治療費を設定しているところが多いようです(歯冠部の治療費は含まない)。

親知らず(Weisheitszähne)

特に痛みがなくても、親知らずは虫歯や歯周病などの問題を起こしやすいため、後々のことを考えて抜歯を勧められることが多いです。ドイツでは一度に全部の親知らずを抜くことがほとんどですが、一度に数本の抜歯は精神的・体力的にも負担が大きいという方には、全身麻酔(正確には静脈内鎮静法。麻酔中も意識があり、気持ち良く酔ったような感覚になる)を行います。親知らずの抜歯後に頬が腫れることがあり、翌日は仕事どころではなくなるケースも。抜歯直後に病欠を取る人も少なくありません。

歯ぎしり(Zähneknirschen)

慢性的なストレスを抱えている人は夜間の歯ぎしり(ブラキシズム)が強い傾向にあるため、顎が痛くなったり、歯が染みたりするなどの症状が現れやすくなります。また、ブラキシズムによってインレーやクラウンが外れてしまうことも。ブラキシズムの対応策としては、「歯ぎしり用マウスピース」(Knirscherschiene)の使用が選択肢の一つです。保険が適用されますが、さらに自費で費用を追加することでより自分に合ったマウスピースを作ることができます。

Q6. ドイツの矯正治療について教えて!

18歳未満であれば保険が適用される

18歳の誕生日前日までに矯正治療(Kieferorthopädie)をスタートできれば、保険が適用されますが、全ての人でカバーされるわけではありません。ドイツにはKIGといわれる歯科矯正用の不正 咬合 こうごう (悪いかみ合わせ)の判断基準があり、歯のガタガタや出っ歯、受け口などに対してカテゴリ別に1~5のポイントを付けていきます(1が最高)。あくまで目安ですが、このポイントでおおよそ3~4より悪いポイントが付くと、保険がきくという仕組みです(カテゴリによって基準が異なる)。ただし、保険の金額だけでは全ての治療費を賄えないため、足が出た分を自費で払う混合診療が一般的になっています。

18歳未満であれば保険が適用される

治療する場合は十分な期間を設けて

一般的に矯正治療の期間は、1年半~2年と長くなります。例えば、ドイツで治療をスタートさせて日本に本帰国してからも治療の継続は可能です。しかしブラケット装置が日本にないメーカーのものであれば、別のものに付け替える必要があり、費用がかさむ上、治療期間が長くなることも想定されます。また、同じ歯科医が最初から最後まで対応した方が、元の状態や経過を見ながらより良い治療ができる傾向に。特に駐在などでドイツ滞在期間が限られる場合は、本帰国してから治療を開始するのが望ましいでしょう。

Q7. ブリッジインプラント、どちらがいい?

ドイツではインプラントが年々増加

抜歯するなどして歯がなくなった場合、ブリッジとインプラントが選択肢になります。例えばブリッジの場合は、歯が生えていた場所の両隣の歯を削り、その2本に渡す形でかぶせ物をします。この方法は安価で済みますが、両隣の健康な歯を削る必要があり、本来は3本の歯で支えていたところを2本のみで支えるため、両隣の歯の寿命が短くなる傾向にあります。インプラントは費用はかかりますが、成功率は90%超といわれるほど確実性の高い治療方法です。重要なのは、かみ合わせを上手に調整することで、これは担当する歯科医の腕にかかっています。インプラントはスウェーデン発祥で、ドイツでは年々インプラントを入れる人が増えており、日本よりも身近な選択肢といえるでしょう。

ブリッジブリッジ

インプラントインプラント

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毎日のオーラルケアでしっかり予防歯科を!

歯科治療費が高額なドイツでは、自身の健康を守ることに加えて将来的な出費を抑えるためにも、予防歯科をしっかり行うことが大切にされています。毎日実践できるオーラルケアのポイントを伝授していただきました!

POINT 1デンタルフロスを使う!

デンタルフロスは、日本では「糸ようじ」という名称でなじみがあるかもしれません。夜寝る前の歯磨きタイムに全ての歯と歯の間をデンタルフロスで清掃するだけで、虫歯と歯周病のリスクを大きく下げることができます。痛みや出血を伴うことがありますが、これは細菌感染によって歯肉が炎症を引き起こしているから。毎日正しく使用すれば、2週間後には細菌数が劇的に減少するため、痛みや出血はほとんどなくなります。歯科衛生士さんに使用方法を教えてもらうとより効果的です。個人的なおすすめは、dmブランドの「DONTODENT Zahnseide Sensitiv Floss」。いろいろな製品を試してみた結果、これが一番使い心地が良く清掃性が高い上に値段もお手頃です。

デンタルフロスを使う

POINT 2電動歯ブラシは磨き方に注意

電動歯ブラシのヘッドには横長タイプと丸タイプがありますが、歯並びがガタガタしている人は丸タイプだとより細やかに磨くことができます。電動歯ブラシで大事なことは、その使い方。間違った使い方の典型例は、普通の歯ブラシのように磨いてしまうことです。普通の歯ブラシは、シャカシャカと手を動かすことで毛に引っ掛かった汚れをはじく仕組みですが、電動歯ブラシはヘッドが振動することによって汚れを落とします。つまり、手を動かさずに歯に2~3秒当てるだけで良いのです。電動歯ブラシの二大ブランドにはOral-BSonicareがあり、スイスのメーカーによるHydrosonicもその性能の良さから利用者が増えています。

POINT 3歯磨き粉は特別なものでなくてOK

歯磨き粉には、「虫歯予防」や「ホワイトニング」など異なった用途が表示されているので、どれを買えば良いのか迷ってしまうのも当然です。個人的な見解ですが、誤解を恐れずに言うと、どれもそれほど変わりません。日常的に使用する歯磨き粉は特別なものでなくても十分。日頃の歯ブラシとデンタルフロスの使用が何よりも重要です。ちなみに、外出先などで歯磨きの代わりにデンタルリンスを使う方もいますが、実はデンタルリンス単体では口がすっきりとするだけで、実際の口腔内ではそれほど殺菌効果は期待できません。デンタルリンスは、必ず歯磨きをした後に使うようにしましょう。

プラークが溜まりやすい場所プラークが溜まりやすい場所

最終更新 Dienstag, 24 Oktober 2023 12:27
 

寒い季節の優しい味方ドイツのハーブティーでほっと一息

ビールやコーヒーのイメージが強いドイツだが、スーパーマーケットやドラッグストアの棚には、さまざまな種類のハーブティーがずらりと並んでいる。またドイツで風邪をひいたときや体調が優れないときに、薬ではなくハーブティーを勧められることが多いなど、ハーブティーは生活に根付いている。本特集では、そんなドイツのハーブティー事情をはじめ、おすすめのティーブランドをご紹介。これからの寒い季節、ハーブティーが優しい味方になってくれるはず!(文:ドイツニュースダイジェスト編集部)

ドイツのハーブティーでほっと一息

ドイツでハーブティーが身近な理由とは?ハーブ療法の立役者 ヒルデガルト・フォン・ビンゲン

ドイツでハーブ療法を確立したヒルデガルト・フォン・ビンゲンドイツでハーブ療法を確立したヒルデガルト・フォン・ビンゲン

ドイツ茶・ハーブティー協会の報告書によると、2021年のドイツ人1人当たりのお茶の消費量(紅茶、緑茶、ハーブティー、フルーツティーなど)は71.5リットル。同年の1人当たりのコーヒー消費量が168リットル、ビール消費量が92.4リットルであることを考えると、それほど多いとはいえない。しかし興味深いことに、ドイツでは紅茶や緑茶(32.2%)よりも、ハーブティーやフルーツティー(67.7%)の方がより好んで飲まれている。さらにドイツで販売されているお茶のうち、15.9%がビオ製品であるという結果も。

これは、ドイツで自然療法がごく身近なものであることにも由来するだろう。古代からハーブは薬用に使われてきたが、ハーブ療法の基礎を確立した人物として、ヒルデガルト・フォン・ビンゲン(1098‐1179)の功績は大きい。女子修道院長であったヒルデガルトは、神学者としてだけでなく、自然科学者や詩人、音楽家としても活躍した。彼女は修道院の庭で栽培していた薬用ハーブを観察し、中世の博物学をもとに、その効能と治癒力についての研究を行っていた。著作では、100以上の薬用ハーブについて、またそれらをお茶や薬草酒、粉末、軟こうとして使用する方法について記している。

ヒルデガルトが今日でも注目を浴びているのは、病気の症状だけにフォーカスして治療するのではなく、患者の精神状態も含めた総合的な治療方法を提案している点だ。人間生活の苦しみの原因にも関心を寄せ、節度ある生き方に立ち返り、自然と調和した生活を送る。そのための哲学が詰まったヒルデガルトのハーブ療法は、現代を生きる私たちにも大きなヒントを与えてくれるだろう。次ページでは、そんなドイツで身近なハーブの種類と、それらをハーブティーとして生活に役立てる方法をご紹介する。
参考:Deutscher Tee & Krüutertee Verband「Tee Report 2022」「Im Gespräch: Abtei St. Hildegard」、Bingenam Rhein「HILDEGARD VON BINGEN」

