ヘルマン・ヘッセ著 V・ミヒェルス編 岡田朝雄訳
草思社
ISBN:4-7942-0704-2
ヘッセの水彩画を初めて見たのは確か、実家の本棚で偶然見つけた展覧会の図録の中だったと思う。タイトルは「知られざるヘルマン・ヘッセの世界水彩画展」。1995~96年にかけて札幌、鎌倉、大阪、東京など日本各地を巡回した、かなり大規模な個展だったようだが、私自身が見に行ったわけではないので、もしかしたら母親が足を運んで、その時に買ったんだろうか。私はそこで紹介されていた水彩画の数々が一目で気に入ってしまった。のどかな田舎の山間の風景などを描いた作品はどれも、パステルカラーの柔らかな色合いがとびっきりで、鉛筆で描かれたような輪郭線もぼくとつながら趣きがあり、ページをめくるたびに、1枚1枚じーっと見入った記憶がある。
私の人生にドイツの「ド」の字もなかった当時、ヘッセといえば『車輪の下』を読んだことがあったぐらい。でもどんな内容だったかあまり覚えていないし、それにヘッセって作家だよね、それもノーベル賞作家。なんてぐらいに思っていたその頃、図録の最後に記されていた彼の人生の歩みを読んで納得した。ヘッセはスイスへの亡命後、特に晩年は絵を描くことや自宅の庭いじりを趣味に過ごしていたという。
単純な私はそして、ヘッセが俄然好きになった。でもだからといって彼の小説を読み漁ったわけではなく、興味の的はもっぱら彼の絵画作品。そんな風にしてある日、私は今回ご紹介する著作にめぐり合ったのだ。
ドイツ語の原書は「Im Garten」。「庭」をテーマにした詩や散文、エッセイが集まっている。水彩画はもちろんのこと、家族と暮らしたボーデン湖畔のガイエンホーフェンやスイス・モンタニョーラの家の庭で、作業服に麦藁帽子姿でせっせと庭仕事にいそしむヘッセの写真が何枚も収められている。シュピーゲル誌でかつて「Gartenzwerg」と揶揄されたこともあるというヘッセだけど、私は庭の小人、実は好きです。(り)