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ドイツの法律・規則

国が違えばルールも違う。日本とは少し異なる、ドイツの法律や規定を知ればより安心・安全な生活ができるはずです。今回は生活全般、労働、離婚に関して、それぞれ理解しておくべき法律や規則、トラブルを回避するためのポイントなどをご紹介します。
(Interview&Text:編集部)

生活全般

公共交通機関使用の注意点

ドイツでは電車の種類(下記参照)によって、車内で切符を購入 できる場合とできない場合があります。

  • ドイツ鉄道の長距離列車(ICE, IC, EC) → 購入可、ただし、割高。
  • S-Bahnや近距離列車(IRE, RE, RB等) → 購入不可。切符無しで乗車すると、原則的に無賃乗車になります。
  • トラムやU-Bahnなど → 地域によって異なります。

切符は駅や停留所にある券売機や販売窓口、インターネットなどで、乗車前に確実な方法で購入するのがベター。券売機が故障している際には1台だけではなく、その駅構内に設置されているほかの券売機を試してみましょう。また、小さな駅で券売機や販売窓口がない状況であったり、車内の券売機が故障している場合には、乗車後すぐに乗務員や運転手に申し出てください。車内に乗務員などが不在で確認が難しい場合は、次の駅で降りて切符を購入するようにしてください。万が一の場合には、罰金だけでなく、刑事責任を問われる可能性もあります。

騒音トラブルの対応

隣人間の騒音については各州の法律によって許容範囲が設定されています。例えばハンブルクの一般的な住宅地域では21時から翌7時までの間は、ラジオやオーディオ機器による音楽再生は第三者にとって著しく迷惑にならない範囲でのみ許容されます。

近隣の騒音が耐え難い場合には、まずは自ら隣人と話し合いましょう。それでも解決に繋がらない場合には、最後の手段として警察に通報することが可能です。隣人トラブルや賃貸住宅のトラブルについては、借家人団体「Mieterverein」に相談することができ、隣人による騒音の場合、仲裁を行う借家人団体もあります。年会費や実費などは発生しますが、会員になると無料で相談に乗ってくれます。

借家人団体「Mieterverein」:Mieterverein+都市名で検索
※デュッセルドルフの場合は https://www.mieterverein-duesseldorf.de

警察に通報する際に記録しておくべき項目
1 日付
2 時刻
3 証人者(名前、住所、電話番号など)
4 騒音の種類
5 騒音の長さ

賃貸契約

賃貸契約の詐欺に遭わないために

人気都市では条件にあった賃貸住居を見つけることが非常に難しい状況が続いています。入居希望者の苦境を利用し、さまざまな手段で敷金や賃料をだまし取るケースが増加しています。その手口も巧妙で、詐欺を働く者が実際に大家から物件を借りて不動産業者をかたり、入居希望者を内覧に招いて事前に敷金などを騙し取る手の込んだものもあります。一般的には住居を内覧し、大家またはその他の権利者と契約を交わし、鍵を受け取ってから支払います。

また、契約書の内容が分からない場合は、日本語ができる弁護士に相談するのがおすすめ。必ずサインをする前にチェックをすることが重要です。

詐欺を回避するポイント

  • ドイツの大都市(特にベルリン、ケルン、ハンブルク、ミュンヘン、フランクフルト、デュッセルドルフなど)の人気が高い地区にある住居が安価で貸し出されている場合は要注意。
  • 内覧・契約締結・鍵の受け渡し前に、お金の先払いを求められた時点で、やりとりを中断すべきです。
  • お金だけではなく個人情報(パスポートのコピーや銀行口座情報、クレジットカード情報、信用情報会社「Schufa」などの書類)を渡すタイミングも慎重に。

個人賠償責任保険の加入のすすめ

ちょっとした過失の場合でも大きな損害を引き起こしてしまい、巨額の賠償金を支払わなくてはいけない可能性も考えられます。例えば、自転車に乗っていて事故を起こしてしまい、その際に他人に損害を与えてしまうという状況も想定できます。そんな時のために個人賠償責任保険(Privathaftpflichtversicherung)に加入しておくと、保険の範囲内で訴訟費用と損害賠償金がカバーされます。保険料は各会社や契約内容にもよりますが、年間50~60ユーロとお手頃です。

お話を聞いた人

ドイツ弁護士 亘理興さん ドイツ弁護士 亘理興さん 幼少期を英国とドイツで過ごす。2005年にザールラント大学法学部を卒業。2008年にラインラント=プファルツ州における司法修習を修了し、翌年ベルリンにて弁護士登録を行う。2010年11月よりハンブルクにて弁護士としての活動をスタート。家族法や民法全般をメインに、日本人がドイツで安心して暮らすためのサポートを行っている。
www.watari.de/index.jp.html