ドイツでのお茶選びのヒントに知っておきたいハーブ事典

古くから薬草として用いられてきたハーブは、今も私たちの心身に寄り添ってくれるお守りのような存在。それぞれのハーブにどんな効能が期待できるのかを知れば、さらにハーブティーが身近なものに。ドイツで好まれているハーブを中心に、特徴や効能をご紹介する。
※本記事に記載されている効能は、あくまで期待される効果です。また、妊娠中や授乳中に避けなければならないハーブもあるため、不安のある方は医師や専門家へご相談ください。
参考:日本メディカルハーブ協会ホームページ、tea exclusive、Utopia ほか

お腹の調子を整える

ペパーミントPfefferminze

ペパーミント

200種類以上あるというミントで、最もよく使われるのがこのペパーミント。消化を助けるハーブティーとして知られ、古代ローマ人やギリシャ人も飲用していた。すっきりとさわやかな味で、料理にもよく用いられる。

新陳代謝を促す

ネトル(イラクサ)Brennessel

ネトル(イラクサ)

新陳代謝を促し、利尿作用があるため、ドイツではぼうこう炎になったときに飲むハーブティーとしても知られる。また鉄分が含まれるため、貧血の人や妊娠中の人に良いとされる。葉緑素が多く、抹茶のような風味で和菓子にも合う。

さわやかな香りでリラックス

レモングラスZitronengras

レモングラス

アジアの亜熱帯地域を中心に、アーユルヴェーダなどでも古くから薬草として用いられてきた。フレッシュでマイルドなレモンの香りで、ショウガとのコンビネーションは抜群。心を落ち着かせたり、リラックスしたりしたいときにおすすめ。

風邪予防にうがいも効果的!?

セージSelbei

セージ

セージは「救う、助ける」という意味のラテン語に由来し、古くから薬用ハーブや香草として料理に用いられてきた。セージには抗菌・抗ウイルス作用があるといわれ、セージティーでうがいをすることで、風邪の予防や口内炎の症状を和らげてくれる。

せきや痰が出るときに

タイムThymian

タイム

スパイシーな香りを放つタイムは、地中海料理に欠かせないハーブ。抗菌や去痰作用があるとされ、タイム入りのお茶は呼吸器疾患やせき、しゃがれ声の症状を和らげたいときに飲むと良い。蜂蜜を追加すれば、さらに効能アップ。

女性の身体にやさしい

ラズベリーリーフHimbeerblätter

ラズベリーリーフ

優しい香りで気分を落ち着かせてくれるラズベリーリーフは、女性の健康に寄り添ってくれるハーブ。子宮収縮を促すため、妊娠後期からハーブティーを飲むことで陣痛を和らげたり、産後に母乳の出を良くしたりする働きがあるとされる。月経不調にも◎。

風邪のひき始めに欠かせない

オオバコSpitzwegerich

オオバコ

風邪のひき始めに飲むお茶に欠かせないハーブ。呼吸中枢に作用して、呼吸運動を緩和するほか、のどの調子を整えたり、せきを抑えたりする働きがある。ドイツでは、ヘラオオバコという種類がよく見られる。

アフリカの恵みがたっぷり

ルイボスRooibos

ルイボス

南アフリカの国民的ハーブティーであるルイボスは、現地の言葉で「赤い茂み」を意味する。ほんのりキャラメルのような甘い味わいが特徴。ミネラルがたっぷり入っているほか、ノンカフェインのため、妊娠中も安心して飲める。

南米生まれの健康茶

マテMate

マテ

南米の食生活に欠かせないマテ茶は、カフェインが含まれており、朝のコーヒー代わりとしても人気。ミネラルやビタミンを含むほか、抗酸化作用も。ひょうたんのような容器とボンビージャという専用のストローで飲むのが伝統的。

ゆっくり休みたい夜に

ジャーマン・カモミールKamille

ジャーマン・カモミール

胃の調子を整えたり炎症を抑えたりと、さまざまな治癒効果が期待できる。また鎮静効果により、イライラや不安を和らげたり、質の良い睡眠を促したりする。青リンゴのような香りが特徴で、ミルクティーにして飲むのもおいしい。

風邪っぴきの味方

エルダーフラワーHolunderblüten

エルダーフラワー

発汗作用のほか、せきや鼻水の鎮静作用があり、風邪のひき始めなどに飲むと良い。欧米では「インフルエンザの特効薬」といわれることも。マスカットのような風味で飲みやすく、シロップとしても親しまれている。

胃の不調や生理痛にも

マリーゴールドRingelblumen

マリーゴールド

肌の炎症を抑える効果があるとして、軟こうなどに含まれていることが多いマリーゴールド(カレンデュラ)。内服にも適しており、口やのどの炎症のほか、胃の不調や生理痛の緩和にも効果がある。ほんのり甘く、シングルティーとしても◎。

レモンの20倍のビタミンC

ローズヒップHagebutte

ローズヒップ

バラの果実であり、美容に良いハーブとして知られる。ビタミンや抗酸化成分が含まれ、特にビタミンCが豊富でその含有量はレモンの20~40倍! ほどよい酸味があり、ハイビスカスと一緒にブレンドされていることが多い。

冬に欠かせない薬用ハーブ

アニスAnis

アニス

ドイツでは、クリスマスのクッキーやグリューワインに欠かせない、甘い香りが特徴のハーブ。去痰や抗菌作用があり、古くから薬用として使われてきた。また、母乳分泌を促進させるともいわれる。ちなみに、スターアニスは名前が似ているが別物。

消化をサポートしてくれる

フェンネルFenchel

フェンネル

カレーのようなスパイシーな香りが特徴のフェンネル。トランスアネトールというエッセンシャルオイルが含まれ、去痰作用があり、せきや鼻水など風邪の症状を和らげるのに役立つ。また、消化を助ける働きやむくみを緩和する効果も。

長い冬に向けて元気な気持ちに

ホップHopfen

ホップ

ビールの原料であるホップは、心を落ち着かせ、睡眠を促す効果があるといわれている。毎日飲むことで不安やうつが軽減されたという研究結果もある。冬に向けて気持ちがふさがりがちなとき、元気な気持ちにしてくれるハーブ。

冬のホットドリンクの定番

ショウガIngwer

ショウガ

東洋医学で使われる代表的な薬用ハーブの一つ。抗炎症作用や腸を活発化させる作用がある。体を温める効果もあり、冬場のドイツのカフェでは、ショウガとペパーミントなどがそのままグラスに入ったフレッシュハーブティーが風物詩になっている。

せき込んでつらいときに

リコリス(カンゾウ)Süßholzwurzel

リコリス(カンゾウ)

サトウキビの50倍もの甘さをもつリコリスは、黒いキャンディーやグミなどでおなじみ。気管支炎やせきのほか、胃炎の症状を和らげる働きがあるとされる。苦手という人も多いが、ブレンドティーなどの甘味付けにぴったり。

老舗からスーパーで買えるお手軽品までドイツのおすすめお茶ブランド8選

王室御用達の老舗をはじめ、スーパーやドラッグストアで安価で購入できるものまで、ドイツにも多種多様なお茶ブランドが存在する。こだわりの自社ブレンドティーや、思わず「ジャケ買い」したくなるようなかわいらしいパッケージのお茶など、自分へのご褒美やプレゼントにもぴったりだ。

Darmayrダルマイヤー

創業年:1700年
創業場所:ミュンヘン
www.dallmayr.com

1700年創業という老舗の高級デリカテッセンで、1900年ごろからコーヒーや紅茶の取り扱いを始めた。バイエルン王室御用達店としてその名をはせ、現在でもミュンヘンをはじめドイツで愛されている。ミュンヘン新市庁舎の裏手にあるダルマイヤー本店は、欧州最大規模のデリカテッセンハウスとして、地元民や観光客を多く集める。お茶部門では120種類以上の高品質な茶葉を販売しており、紅茶や緑茶だけでなく、さまざまなフレーバーティーやハーブティー、フルーツティーなどを取り扱っている。

おすすめのお茶

Moringa Lycheeモリンガ・ライチ

モリンガ・ライチ

インドを原産とするモリンガ茶のソフトでマイルドな味わいに、ライチやシトラスなどのかんきつ系のさわやかな風味を加えたお茶。ちなみにモリンガは、ビタミン、ミネラル、アミノ酸などさまざまな栄養素が含まれ、スーパーフードとしても注目されている。

Ronnefeldtロンネフェルト

創業年:1823年
創業場所:フランクフルト
www.ronnefeldt.com

創業者であるヨハン・トビアス・ロンネフェルトは、フランクフルトの商社で修行を積み、オランダ・ロッテルダムの植民地商品店で輸出入業の知識と人脈を築き上げ、1823年に輸入業者として独立。故郷のフランクフルトに拠点を構えた。その後、国内外の高級ホテルやレストランで愛用される高級紅茶ブランドに成長。創業から200年がたつ今でも「世界中の最良の茶園から最高品質の茶葉だけを取り扱う」という原点に忠実であり続け、現在でも主に手作業で茶葉を製造するオーソドックスな製法のみを採用している。

おすすめのお茶

Morgentau朝露

朝露

煎茶をベースに、マンゴーやシトラスの風味が加わったフレーバーティー。インドの業者が送ってきた新鮮なマンゴーの入った木箱からヒントを得て、当時のティーテイスターが試作を重ねて完成させた1989年からのロングセラー商品だ。今日でもオリジナルのレシピは秘密とされている。

