土門 秀明(著)
水曜社
ISBN4-88065-158-3
とにかく手にとって、好きな時間に、好きな場所で、自分のペースで読んでみてください。以上!!
・・・・・・「書きたいけど、書きたくない」と感じるほど、書評を書く上で必要最低限保たなきゃいけないニュートラルな感情を持つ余裕がない。ぐっと心に響くエピソードの数々は心の琴線ならぬ、弦にふれまくり!あぁ、なので今回は、このまま暴走させてください。
ニュースダイジェストの読者の皆さんはご存知のように、土門秀明さんは本誌コラム「バスカー土門の人生相談 悩んだときはこれを聞け!」の筆者。ロンドンの地下鉄でギターを弾き、そこで生活費を稼いでいる『バスカー』です。毎回、ちょっと笑える、それでいて決して相談者を見放さない温かい回答、そして悩み事にぴったりと寄り添う音楽をチョイスしてくれる、あの方です。
本書は、土門さんが2005年の春から冬までに書き留めた日記。1日1日をそれこそ命(生活)掛けで過ごした土門さんから語られるのは、ロンドンの地下鉄という舞台で起こる小さな事件、発見、一期一会の出会い。そして、ロンドン地下鉄同時爆破テロ。
駅構内で交差する人、時間、想い。その歩みをふと止めさせる、やさしく力強いギターの音。良いことばかりじゃないよ、きれい事だけじゃ生ぬるい。でも、日常のささやかな喜びや退屈、これって極上の幸せだよね、と、忘れていたことさえ気付かなかった感情が呼び覚まされる。
人生は一度きり。頭ではわかっていても、今を楽しむことって案外むずかしい。でも、この本を読むときに感じる、ちょっと背筋がぞくっとするリアルさはなんだろう。そう、バスカー土門さんのつぶやきは、生と死に通じるものがあるんだ。
便利なこの時代、YouTubeで土門さんの演奏が聴ける(土門さんのチャンネルはdomon1964で検索を)。地下鉄で撮影された動画から聞こえてくるのは、美しいギターの音色と地下鉄の雑踏。これを聞きながら本書を読めば、ロンドン地下鉄はもう目の前。生きろ! そんな、すごくシンプルなメッセージが聞こえてくる気がした。(高)