ベルリン 東ドイツをたどる旅
見市 知 (著)
産業編集センター
ISBN: 978-4-86311-033-5 C0026
「私は1カ月だけ、東ドイツに住んでいたことがあります」と言う著者の見市知さんが綴る、思い入れいっぱいの1冊「ベルリン 東ドイツをたどる旅」。なぜ、1カ月間しか東ドイツにいなかったのかというと、(勘の良い方はもう察しがついているかもしれないが)東西ドイツが統一して東ドイツ、つまりドイツ民主共和国(DDR)という国が消滅してしまったから。
1990年、ベルリンの壁はすでに崩壊し、瓦礫となって街のあちこちに積み上げられていた。東西統一という歴史的な瞬間を今か今かと待ち構え、世界中から最も熱い注目を浴びていた当時のベルリンに、9月から東西ドイツ統一の日まで居合わせたという運命の巡り合わせが、20年後、著者にこの本を書かせた。交換留学生という、ある意味で自由な身分としてあるがままのベルリンを好奇心いっぱいにのぞいてきた著者と一緒に、ベルリンと東ドイツを見つめ直そう。
ページをめくると、時計の針を戻すことなく、今あるベルリンから東ドイツを探す旅が始まる。ベルリンの壁、今も残る東ドイツ時代の建築物、美術館やカフェ。東ドイツにまつわるあらゆる場所が網羅されている。でも、この本はガイド・ブックとはちょっと違う。いや、もちろんガイド・ブックとしても機能するのだが、それぞれの場所の現在の情報と20年前の姿が同時に描かれている。20年前の姿といってもどの歴史教科書にも載っていない、生活者レベルの小さなエピソード。その目線で旅を続けられる(読み進められる)のが心地良い。
ベルリンの壁崩壊から20年という節目の年、ベルリンについての本が数多く出版されているが、これほどオスタルギー(Ostalgie、東ドイツを懐かしむ感情)に溢れた本は、ほかになかったように思う。このちょっとオシャレで、手になじみ良い本を鞄に入れて、「東」を再発見しに行けば、ベルリンを歩く楽しみが一層広がるに違いない。(高橋 萌)