Messmerメスマー

創業年:1852年
創業場所:バーデン=バーデン(現在の所在地はハンブルク)
www.messmer.de

1852年にエドゥアルド・メスマーがバーデン=バーデンに極上の紅茶を取りそろえた店をオープン。そのクオリティーから店の人気はすぐに広まり、プロイセンの皇帝ヴィルヘルム1世の宮廷御用達となった。彼の息子オットーは、1886年にフランクフルトに紅茶の全国貿易を専門とする支店を設立。1895年には商標登録し、ドイツで最初の紅茶ブランドとなった。1990年には東フリジア紅茶協会の傘下に入り、本拠地をハンブルクに移転。現在もありとあらゆる種類のお茶をお手頃価格で展開している。

おすすめのお茶

Pfefferminzeペパーミント

ペパーミント

最高品質のペパーミントを厳選し、爽やかな風味を損なわないようにブレンド。生のペパーミントと同様な風味が楽しめる。ホットでも清涼感があり、朝の目覚めの一杯にも、食後にもぴったり。より甘みのあるお茶が好みの場合は、メスマーの「Fresh Mint」がおすすめ。

Wollenhauptヴォレンハウプト

創業年:1881年
創業場所:ハンブルク
www.wollenhaupt.com

お茶商人として修行を積んだカール・アウグスト・ヴォレンハウプトが弟のヘルマン・ルートヴィヒと共にハンブルクで創業。紅茶とバニラの輸入で成長し、1970年代以降はフレーバーティーや乾燥フルーツ入りのお茶、ハーブティーなどでイニシアティブを取る存在に。代々家族経営を続けており、4代目の現在はディルク・ヴォレンハウプトは紅茶部門を、イェルク・ヴォレンハウプトはバニラ部門を担当。同社ウェブサイトでは、ヴォレンハウプトの茶葉を使用したドリンクやおやつのレシピも幅広く紹介している。

おすすめのお茶

12 Beeren12種のベリー

12種のベリー

ヴォレンハウプトの看板ともいえるのが、乾燥フルーツがごろごろ入ったお茶。こちらのお茶にはイチゴをはじめ、ブルーベリーやブラックベリー、エルダーベリーなど、12種類のベリーがたっぷり。ジューシーでふくよかなベリーの味わいで、ベリー好きにはたまらないはず!

Teekanneテーカンネ

創業年:1882年
創業場所:ドレスデン(現在の所在地はデュッセルドルフ)
www.teekanne.de

1882年に創業し、19世紀末からドイツで初めて缶に詰めた茶やブレンド茶を販売。特にブレンド茶の技術は、収穫地や時期が異なっても一定の品質を保てるとして注目された。第一次世界大戦のときには、ティーバッグの基となる茶袋を兵士に配布して喜ばれたが、同時に風味が損なわれる難点にぶつかる。その後試行錯誤を重ねて、1949年に「ダブルチャンバーバッグ」を開発。香りを最大限に広げることに成功し、特許を取得した。近年ではドイツ連邦産業協会らによって授与される、最優秀管理対象企業賞を4年連続で受賞。

おすすめのお茶

Freches Bienchenいたずらなミツバチ

いたずらなミツバチ

「恋に落ちる魅惑的なお茶」シリーズの一つとして今年から加わった「いたずらなミツバチ」は、ショウガと蜂蜜の甘くスパイシーなフルーツティー。このシリーズはほかにも「甘いキス」や「小生意気な浮気者」など、ドキッとするネーミング&フルーツの香りで人気上昇中。

Bad Heilbrunnerバート・ハイルブルナー

創業年:1968年
創業場所:バート・ハイルブロン
www.bad-heilbrunner.de

バイエルン王室時代からの温泉地バート・ハイルブロンで1968年に設立。当時は、市販薬の一種として自然療法の下剤や痩身用のお茶や薬湯、せき止めドロップなどを扱っていた。この地域で培われた植物の治癒力に関する伝統的な知識、そして薬用植物と現代の植物医学に基づいて、現在は200種類以上の自然療法と健康食品を扱う企業に成長。同社は地域の自然と文化に深く関わり、ベネディクトボイエルン修道院内にハーブ園を造ったり、ハーブのテーマパークKräuter-Erlebnis-Parkの支援をしている。

おすすめのお茶

MATE+Kurkumaマテ+ウコン

マテ+ウコン

ウコンをブレンドしたマテ茶。スモーキーなカフェイン入りのマテ茶と、オレンジの優しい香りが調和し、心地よい甘みがある。シリーズとしてライムの風味を加えたものや、ガラナを組み合わせたものがあるので、ぜひバリエーションを楽しんで。

Lebensbaumレーベンスバウム

創業年:1979年
創業場所:ディープホルツ
www.lebensbaum.com

バイエルン王室時代からの温泉地バート・ハイルブロンで1968年に設立。当時は、市販薬の一種として自然療法の下剤や痩身用のお茶や薬湯、せき止めドロップなどを扱っていた。この地域で培われた植物の治癒力に関する伝統的な知識、そして薬用植物と現代の植物医学に基づいて、現在は200種類以上の自然療法と健康食品を扱う企業に成長。同社は地域の自然と文化に深く関わり、ベネディクトボイエルン修道院内にハーブ園を造ったり、ハーブのテーマパークKräuter-Erlebnis-Parkの支援をしている。

おすすめのお茶

Tiger-Tee小さなとらのお茶

小さなとらのお茶

ドイツの国民的絵本作家ヤーノシュのパッケージがキュートなブレンドハーブティーシリーズ。「小さなとらのお茶」は、ルイボス、レモングラス、ペパーミント、リンゴ、オレンジピール入りで、スパイシーでありながら爽やかな気分にしてくれる。

Paper & Teaペーパー&ティー

創業年:2012年
創業場所:ベルリン
www.paperandtea.de

アジア各国からの厳選された茶葉を使用し、さまざまなオリジナルブレンドを販売するPaper & Tea。2012年にはベルリンに同ブランドのコンセプトストアをオープンさせ、現在は国内外に20店舗以上を構えている。創業者のイェンス・デ・グルイターは、叔父がハンブルクのお茶商人であったことから、子どもの頃から家庭でもお茶を飲む文化が根付いていた。ブランド名は、紙もお茶も中国で誕生したことに由来。美しいお茶のパッケージも、お茶の原産国であるアジアの国々にインスパイアされてデザインされたという。

おすすめのお茶

Sweet Lallabyスイート・ララバイ

スイート・ララバイ

就寝前のリラックスタイムにおすすめのハーブティーで、リンゴ、蜂蜜、グレープフルーツ、ローズなどのフレーバー。体を温め、睡眠の質を高める効果が期待できるという。お茶の名前の通り、優しい子守唄をイメージさせる洗練されたパッケージは、プレゼントにもぴったり。

最終更新 Mittwoch, 11 Oktober 2023 11:25
 

10年続く福島・ドイツ交流プロジェクト - 高校生たちが福島を伝え、再エネを学ぶ

10年続く福島・ドイツ交流プロジェクト高校生たちが福島を伝え、再エネを学ぶ

2013年から毎年夏に行われている日本とドイツの高校生の交流プロジェクトがある。NPO法人アースウォーカーズが主催する「福島・ドイツ高校生プロジェクト」だ。福島の高校生たちがドイツを訪れ、ドイツにおける再生可能エネルギーの取り組みなどを学びながら、ドイツ人家庭にホームステイしたり、地元の高校生たちと交流したりする機会が持たれる。今年3月で東日本大震災から12年、そして4月にはドイツは脱原発を達成した。8月にドイツを訪れた日本の高校生たちは、ドイツで何を見聞きし、どのように「福島」を伝えたのだろうか?(取材・文:見市知)

デュイスブルクの高校で、日本語を勉強しているドイツの高校生と交流会が持たれたデュイスブルクの高校で、日本語を勉強しているドイツの高校生と交流会が持たれた

脱原発したドイツで福島の記憶を語る

「汚染された福島から来たから近寄るな」。今回ドイツを訪れた福島市出身の押山祐太さんは、震災当時わずか3歳。その後小学生になってから移住した他県で、そう言われたときのことを鮮明に覚えている。震災直後は福島にいて、東京電力福島第一原発の事故による放射能汚染のため、外では自由に遊べなかったと話す。

「原子力発電が本当に必要なのかどうか、自分にはまだ分からない。ただ、子どもたちが何の不自由も不安も感じないで暮らせる世の中になってほしい」。8月6日、ベルリンで開催された広島原爆慰霊祭の場で、祐太さんは自身の思いを聴衆に訴えた。

ベルリンで行われた広島原爆慰霊祭で、祐太さんが東日本大震災で経験した被害を伝えたベルリンで行われた広島原爆慰霊祭で、祐太さんが東日本大震災で経験した被害を伝えた

今回、同プロジェクトに参加して訪独した高校生は8人。12年前の震災当時はまだ3~5歳だった世代だ。祐太さんのように、それぞれが震災当時の記憶やそれにまつわる思いなどを、ドイツの複数箇所でスピーチする機会があった。ベルリンの後に訪れたデュイスブルクでは、同年代の高校生たちと交流。高校の授業に参加し、英語でスピーチを行った。

「福島の原発事故のことを知らなかったので、生々しいエピソードを聞いてびっくりした」と語るのは17歳のベネットさん。一方15歳のユリアさんは、12年前の出来事と、それによってドイツ連邦政府が脱原発を加速化させることを決定した経緯を知っていた。今年4月の脱原発完了についても、「ドイツは正しい判断をしたと思っています」とはっきり意見を述べる。日本では原発が再稼働しており、脱原発の道筋も立っていないことに対しては、驚きを隠せない様子だった。