労働

有給休暇の日数・取得

有給休暇は1人当たり年間に20日与えることが定められています。ただし、これは被雇用者が転職をした際に前社と新しい会社で各20日間ずつ与えられるわけではありません。例えば2018年5月末にA社を退社し、同年6月からB社で働く場合、すでにA社で20日間の有給休暇を利用していれば、B社に対して新たに20日間の有給休暇を請求する権利はありません。そのためA社には休暇証明書(Urlaubsbescheinigung)を書面で作成してもらい、採用の際にB社に提出します。それをもとに各社で決めている有給休暇日数に対して残りの日数が決まります。ちなみに日系企業では年30日間の有給休暇を設けているケースが多いです。

有給休暇は、基本的には同年の12月31日までに取得しないと消滅しますが、事業上または個人的(親族を看病しなければならないなど)な理由で年内の取得が難しいと判断されれば、翌年3月31日まで繰り越すことが可能です。3月31日までに取得できない場合は、被雇用者が取得を請求する権利はなくなるので注意してください。

税金の支払い

会社員、学生、ワーキングホリデーに関係なく、ドイツで就労する際には勤務時間によって税金の支払い義務が発生します。学生だからといって税金が免除されるわけではなく、労働日数によっては課税の対象になります。

病欠の場合

出勤できない日が3日間を越える場合、被雇用者は医師の確認書(Krankenbescheinigung)を会社側に提出する義務が発生します。勤務時間中に診察や健康診断を受けに行く場合には、事前に医者または病院から勤務時間帯に診察が必要である確認書を取得し、会社に提出する必要があります。取得せずに勝手に勤務時間中に不在となると、その時間は無給扱いなり、場合によっては警告書の対象となるので要注意です。

出産・育児休暇

出産予定日の6週間前と出産後8週間は労働が禁止されています。また、育児休暇は子どもが生まれてから3年目の誕生日1日前(出産後の8週間も含め)まで取得することが可能。雇用者と被雇用者の間で一度合意がなされた期間を変更することは難しいので、事前に熟考した上で申請しましょう。また、申請の際には直筆サインが入った手紙や書類でないと無効になります。

育児休暇中に従業員は週30時間まで勤務することができます。そのためには、会社で15名を超える従業員が雇用されていることと、申請者が6カ月間を超えて勤務していることです。会社はそれを事業上の理由で断ることができます。たとえば、育児休暇中の従業員を雇用する可能性がない場合などが挙げられます。

退職や副業

自己都合による退職や被雇用者と合意の上での解雇の場合は、雇用者・被雇用者ともに直筆の署名が必須となります。直筆でない場合は無効に。会社側の署名は企業の代表者など署名権を持っている人の直筆サインが必須です。また、ドイツには日本のような定年後の退職金制度は法律にないため、日本人であっても現地企業での勤務や日系企業の現地採用の場合には基本的には退職金は出ません。ドイツの大手企業の場合には、たとえば勤務30周年記念などの際に給与にプラスで支払われることもあります。

副業に関しては、会社の規定に従いましょう。ただし、会社側はいかなる副業も禁止することはできないので、被雇用者は勤務時間外かつ本職の業務に支障のない内容であれば許可を得ることも可能です。たとえば、週末に数時間だけ子どもたちにサッカーを教えるなども当てはまります。

企業側も知っておこう!

  • 話し合いで解決ができない場合は、専門の弁護士に相談を。
  • 雇用主は従業員が病欠の場合に病名を聞くことはNG。プライベー トな質問に対し、従業員は嘘をついても良いことになっています。
  • 一般平等取扱法(AGG)には敏感に。面接者に対して国籍、人種、年齢、性別、宗教や思想などを理由に差別をすると採用の際に支払われるであろう月給の3倍の慰謝料を請求されることがあります。また、人材募集広告にこのようなことを指定する明記があり訴訟となった場合、広告を出稿した企業の責任となります。
  • 業務時間外の出張や移動は有休の対象になるかなど、きちんと明確にしましょう。
  • 出張の際にけがなども想定されるので、そのようなトラブルのための保険に加入するのがおすすめ。