各都市をめぐり再エネについて考える

福島の高校生たちは約2週間の間に、ベルリン、デュイスブルク、デュッセルドルフ、マインツなどを訪れた。滞在期間中は、ベルリン在住のエネルギー政策専門家・西村健佑氏の講演を聞いたり、デュッセルドルフの生物季節観測用の庭や、マインツの再エネ大手のJUWI社を訪問したりする機会も。

再生可能エネルギーへの取り組みは、いかにクリーンなエネルギーを作るかの前に、いかにエネルギーの消費量を減らすかが、必ずセットになって考えられなければならない。例えば、省エネを考えて建てられたドイツの住宅は断熱構造になっている。ドイツの高校生たちに尋ねると、「近い距離であれば、自転車で移動するようにしている」「なるべくゴミを出さないように気を付けている」「肉は食べない」「自宅にソーラーパネルが取り付けてある」など、各自が気候と環境のために心がけていることを語ってくれた。

ドイツの考え方から日本の高校生たちが得た気づき

西村氏は、講演会で次のエピソードについて紹介。ドイツでは2020年、15~32歳の9人の若者たちが「政府の気候政策において自分たちの未来が脅かされている」として、ドイツ連邦政府を連邦憲法裁判所に訴えた。これによって連邦政府は二酸化炭素(CO2)の削減目標を引き上げ、気候政策の強化を余儀なくされたのである。同じ若者たちの行動に、福島の高校生たちは感銘を受けていた。

デュッセルドルフにある、さまざまな植物を植えて気候の影響を観察している庭で説明を聞くデュッセルドルフにある、さまざまな植物を植えて気候の影響を観察している庭で説明を聞く

こうしたエピソードからも分かるように、ドイツでは「バックキャスト的」な考え方が重要視されている。すなわちよりよい未来を思い描き、そこから逆算して今何をするべきか考えるという思考法だ。一方日本では、例えば「今の自分の学力ならば、どこの大学に行けるだろうか?」というような「フォアキャスト的」な考え方が主流だ、と西村氏は語る。

「気候問題は身近なことなんだと気付いた」(遠藤真志さん)、「日本に帰ったら、私も身近なところから地球環境のために何かをしたい」(深谷美波さん)、「ほかの人に流されない、自分の意見をきちんと持てるようになりたい」(古川佳音さん)。

今回の旅を終えた福島の高校生たちは、それぞれの思いをそんなふうに語ってくれた。次世代を担う10代の彼らが今回の体験を、よりよい未来を目指す力に変えていってほしい。

INFO

アースウォーカーズ
www.facebook.com/EarthWalkers.jp

最終更新 Donnerstag, 21 September 2023 14:26
 

伝説的マンガから、ほのぼのコミックエッセイまで - ドイツが出てくる 日本のマンガ 13選

伝説的マンガから、ほのぼのコミックエッセイまでドイツが出てくる日本のマンガ 13選

ドイツでも大人気の日本のマンガ。実は、日本の名作マンガにはドイツの歴史を題材にしたものや、ドイツを舞台としたものが数多く存在している。本特集では、そんなドイツをより深く知れるほか、身近に感じることができる日本のマンガ作品を一挙ご紹介。「読書の秋」であるこの季節、マンガを通してドイツが舞台のさまざまな世界に浸ってみては?(文:ドイツニュースダイジェスト編集部)

少女マンガの金字塔より美しき憧れのドイツ

硬派のドイツ人が日本でブームに
1.『エロイカより愛を込めて』

青池保子 著 秋田書店
1976〜2012年連載 全39巻
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『エロイカより愛を込めて』

金色巻毛の英国人の貴族、ドリアン・レッド・グローリア伯爵は、美意識もプライドも高い美術品愛好家。しかし実は「エロイカ」の通称をもつ美術品泥棒であった。男色家でもあるエロイカは、ドイツ人の北大西洋条約機構(NATO)軍情報部ボン支部の陸軍少佐、クラウス・ハインツ・フォン・デム・エーベルバッハに夢中になる。少佐は東西両陣営から「鉄のクラウス」と呼ばれているほど規律を重んじ、曲がったことが大嫌い。それゆえエーベルバッハはエロイカのことも毛嫌いしているが、ソ連のスパイと戦うため、互いの目的のために協力し合うようになる。

『エロイカより愛を込めて』

作品をもっと知る

1976年から始まった本作は39巻まで刊行されているロングセラー。特に第2回目から登場したドイツ人のエーベルバッハ少佐は硬派で大人気に。作品の影響を受けて、少佐と同名の都市「エーベルバッハ」は日本人観光客が急増したほどだ。そのため作者の青池保子氏は、同市から感謝状と小さなブロンズのイノシシを贈られたというエピソードもある。ちなみに少佐の部下は、部下A(アー)、部下B(べー)などドイツ読みのアルファベットで呼ばれており、アルファベットと同数の26人。ドイツ語を使ったクスッと笑える言い回しにも注目してみよう。

歴史の渦に 翻弄 (ほんろう) される青春
2.『オルフェウスの窓』

池田理代子 著
集英社文庫〈コミック版〉
1976~1981年連載 全9巻
https://amzn.to/3sRrLlo

『オルフェウスの窓』

主人公ユリウスは、由緒ある貴族フォン・アーレンスマイヤ家の当主である父親と、その愛人から生まれた女の子。父親と正妻との間に男の子がいなかったため、捨てられた愛人である母親はユリウスを男性として育て、 復讐 (ふくしゅう) のため一家の財産を奪う計画を立てる。やがて正妻が亡くなり、次期当主として迎えられたユリウスは、男子校である聖ゼバスチアン附属音楽学校に入学。この学校には「オルフェウスの窓」と呼ばれる窓があり、この窓の前に立った男性が下の階にいる女性を見ると悲恋になるという言い伝えがあった。ユリウスはイザーク、クラウスと出会い、3人の運命が動き始める。

作品をもっと知る

第一次世界大戦からロシア革命までの歴史的出来事を交錯させながら、3人の運命を描く壮大なストーリー。物語は4部構成で、舞台はドイツ、オーストリア、ロシアと移り変わるが、1部と4部はドイツのレーゲンスブルクだ。レーゲンスブルクは旧市街などが世界遺産に登録されている美しい街。作品に出てくる音楽学校の建物は、同地のトゥルン・ウント・タクシス城をモデルにしているといわれている。ほかにもケプラー記念堂や、レーゲンスブルク大聖堂、レーゲン川など、作品に出てくるスポットがいっぱい。

ギムナジウムの少年たちを描く
3.『トーマの心臓』

萩尾望都 著 小学館
1974年連載
全1巻(プレミアムエディション版)
https://amzn.to/3LpFq9G

『トーマの心臓』

男子校のギムナジウムの生徒であるユーリ。同じ学校の生徒のトーマが陸橋から転落死したことをきっかけに愛を信じられなくなっていた。ユーリはトーマの遺書を受け取り、自殺だったこと、そして彼がユーリを愛していたことを知り衝撃を受ける。そんななか、学校にトーマとうり二つのエーリクが転校してきた。ユーリは彼にトーマの面影を重ねてしまい苦しむ。ある日、エーリクは母親が死亡したことから帰省し、ユーリがエーリクを実家に迎えに行ったことで2人は親密に。ところが、ユーリの心に深い傷を付けた人物に再び会ってしまう。

作品をもっと知る

ボーイズ・ラブというジャンルがまだメジャーではなかった時代、本作はセクシャリティよりも純愛に焦点を置き、マンガ界に衝撃を与えた。萩尾望都氏はドイツ文学に親しみ、1971年には『11月のギムナジウム』(小学館)という本作の姉妹版の作品を発表。『トーマの心臓』の舞台としては、エーリクの実家がケルンにあり、ユーリらが通うギムナジウムがハイデルベルクとカールスルーエの間にあるという設定。ヘルマン・ヘッセを思わせるような、内面の問題も深く掘り下げて探究している作品だ。

少年・青年マンガで描かれるエネルギーあふれるドイツ

ドイツ各地を旅するサイコ・サスペンス
4.『MONSTER』

浦沢直樹 著 小学館
1994~2001年連載 全18巻
https://amzn.to/3rlJUaH

『MONSTER』

デュッセルドルフのアイスラー記念病院に勤める日本人医師・天馬賢三は、天才外科医として将来を期待されていた。ある晩、東ドイツから亡命してきたリーベルト一家が襲われるという事件が発生し、銃に撃たれた息子ヨハンが運び込まれる。天馬は院長の指示にそむいてヨハンの手術を担当し、その命を救った。しかし、それが全ての始まりだった。ほどなくして病院で不可解な殺人事件が起こり、ヨハンは双子の妹アンナと共に姿を消してしまう。そして9年後、ヨハンと再会した天馬はあらぬ疑いで警察に追われる身となり、またも失踪したヨハンを追って旅に出るのだった。

『MONSTER』

作品をもっと知る

謎の少年ヨハンをめぐるサイコ・サスペンスである本作の見どころの一つは、デュッセルドルフをはじめ、ドイツのさまざまな都市が登場すること。天馬がドイツ各地、さらには国外へと旅を続けながら、ヨハンの痕跡を見つけたり秘密を知ったり、少しずつ真実に迫っていく。さらに、ヨハンが東ドイツから西ドイツへ来たという設定も、歴史好きにはたまらない。完全なフィクションでありながら、ひょっとしたら過去に東側でこんなことがあったのではないか……と思わせるところが、多くの読者がハマる浦沢作品の魅力だろう。

世界一を目指すジャズプレーヤーの成長物語
5.『BLUE GIANT SUPREME』

石塚真一 著 小学館
2016~2020年連載 全11巻
https://amzn.to/3PHhMIt

『BLUE GIANT SUPREME』

仙台に暮らす宮本大は、バスケ部に所属する高校生。そんな大の夢は、世界一のジャズプレーヤーになること⁉ 中学時代、友だちに連れられて聴きに行ったジャズの生演奏に心打たれ、自分流でテナーサックスを練習しているのだ。それも、たった独りで雨の日も猛暑の日も。ある日、ステージで演奏できることになったが、大音量でめちゃくちゃに吹いたせいで客から怒鳴られてしまう。それでも世界一を目指して、全力で吹き続ける。やがて上京した大は、仲間を得てトリオを組むことに。そして次なるステージ、ドイツへと飛び立つのだった。

『BLUE GIANT SUPREME』

作品をもっと知る

迫力ある絵でジャズの激しさや自由さを表現した、現在も連載中の人気シリーズ。第2部である『BLUE GIANT SUPREME』は、大がミュンヘン国際空港に降り立つシーンから始まる。初めは英語やドイツ語が日本語訳なしに登場し、外国に来たばかりの新鮮さや、ちょっとドライなドイツ人(?)も描かれる。実在する場所も多く登場し、第2部制作のため作者自身がドイツに視察に来たというのも納得だ。ドイツで新たな仲間たちに出会った大が、日本と違う価値観と触れながらどう成長していくのか、お見逃しなく!

東ドイツ時代のリアルを追求
6.『東独にいた』

宮下暁 著 講談社
2021年~現在休載中 既刊5巻
https://amzn.to/3LrHbmN

『東独にいた』

ベルリンの壁が崩壊する数年前の東ベルリン。社会主義国で育ったアナベルは、古本屋を営む青年ユキロウ・フジサキに密かに恋心を抱いていた。しかし、彼女にはさらに大きな秘密があった。東ドイツの超人部隊「多目的戦闘群」(MSG)に所属する軍人なのだ。一方、反政府組織「フライハイト」が勢力を増し、各地でデモやテロが多発するなど、民主化運動が過激化していく。そして、日本にバックグラウンドを持つユキロウにも人には明かせない秘密が……。時代や思想によって隔てられた東ドイツの人々を描く本格派歴史劇。

作品をもっと知る

バトルシーンや歴史の転換期の人間模様は本作の見どころだが、作者が追求するリアリティーが作品をさらに魅力的にしている。制作に当たり、実際にベルリンを訪れたり、東ドイツに生きた人々の書物や映画を参考にしたりしたという。盗聴や尋問の描写は、東ドイツ時代を描いた映画「善き人のためのソナタ」のワンシーンを思い出す。そんなリアリティーの延長線上に物語が展開していくからこそ、作品に深みが増すのだろう。現在5巻まで発売しているが、残念ながら休載中。連載再開に期待したい。

巨匠たちが真摯に向き合ったヒトラーの時代のドイツ

3人のアドルフの数奇な運命
7.『アドルフに告ぐ』

手塚治虫 著 講談社
1983~85年連載
全3巻(手塚治虫文庫全集)
https://amzn.to/3PJtIJy

『アドルフに告ぐ』

物語の始まりは1936年、ベルリンオリンピックの取材に来ていた新聞記者の(とうげ) 草平 (そうへい) は、ドイツ留学中の弟を何者かに殺されてしまう。弟の死の真相を追うなかで、峠もまた、ドイツ総統であるアドルフ・ヒトラーの出生にかかわる秘密文書の存在を知り、追われる身となる。一方、神戸に住むドイツ総領事館員の息子アドルフ・カウフマンは、同じく神戸に住むドイツ系ユダヤ人のパン屋の息子アドルフ・カミルと親友として幼少期を過ごした。しかし、ナチス党員の息子として国粋主義者に成長していくアドルフと、ユダヤ人としてナチスの陰謀に巻き込まれていくアドルフの友情は、時代の流れに大きくゆがめられていく。

作品をもっと知る

ユダヤ人などに対する迫害・大量虐殺を行ったヒトラーが、実はユダヤ人の血を引くということを証明する文書が存在したら?という虚構をもとに作り上げられた本作。ヒトラーゆかりの地であるベルリンやニュルンベルク、南ドイツの山荘ベルクホーフや、神戸の風景が描かれるなかで、3人のアドルフをめぐって事実と虚構を織り交ぜたストーリーが展開する。第二次世界大戦勃発前のドイツや日本、神戸での空襲、終戦、そしてイスラエル建国に至る長い闘いから、手塚治虫氏の自らの戦争体験と反戦への強い思いがにじむ。

独裁者の生涯を淡々と描いた
8.『劇画ヒットラー』

水木しげる 著 筑摩書房
1971年連載
全1巻(ちくま文庫版)

『劇画ヒットラー』

ウィーンで画家になるという夢に敗れ、働く気力もなく放浪生活を続けていたはにかみ屋の青年アドルフ・ヒトラー。やがて第一次世界大戦が勃発し、ヒトラーも従軍するが、敗戦を喫した祖国は動乱の時代を迎える。混乱が続くドイツで政治活動を始めたヒトラーは演説の才能を発揮し、やがて多くの支持者を集めるようになる。ドイツの民衆を熱狂させ、世界制覇を目指すヒトラーは、やがてドイツを破滅の戦争へと導いていく。ヒトラーの若き日から最後の日までを、英雄視するのでもなく誇大に風刺するのでもなく、淡々と描いた伝記的マンガ。

作品をもっと知る

太平洋戦争に従軍した水木しげる氏は、『総員玉砕せよ!』(講談社)などの作品で自らの戦争体験を描いてきた。ヒトラーと同年代を生きた作者は、ヒトラーへの関心が高く、ナチス研究者の後藤修一氏の協力を得て本作の執筆に当たった。巻末には参考文献リストが添えられ、当時の写真をもとにしたコマもあり、史実に即した内容であることが分かる。一方で、ホロコーストについては作品の最初と最後に登場するのみ。それ以外はヒトラー自身に焦点を絞り、彼の生涯を通して、時代背景や当時の民衆心理などが複雑に絡み合う様が見て取れる。

かわいらしさ満点!メルヘンなドイツ

ドイツ文学がつなぐ歳の差の恋
9.『 長閑 (のどか) の庭』

アキヤマ香 著 講談社
2014~2019年連載 全7巻
https://amzn.to/48nfG7N

長閑の庭

ドイツ文学を専攻する大学院生の元子(23歳)は、地味な外見といつも黒い服を着ていることから「シュヴァルツさん」(ドイツ語で「黒」の意味)と呼ばれている。しかし実はグリム童話や、メルヘンチックなかわいいものが大好き。そんな彼女は、ドイツ文学教授の(さかき) (64歳)から「君の日本語は美しい」と褒められたことをきっかけに彼に恋をする。ある日、話の流れでうっかり榊に告白してしまうが、榊からただの勘違いだと突き放されてしまう。しかし元子のひたむきな思いを受けて、榊は「好意の種類とその分類について」のレポートをドイツ語で提出するよう課題を与える。

作品をもっと知る

自身の外見や内面にコンプレックスを抱える主人公の姿が共感を呼ぶのに加え、文学的な雰囲気やファンタジックな世界観が美しく物語を深める。自分の意見をはっきり言うが、思慮深い言葉を投げかける榊教授は、まるでドイツ文豪のよう。元子がレポート課題について考えるなかでシラーやハイネの名言を参照したり、榊の元妻がピナ・バウシュなどのドイツ舞踊の研究者であったりと、大学のドイツ文学科らしいシーンが垣間見られる。ドイツ語での授業風景や、ドイツ語の単語を使ったネタなど、ドイツ語学習者ならより一層楽しめるポイントも満載。

異国に行けば異国のあやかしがいる!?
10.『あやかしメルヒェン』

白乃雪 著 講談社
2020~2021年連載 全2巻
https://amzn.to/45TdUcR

『あやかしメルヒェン』

日本の 座敷童 (ざしきわらし) である 花緒 (はなお) は、就職浪人中の青年・コテツを見守りながら暮らしている。しかしある日、アクシデントで家を失ってしまったコテツは、絵本作家を目指してドイツにワーキングホリデーへ! コテツを守り抜く決意をしている花緒もまた、コテツと共に黒い森の近くにある古いシェアハウス(WG)で生活することになる。ドイツ人だけでなく世界各地から人が一緒に暮らすシェアハウスには、妖精や吸血鬼など、これまた世界各地のあやかしたちが集まっていて……。ドイツで新生活を始めた純粋なコテツと、あやかしたちのてんやわんやな日常が幕を開ける。