お話を聞いた人

金子浩永さん HEUKING KÜHN LÜER WOJTEK 金子浩永さん HEUKING KÜHN LÜER WOJTEK PartGmbB デュッセルドルフのドイツ弁護士、パートナー。ケルン大学法学部を卒業と同時にドイツ司法試験に合格し、司法研修をした後、現事務所で勤務を始める。4年後に同社のパートナーとなる。主に日系企業のための法務に関するサービスに従事し、労働法や会社法、破産法、商法、合併案件および企業買収案件などを取り扱う。 www.heuking.de

離婚

離婚によくあるパターン

離婚の主な理由として①夫婦関係の悪化、②一方の配偶者による暴力、③ほかにパートナーができた、の3つが挙げられます。国際離婚の場合は、特に文化の違いから関係が悪化し、早期離婚にいたるケースが目立ちます。

たとえば、ドイツ人の男性が日本に駐在している間に日本人女性と知り合い、結婚してすぐにドイツに渡ります。しかし、妻は仕事を捨ててまでこちらに来たのに、ドイツ語も話せなければ文化も理解できず、さらには義理の母とうまくいかないなどの理由で、夫との関係も悪化してしまいます。その結果、2~3年の早期離婚というパターンが少なくありません。子どもがいる場合は、子どもが成人するまで離婚を待つというケースも多く、10年以上別居状態という夫婦もいます。

ドイツの離婚は裁判で決まる?

役所を通じて離婚が成立する日本と違い、ドイツでは民法(BGB)第1565条「婚姻関係の破たん(Scheitern der Ehe)」により、離婚は裁判所で行われます。ほかにも以下のような違いがあります。

ドイツと日本の離婚方法の違い

  ドイツ 日本
弁護士 必要 不要
別居 1年間の別居が必要 不要
年金調整(年金分割) 裁判で決まる 自己請求
慰謝料 発生しない 発生する場合あり
再婚 離婚後すぐに可能 再婚禁止期間あり

離婚するための5つのステップ

では、実際に離婚をするのにどのように手続きを進めるのでしょうか?離婚申請前から離婚後のことまで、気を付けたいポイントとともに解説します。

STEP 1 別居を始める

離婚申請前に、1年間の別居が必須です。別居とは、寝室を含む居住空間、生活費や銀行口座を分けるなどの、完全な家庭内別居も認められます。ただし、暴行・虐待を受けているなどの場合、裁判所が「婚姻生活の続行は不可能」と認めた場合はその限りではありません。

気を付けたいポイント
別居開始時から日本に帰国しても問題ありません。ただし、永住ビザ(受給は配偶者と3年以上の同居が条件で、離婚後も有効)を含むすべてのビザが、6カ月以上ドイツの住民票を抜くと失効します。

STEP 2 弁護士を雇う

1組の離婚裁判につき最低1人の弁護士が必要です。結婚した時期、別居開始日、居住地などのほか、財産分与、扶養費、養育費などの相談事項の有無を弁護士に伝えます。また、ドイツでは年金調整(Versorgungsausgleich)を裁判で行うため、必要なデータも用意。夫婦間で懸案事項がある場合は、それぞれが弁護士を雇うのが望ましいです。

気を付けたいポイント
一方の配偶者の不倫などが理由で離婚した場合に、慰謝料が発生する日本と違い、ドイツでが一切発生しません。ただし、暴行があった場合は刑法で賠償責任を問われ、慰謝料が発生します。

STEP 3 離婚を申請する

別居生活後、最後に共同生活をした地区の家庭裁判所に離婚の申請ができます。申請受理後、裁判費用の請求書(夫婦の3カ月分の収入の合計に相当)が届いたら、指定金額を支払います。

気を付けたいポイント
離婚申請をして通常3カ月前後で出廷し、離婚が成立します。ただし、配偶者の一方が外国にいる場合、書類送達に時間がかかることがあり、1年を要することも。

STEP 4 裁判所に出廷する

裁判では「1年間別居したか」「結婚生活が破たんしたと認めるか」「離婚したいか」が尋問され、所要時間は10分程度。また、ドイツにいられない場合は、弁護士を通じてSkypeで出廷も可。

気を付けたいポイント
扶養費や養育費、財産分与に関して夫婦間の意見が一致していない場合は、裁判は長引くことも。その場合は、公証人を立て「別離・離婚効果に関する合意(Trennungund Scheidungsfolgevereinbarung)」という形で取り決めることが可能です。

STEP 5 離婚成立

裁判から1カ月以内に異議申し立てがなければ、正式に離婚が成立します。日本人の場合は判決を翻訳(認証翻訳でなくても可)し、日本の戸籍に登録して終了。ドイツでは、日本のように女性に再婚禁止期間が設けられていないため、すぐにでも再婚できます。