作品をもっと知る

作者の白野雪氏は、ドイツ人男性との結婚をきっかけにドイツに移住。『とつげきドイツぐらし!』(角川文庫)など、自身のドイツ生活を描いたエッセイコミックで人気を博しているが、本作はそんな彼女が描くメルヘンな物語。語学学校に通ったり、シェアハウスで住人とパーティーをしたりして次第にドイツ生活になじんでいくコテツの姿は、ドイツ生活経験者の共感を呼ぶこと間違いなし。また南ドイツ名物の「黒い森のさくらんぼケーキ」を「人間の欲を塗り固めたようなケーキ」と言ってみるなど、南ドイツでの人間たちの生活が、あやかしたちのちょっぴりひねくれた目線で描かれるのも面白い。

生活の中で見えてくる小さな冒険に満ちたドイツ

一人と一匹のごきげんなベルリン生活
11.『ねこと私とドイッチュラント』

ながらりょうこ 著
少年サンデーS増刊/小学館
2018年~現在休載中 既刊6巻
https://amzn.to/45VeFCe

『ねこと私とドイッチュラント』

日本から遠く離れた「ドイッチュラント」。主人公で物書きのトーコちゃんは、その首都である緑の多い街ベルリンに移り住んだ。彼女の相棒は、2本足で歩き、おしゃべりもするネコのむぎくん。食いしん坊のむぎくんのために、トーコちゃんはさまざまな工夫を凝らして和食やおやつを作る。ほかにも青空市に出かけてチーズやパン、野菜を買ったり、おにぎりを持って散歩に出かけたりと、派手さはないけれど優しくて温かい日常を二人で楽しく過ごしている。ドイツと日本の違いを楽しみながら、毎日をごきげんに暮らす一人と一匹の物語。

『ねこと私とドイッチュラント』

作品をもっと知る

ベルリン在住の作者の実体験がベースとなっているマンガとあって、ベルリンの街の雰囲気をはじめ、トーコちゃんとむぎくんが暮らすアパートの造り、料理や食品のパッケージなど、細部にわたって温かみのあるタッチで描写されている。ほかにも電車の乗り方や、アパートの暖房設備「ハイツング」のこと、ドイツの郵便事情、くしゃみをした人への「Gesundheit!」という声かけなど、細かい日常生活や文化も題材として取り上げられている。これからドイツで生活してみたいという人や、ドイツ生活初心者にとっても参考になる内容が盛りだくさん。

自分にとって生きやすい街を求めて
12.『ベルリンうわの空』

香山哲 著
イースト・プレス
2018~2021年連載 全3巻
https://amzn.to/3t0UJ2r

『ベルリンうわの空』

ベルリンを初めて訪れたとき、「僕」はこの街に漂う優しさに惹かれるなかで、自分の心にも余裕が生まれていることに気づく。そして自分にとって生きやすい街を求めてベルリンへの移住を決めた。スーパーマーケットで買い物したり、お気に入りのカフェでくつろいだり、子ども新聞を作ったり。ちょっと怪しくて愉快な仲間たちと共に、豊かなカルチャーが混在するベルリンを満喫する。また街中で見かける「つまづき石」のこと、社会に存在する差別にどう向き合っていくかなど、さまざまな視点で社会のあり方を見つめる。

作品をもっと知る

作者は2018年にベルリンへ移住した香山哲氏。この街が自分に合うのか、どんな人々や価値観がこの街に存在するのかと、毎日小さな実験を繰り返していくようなエッセイマンガだ。ベルリンを「憧れの街」として終わらせるのではなく、どこに住んでいても起こりうるような社会問題も描かれる。そんな時にどうやって自分なりに柔軟に対処していこうかと試行錯誤する人々の姿が清々しい。続編では、移住者からより「街の参加者」としてベルリンに関わっていく人々の姿が描かれる。

ネガティブ女子のふらり海外移住
13.『思えば遠くにオブスクラ』

靴下ぬぎ子 著
秋田書店
2019~2021年連載 上下巻
https://amzn.to/3t6BmVu

『思えば遠くにオブスクラ』

フリーカメラマンの 片爪 (かたづめ) 。火事で自宅が全焼して住めなくなり、愛用しているカメラのレンズがドイツ製であったという理由で、大志もなくふらりとベルリンへ移住する。共通の友人の紹介で音響アーティストの石根と同居し始めた片爪は、ベルリンでの暮らしを通して新しい考え方や価値観に触れていく。やがて大学の後輩である王子も加わり、それぞれに生きづらさを抱えていた3人は大切な友人同士となる。人を撮影することが苦手だった片爪は、譲り受けたフィルムカメラで人々を撮影するように。やがて3人は一緒にアムステルダムへと移住するのだった。

『思えば遠くにオブスクラ』

作品をもっと知る

主人公の片爪は、お世辞にも明るい性格ではなく、ネガティブで人見知り。大した目的もなくベルリンに移住した彼女が、見慣れないものを食べてみたり、知らない人から家具を購入して家まで取りに行ったりと、勇気を出して行動することで新しい世界を体験していく。ドイツ語が分からなくて役所や銀行で厳しい対応をされたり、カフェの店員さんが不機嫌だったりと、ドイツ移住経験者なら共感できるポイントも。ネガティブだって目的がなくたって、ベルリン生活は楽しんだもの勝ち!

最終更新 Montag, 18 September 2023 18:01
 

最期まで自分らしい人生を送る - ドイツのセカンドライフ&終活事情

最期まで自分らしい人生を送るドイツのセカンドライフ&終活事情

ドイツは日本と同じく高齢化率が世界でトップ3に入る超高齢社会。年金問題や定年問題をはじめ、老後に不安を感じている人も少なくない。充実したセカンドライフを送るために、ドイツではどのような選択肢があるのか、人生の最期をどのように迎えるのか……。本特集では、日本とは違う文化や考え方にもフォーカスしつつ、在独邦人としてどのように老後を過ごしたらよいか、ヒントをお届けする。(文:ドイツニュースダイジェスト編集部)

画像をお願いいたします

数字で見るドイツの超高齢社会事情

参考:ドイツ連邦統計局
65歳以上の人口

65歳以上の人口

老年指数 Altenquotien ▶︎ 20~64歳の年齢層100人当たりの年金受給者の数

老年指数

ドイツ人の平均寿命(2020/22年)

ドイツ人の平均寿命

ドイツ人はセカンドライフをどう過ごす?

仕事も引退して、いよいよセカンドライフスタート!ボランティアに参加したり、旅行に出かけたり、さまざまな選択肢があるなかで、ドイツらしさも垣間見えるセカンドライフ事情をのぞいてみよう。

定年引き上げにもかかわらず早期退職者が増加傾向に

2023年現在、ドイツの定年は65歳となっているが、2031年までに段階的に67歳まで引き上げられることが決まっている。しかし実際には、63~64歳に早期退職を希望する人が多いという。ドイツ年金保険(DRV)の調査によれば、2021年に年金の受給を開始した人のうち4人に1人が早期退職に該当し、これは2013年以降で最も多かった。ドイツでは、年金保険に35年以上加入していれば、早期退職でも年金を受け取ることができるが、定年に達するまでは毎月0.3パーセントずつ減額される。年間3.6%もの減額になるが、そこまでして早期退職を望むのはなぜだろうか。

ヴッパータール大学の研究によると、最も多い理由としては「自由な時間がほしい」ことが挙げられる。ほかにも、経済的に安定していること、激務であること、健康上の問題なども。2021年に調査会社Civeyが2500人に実施した調査によると、4人に3人は身体的もしくは精神的な理由により67歳まで働くことができないと考えており、67歳まで働きたい労働者は8人に1人のみ。18~29歳にいたっては、約6割が61歳までしか働きたくないと回答している。

ヴッパータール大学の労働学のハンス・マルティン・ハッセルホルン教授は、「人々はただ早く仕事から抜け出したいだけで、63歳で退職するという選択肢を国が与える限り、それを選ぶだけ」と話している。早期退職は、経済的に余裕がある限り、今後さらに多くの人が選択するとみられている。

参考:MDR「Warum die Menschen früher in Rente gehen」、Handelsblatt「Mehrheit der Deutschen will mit 62 in den Ruhestand」、 tagesschau「Mehr Menschen gehen früher in Rente」

地域の子どもたちを世話するおばあちゃん・おじいちゃん代行

近くに孫が住んでいない、あるいは孫がいないシニアもいる。それでも子どもが好きで、時間もたっぷりある……そんなシニアたちに人気の活動が、「Leihoma(Ersatzoma)/Leihopa(Ersatzopa)」(おばあちゃん・おじいちゃん代行)だ。これは、近くに祖父母が住んでいない子育て中の家族の仮のおばあちゃん・おじいちゃんになるというシステムで、20年以上前からドイツ各地で行われている。ボランティア団体やポータルサイトを通じてマッチングし、定期的に子どもの面倒を見たり、一緒に料理をしたり、どこかへ出かけたり、本当の祖父母と孫のような関係を築くことができる。

ボランティアで行う人もいるが、時給が発生したり交通費のみ支給されるなど、どの団体を通すかによっても条件が変わってくる。子どもの宿題を見るのか、車での送り迎えは必要なのか……など、お互いの条件に合う人を見つけるのに数カ月かかることもあるという。

代理で誰かのおばあちゃんやおじいちゃんになり、人とのつながりや責任感を持つことで、社会に必要とされていると感じることができる。それは高齢者にとって、心理的にも身体的にも充実した生活を送ることにつながる。一方、子どもにとっても、親以外に良き理解者がいることや、違う世代と関係を持つことは成長過程において大切であり、双方にとって意義のある取り組みといえそうだ。

参考:familie.de「Betreuungshilfe Leihoma: So könnt ihr euch von liebevollen Ersatzomas unterstützen lassen」、Aktive-Rentner.de「Wie werde ich Leihoma?」

高齢者同士で暮らす「シニアWG」も住まいの一つの選択肢に

ドイツ語でフラットシェアを意味する「WG」(Wohngemeinschaft)が、ドイツでは高齢者施設に代わる、住まいの選択肢の一つとなっている。いわゆる「シニアWG」(Senioren WG)は、大きく分けて二つのタイプに分かれる。一つ目は、昔ながらのシニアWG。学生などのWGと同じようにリビングやキッチン、バスルームなどの共用スペースに加え、個人部屋があるのが一般的だ。WGを検討する際は、同居者と柔軟にコミュニケーションが取れるかどうか、どんな社会的背景、趣味や興味を持っている同居者が自分にふさわしいのかなど、考える必要がある。二つ目は、ディアコニーやカリタスなどの福祉法人が運営する介護WG(Pflege-WG)。介護士が常駐している場合も多く、認知症の人々に特化した認知症WGもある。今日では、シニアWGのほとんどがこの介護WGに当たるという。

大きな介護施設に入りたくない人にとって、介護WGは魅力的な選択肢だ。WG立ち上げ時には、助成金として1人当たり2500ユーロ(1戸4名で上限1万ユーロ)が介護保険会社から支払われる(在宅介護での自宅改築に給付される4000ユーロとは別)。しかし、条件が合わずに申請が却下されることも多く、成立しても毎月の自己負担額は介護施設に比べて割高。また、プライベート空間が確保された高齢者共同住宅(Senioren-Hausgemeinschaft)や多世代融合住宅(Mehrgenerationenhaus)など、個々のニーズに合わせた選択肢が存在する。いずれにしても、元気なうちに検討し、行動に移すことが大切だ。

参考:『ドイツで送る老後』(DeJaK友の会)、pflege.de「Senioren-WG」

じわじわ増えているシニアの海外移住 人気の移住先は?

ドイツの年金受給者が海外移住するケースが増えている。ドイツ年金保険(DRV)によると、2020年には2122万4000件の年金支給があったうち、24万8000件が外国に住むドイツ人に支払われたという。これが2016年の時点では23万4000件だったため、在外の年金受給者がじわじわと増えていることが分かる。実はDRVでも「憧れの地で年金生活を満喫して」(Genießen Sie Ihren Ruhestand am Wunschort)というキャッチコピーを掲げ、積極的に移住を推奨。これにはグローバリゼーションに伴い、外国での年金受給におけるさまざまな障壁が取り除かれたことが背景にある。

ドイツに残って少ない年金でやりくりするよりも、物価やサービス料の低い他国で充実した年金生活を送りたいというのが、最も多い移住理由。また、冬の間だけ気候が穏やかな地に移住するというパターンもある。これらの理由から、人気の移住先上位5カ国には、ポーランド、チェコ共和国、ハンガリー、オーストリア、スペインがランクインしている。東欧や南欧の人気も上昇中で、欧州以外では米国が最も多い。

しかし、高齢になってからの海外移住は憧れだけでは実現しない。在外ドイツ人協会でも、外国で年金生活を送るために資金確保を含めてきちんと計画を立てること、言語や文化の違いによって起こりうる問題についてよく考えることを呼びかけている。

参考:Deutsche Rentenversicherung、inFranken.de「Für die Rente auswandern - die besten Länder für den Ruhestand」、DIA Deutsche im Ausland e. V.「Ruhestand im Ausland Auswandern als Rentner」

自分のことは自分で決める!ドイツの終活で大切な3つの手続き

ドイツにおいて、自分の医療措置や最期の迎え方を自分で決めたいという人は、年齢にかかわらず、万が一の場合に備えてさまざまな手続きを行っておく必要がある。いわゆる「終活」の一環として、法的に必要な項目をご紹介しよう。

参考:『ドイツで送る老後』(DeJaK友の会)、Deutschen Friedhofsgesellschaft「Deutsche sorgen für Krankheit und Tod vor」

事故や病気によって判断能力や自分の意思を表現する術がなくなった場合、日本では家族が代わりに世話をしたり、判断したりするのが一般的。しかしドイツでは本人から委任を受けていなければ、本人の代わりに決定を下すことはできない(緊急時に限り、一緒に暮らす配偶者が決定を代行できる)。もし代理人がいない場合には、裁判所が後見人を選定するため、手続きにも時間がかかる。さらに、本人をよく知らない人が後見人に指定されれば、本人の意思にそぐわない判断がなされることも。そうした事態に備えて、右の三つは特に重要な法的手続きとなる。

実際こうした手続きを含め、ドイツではどのくらいの人が万が一に備えているのだろうか。2022年にドイツ墓地組合が調査会社GfKと共同で行った調査によれば、54%の人が遺言や事前医療指示書、任意代理委任などの準備をしていることが分かっている。これは年齢層が上がるにつれて割合が高くなる傾向にあり、50~59歳は51%、60~69歳は67.6%、70歳以上では72%だった。なお、任意代理委任は全体の39.2%、事前医療指示書は37%が持っていると回答している。

重要な法的手続き

❶ 事前医療指示書 Patientenverfügung

治癒の見込みがない病気にかかり死期が迫ったときに、どのような治療を望む・望まないかなど、事前に医療に関する指示をまとめておく法的な文書のこと。「苦しみの少ない生活を取り戻せる可能性がある場合、妥当と思われる治療や介護を続けてほしい」といった抽象的な表現はNGで、かなり具体的に記しておく必要がある。指示書は連邦中央公証人登録所(ZVR)に登録するか、代理人に指示書の保管場所を伝えておく。

❷ 任意代理委任 Vorsorgevollmacht

まだ本人に決定能力がある間に、判断能力のある人に代理人としての権利を委任すること。健康・介護・医療、財産、居住場所など、委任範囲は限定できる。代理人1人では荷が重い場合は、委任範囲ごとに複数人に委任することもできる。委任状を作成する必要があるが、委任した内容が法的に有効とならない場合もあるため、公証人にチェックしてもらいながら用意すると確実。

❸ 事前後見指示書 Betreuungsverfügung

事前に任意代理を委任していない場合で、例えば事故で意識がなくなったとき、後見人が本人に代わって意思決定を行う。事前後見指示書は、自分が知らない人が後見人になることを避けるためのもの。指示書では、本人が後見人として希望する人、絶対に希望しない人などの情報を記入しておき、病気などになった際に裁判所が後見人を決定する。後見人をお願いできる人がいない場合は、後見協会(Betreuungsverein)にサポートを依頼できる。

在独邦人のための終活案内

ドイツでは高齢者の支援と介護は、個人のニーズに応じた形でなされるべきものとされ、それは移民の文化や言語的背景を配慮することも意味する。そうした考えのもと、2012年にドイツに暮らす日本人のための団体として「DeJaK(デーヤック)友の会」が立ち上げられた。DeJaK友の会では情報共有をはじめ、講演会や勉強会を行っているほか、各種相談を受け付けている。右記は、同会による出版および配布物。
https://dejak-tomonokai.de

ドイツの老後にまつわる情報を日本語で解説『改定版:ドイツで送る老後』

公益法人DeJaK-友の会著

「介護保険と介護」、「高齢時の住まい」、「老後に備えて」の三つの章からなり、ドイツの介護保険制度などの具体的な情報を日本語で解説。巻末付録として、事前医療指示書や任意代理委任の書式例が日本語訳付きで掲載されている。会員12ユーロ、非会員は18ユーロで購入可(郵送費2ユーロ)。

日本語でじっくり考えられる備えファイル

自分で意思表示ができなくなった場合に備えて、上記の書類等の保管場所を含め、介護・医療、保険、葬儀、お金に関する情報や自分の希望を記入できるファイル。こちらからダウンロードできるほか、印刷版とインデックス(上)は注文可能。

時代とともに多様化するドイツの葬儀スタイル

誰もがいつかは迎える死。自分らしく送り出してもらえるよう、故人が遺書や代理人を通じて希望を残していることも多い。ドイツではどんな葬儀スタイルが一般的なのか、最近のトレンドも取り上げながらご紹介する。

参考:『ドイツで送る老後』(DeJaK友の会)、本誌1007号「死亡後の手続きからドイツでの葬儀まで エンディング・プラン」

ドイツで人が亡くなったら……

人が亡くなったら、まずは死亡診断書(Totenschein)を発行しなければならない。自宅で亡くなった場合は医師を呼ぶ。遺体は死亡してから36時間以内に遺体安置所へ移さなければならない。一般的に葬儀会社が移送を手配し、ほかにも埋葬方法、死亡広告、墓、埋葬と葬儀の準備と実施などを請け負ってくれる。また、遺族の悲しみを癒すため、カウンセリングなどを手配してくれる葬儀会社もある。

葬式 Beerdigung

土葬、火葬などの葬儀スタイルにかかわらず、埋葬する日に告別式(Trauerfeier)が行われる。一般的には教会や墓地に付属する礼拝堂、または葬儀会社の1室で行われ、聖職者や専門の語り手、もしくは近しい友人などが故人の生前のエピソードや人柄などについて語り、弔問者一同で故人をしのぶ。また、埋葬後はレストランなどの1室を借り、コーヒーやケーキ、昼食などが弔問者に振る舞われることも(Trauerkaffee)。服装は黒、白、グレーなどの控えめな色を着るのが一般的。