気を付けたいポイント1
扶養日本人同士の場合は、大使館や領事館を通じて日本の法律に従って離婚が可能です。ただし、ドイツでは離婚したと認められないため、ドイツで再婚したい場合はやはり離婚裁判が必要になります。過去にはすでに日本に帰国した元配偶者から離婚裁判への参加の了承を得られずに、再婚時に苦労したという人も。

気を付けたいポイント2
扶養ハーグ条約に基づき、国際結婚の夫婦で一方の親が未成年の子どもを連れて帰国する場合、出国時にもう一方の親の同意書が求められることがあり、これは離婚後も同様です。実際に、日本人の母親が同意書なしに子連れで帰国し、ドイツ人の父親が裁判所に申し出て、子どもをドイツへ連れ戻したケースもあります。

お話を聞いた人

ヨハン-シュテファン・エッカートさん エッカート法律事務所 
ヨハン-シュテファン・エッカートさん
デュッセルドルフ中心部に位置する法律事務所の弁護士。家族法から相続法、賃貸法、税法、交通法、労働法などの分野で個人および企業への包括的法務サポートを日本語で行っている。
http://rajse.de/japanese

法律の観点から考える
ドイツ生活の安心・安全Q&A

生活一般、労働、離婚の規定や法律についてお話を聞いた3名の弁護士に、ドイツで安心・安全な生活を送るためのヒントをお聞きしました。

Q1ドイツ生活の中で特に理解しておくべき法律や規則を教えてください。

特に滞在や就労に関する許容範囲や、滞在許可延長の要件などを事前に把握しておくのが良いでしょう。そのほか、権利・義務などについては情報を収集し、良識によって判断するなど、日本とあまり変わりはありません。(亘理さん)

日本に帰国をする際には、携帯電話、アパートやマンション契約、個々の保険の契約を必ず解約しましょう。帰国する旨を住民局に伝えることも忘れずに。(金子さん)

Q2日独の権利に関する意識の違いはありますか?

労働に関して言えば、権利に対する意識は同じだと感じますが、ドイツ人は裁判を起こしてでも自分の意見を通すこと、主張することに対して、躊躇しない人が多いように見受けられます。日本人は意見を主張することがあっても裁判を起こすケースはあまりありません。(金子さん)

Q3ドイツ社会における法律や規定の特徴は何ですか?

ドイツは比較的自由な国なので、マイノリティーの人も社会的に認められており、何かトラブルが発生した際には、法的な立場に違いはありません。ただし、同時にドイツは官僚的な国でもあるので、一般よりも多くの書類提出を求められる場面もあります。(エッカートさん)

Q4ドイツ人と上手に付き合っていくために知っておくべきことは?

まずは、ドイツと日本の習慣の違いを知ることです。例えば日本ではエレベーターに乗った際に見知らぬ人には特に挨拶をしませんが、ドイツでは「グーテン・ターク」と声をかけることが一般的です。このような日独の文化を知り、理解することが、ドイツ生活をエンジョイさせるための秘訣になります。(金子さん)

日本では相手が気遣ってくれるのを待つ傾向にありますが、ドイツでは率先して自分の気持ちを伝えます。“Selbstfürsorge(自分自身をケア)”をするため、無理しすぎないことが、心地よく暮らすためのヒントです。また、自分の意見は言葉にして表現することもポイント。ドイツでは議論することが好きな人が多いと思います。(亘理さん)

Q5万が一訴訟になった場合、どのようにして弁護士を探すのが良いでしょうか?

その分野の専門である人はもちろん、口コミから探すのが良いでしょう。(金子さん)

インターネットで検索をしたり、日本領事館に問い合わせることをおすすめします。信頼関係が重要なので、依頼する前に自分が知りたい点を聞き、納得できる弁護士に依頼をしてください。その際に、事前に料金も確認しましょう。(亘理さん)

Q6ドイツ国外を旅行中にトラブルに巻き込まれた際の対応方法を教えてください。

ドイツに暮らしていると海外旅行に行く機会も増えると思います。ドイツ国外へ旅行する際には各国の日本大使館や外務省のウェブサイトに有益な情報が掲載されていますので、事前にチェックしましょう。トラブルの内容によって対応は変わりますが、状況に応じて現地の日本大使館、警察、消費者センターなどに相談することが可能です。(亘理さん)

外務省海外安全ホームページ https://www.anzen.mofa.go.jp

 
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