土葬 Erdbestattung

キリスト教では伝統的な埋葬方法だったが、現在は20~40%ほどの割合となった(地域によって異なる)。昨今の宗教離れに加え、費用が高額であることが理由になっている。遺族の心理的な事情から棺が降ろされる場面に立ち会いたくない場合は、参列者が全員立ち去ってから埋葬するなどの配慮がなされることもある。

火葬 Feuerbestattung / Urnenbestattung

1963年にキリスト教会で火葬が許可されるようになった。土葬よりも費用がかからないことから、現在では60~70%が火葬を選択している。骨壺(Urne)はさまざまなデザインのものがあり、故人の好きなものやイメージに合わせてオリジナルを制作することも可能。一般的には、土葬と同じように墓地に埋葬されるが、例えば次のような埋葬方法もある。

日本との違い
  • 荼毘 (だび) にふす際は遺族であっても立ち合えない
  • 高温で焼くため、日本のように骨の形は残らず遺灰となる
  • 遺族は遺灰を見ることも触ることもできない
  • 遺灰は自宅に持ち帰ることができない*
  • 分骨は認められていない*
※ただし、外国で火葬してドイツへ遺灰を持ち帰った場合は認められるなど一部例外が存在する
樹木葬 Baumbestattung

森林墓地(Friedwald)などの木の根元に骨壺を埋葬する樹木葬。埋葬される木には番号などのプレートが付けられており、墓碑を設置することもできる。家族や友人と共有することも可能。ドイツでは10人に1人以上が樹木葬を望んでおり、一般的になりつつある。

海葬 Seebestattung

日本で知られる散骨ではなく、骨壺を海へと放つ埋葬方法。ドイツでは北海やバルト海で行われ、およそ5~10%の人が希望している。なお、樹木葬や海葬向けの骨壺として、速やかに生分解されるようコーンスターチなどで造られたものもある(認められた州や墓地のみで埋葬可能)。

匿名葬 Anonyme Bestattung

匿名葬は全ての埋葬方法で可能だが、ほとんどの場合、火葬で骨壺を草原の墓地に埋葬する。墓石はないが、埋葬地の敷地内にある石碑に名前を刻める場合もある。匿名葬を希望する最も多い理由は、墓の管理費が不要であること。故人が匿名葬を希望していた場合は、遺族は埋葬に立ち会えず、埋葬場所も不明となる。

日本人としてドイツで最期を迎えるには?

現在、ドイツにはおよそ4万2000人の日本人が住んでいるが、そのなかにはもちろん高齢者も含まれる。自分らしく最期を迎えるために、ドイツに残るべきか日本に帰るべきか、家族がいない場合はどうしたらいいのか……など、在独邦人ならではの悩みもある。実際どのような課題があるのか、それらをどう解決したら良いのか、デュッセルドルフの公益団体「竹の会」の方に経験やアドバイスを伺った。※本記事の内容はあくまで個人の経験や知見によるものです。

お話を聞いた人

浅井ベルガー昭子さん(竹の会会長)、シェーファー弘子さん(同理事)、太田まりさん(同理事)

竹の会

在独邦人が自分らしく、社会とのつながりを持って老後を過ごせるよう立ち上げられた公益団体。現在、デュッセルドルフを中心に90名弱いる会員の40%が70代、22%を80代が占める。社会福祉団体ディアコニーと提携し、文化活動、相談や交流を目的にさまざまな定例会を設けているほか、講演会やイベントも開催。子ども連れで参加できる「おとなり会」も。若い世代の会員も募集中!
https://takenokai.de

日本外務省は8月16日、竹の会が日本とドイツの相互理解の促進に寄与してきた功績を称え、外務大臣表彰を授与することを発表した。

老後はドイツで過ごす?日本で過ごす?

一つの基準は「家族」

自分一人で判断して動けるのか、配偶者がいるのか、子どもがどこでどんな生活を送っているのか……家族の状況によって、ドイツに残るべきか日本に帰るべきかが、おのずと見えてくる。ドイツに残れば、言語や食事の問題が出てくる場合も多いが、人によっては、ドイツに家族がいることが大きな吸引力になることも。一方で、日本に帰る場合は受け入れ先があることが一つの指標になる。家族や親族、友人など、受け入れ側が健在であることも大切だ。

ドイツと日本の価値観、どちらが自分に合うか

日本に長い付き合いの友人がいても、お互いの経験には大きな違いがあり、分かり合えないことが少なからずあるだろう。ドイツに長く住む日本人同士であれば、ドイツで同じような経験をしているため、理解し合えることもある。また、自分の考えが日本での価値観に合わなくなっている可能性も。どちらの国での生活が自分の価値観に合うのか、今一度考える必要がある。

本帰国をするなら元気なうちに

終活の一環として、荷物を片づけたり処理したりする必要もある。そうした作業ができるよう、体が健康であることも大切。老後はドイツか日本か……と悩むタイミングは、誰しも一度は訪れるもの。決め切れずに気が付いたら体の調子が悪くなっていて、荷物の整理ができずに本帰国が叶わないことも十分に起こりうる。同じような状況や立場の人と情報交換をするなどして、元気なうちに決断することが望ましい。

ドイツで日本人高齢者が抱える問題

認知症でドイツ語が話せなくなってしまう

ドイツは移民大国のため、歳を重ねて母国語しか話せなくなってしまうことは日本人だけの問題ではない。例えば、ドイツではポーランド語話者やロシア語話者の高齢者が多いが、文化的配慮だけでなく、介護雇用の歴史的背景からもこの二言語を話す職員が高齢者施設に勤務していることは珍しくない。また、移民が多い国の言語やユダヤ教など宗教ごとの高齢者施設もある。しかし日本語話者の高齢者だけで施設を埋めるには人数が足りないため、残念ながら日本人向け施設を造ることは現時点では実現していない。そうした状況を少しでも改善するため、竹の会ではまず「認知症カフェ(※)」を定期的に開催することを目指している。

※認知症の当事者やその家族などが交流する定期的な集まり。オランダが発祥。

施設に入っても日本食を食べたい

ドイツの高齢者施設に入れば、もちろんドイツ式の食生活を送ることになる。一方で、一般的に高齢者施設への食べものの持ち込みは許可されているため、家族や友人が日本食を差し入れることも可能。また、ウーバーイーツなどの宅配サービスなどを利用できる施設では、事前に決済さえできていれば、職員が受け取ってくれる。いずれにしても、施設側と話し合うことが必要だ。竹の会では、日本人高齢者向けの弁当宅配サービスのアイデアが出ているが、実現するにはさまざまな壁を乗り越える必要がある。

孤独になりやすい傾向にある

特に一人暮らしの場合は、家に引きこもることで運動量が減り、病気になる、という悪循環に陥るケースが多い。そうした事態を引き起こさないために、例えば竹の会が開催する「コミュニティカフェ」のように、母国語でおしゃべりをしたり困りごとを相談したりする場に定期的に参加することが有効だ。ただし、認知症や移動が困難な場合は、そうした集まりに参加できないため、今後それらのケースにどう対応していくのか、竹の会でも課題となっている。

日本と違う介護制度に振り回されることも

日本の介護制度との大きな違いの一つは、ドイツにはケアマネージャーがいないこと。在宅介護の場合、日本ではケアマネージャーが介護レベルに合わせて利用できるサービスや施設を案内してくれるが、ドイツでは本人や家族などの在宅介護者が全て自力で調べ、申し込み等も行う必要がある。また、ショートステイも日本のように2~3日のみ対応してくれる施設は原則なく、そもそも予約できる施設を探すのに一苦労というケースも。一方で、ドイツでは在宅介護者に給付金が支給される。

ドイツで安心して老後を送るためにすべきこと

自分の希望を伝えておく

朝食には必ずコーヒーを飲みたい、毎日お風呂に入りたいなど、日々の生活には細かい希望があるもの。しかし、ドイツ語が十分に話せなくなったり、認知症になったりすれば、そうした希望を伝えることができなくなってしまう。子どもがいる場合は、子どもが施設とのやり取りを担うことも多いため、元気なうちに自分の要求をしっかり伝えておくことが大切。また、DeJaK友の会の「備えファイル」のように、書面で準備しておくことも有効だ。

近所の人と関係を築く

特に一人で暮らしている場合は、近所の人とコンタクトを持っておくことが大切だ。日本人コミュニティにしかコンタクトがない場合は、家で倒れるなどした際に、対応が遅くなってしまう可能性がある。例えば、隣りの人と関係を築いておけば、万が一の時に救急車を呼んでもらえるようにお願いすることもできる。本当に信頼できる人であれば、鍵を預けておくことも備えの一つになる。

ドイツ社会に根ざす努力

元来ドイツでは、移民に対してインテグレーション(統合)が求められている。これはドイツ社会に同化するということではなく、自分の言語や文化を持ったまま、ドイツ社会に根ざすことを意味する。例えば、デュッセルドルフの場合は、日本語だけで生活して日本語だけで老いていくことは究極的には可能だ。しかし、ドイツ社会や価値観について理解し、どれだけ地域に密着できるかが、さらに老後を充実させるポイントの一つになる。

最終更新 Donnerstag, 07 September 2023 09:18
 

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