バロックの輝き P.P.ルーベンス
内藤 秀夫(著)
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「忍冬(スイカズラ)の葉陰で」とは、ペーター・パウル・ルーベンスと、彼の最初の妻イザベラが寄り添い、手を取り合う様子を描いた絵を指す。永遠の愛、献身の愛のシンボルであるスイカズラの下、穏やかな表情を浮かべる2人。結婚式直後の絵と言われているこの作品はミュンヘンのアルテ・ピナコテークに所蔵されているという。
この絵をタイトルに冠する本書は、17世紀、バロック時代のヨーロッパを代表する画家ルーベンスを主軸に語られる物語。「忍冬の葉陰」から「愛」を、「バロックの輝き」から「平和」を願ったルーベンスが、何を見て、何を感じていたのかを垣間見ることができる。
ルーベンスと聞いて、最初に思い浮かべたのが、子どもの頃にテレビで見たアニメ『フランダースの犬』。画業に憧れていた主人公ネロが最後に一目でも、と見たがっていた絵画(アントワープ大聖堂にある「キリストの昇架」と「キリストの降架」)の作者、ということだった。また、学校の美術の時間に見たルーベンスの自画像は射抜くような視線がちょっと怖くもあり、不機嫌そうな巨匠だとも感じていた。
ところが、本書を読む限り、私の認識はかなり間違っていたようだ。ドイツで生まれ、アントワープを故郷とするルーベンスの両親の物語から、17世紀のヨーロッパの様子、ルーベンスが経験した恋愛までを詳細に追う中で、彼の寛容さとチャーミングな人柄が伝わってくる。さすがは、その時代の権力者と友好関係を築いた名外交官として名を馳せた男。
本書の中で随所に見られるのが、テンポ良く紡がれる会話。飽くなき好奇心で相手を質問攻めにしてみたり、愛する人に優しい言葉を掛けたり。現代を生きる読者に、ルーベンスの外交の妙とバロックの息吹を感じて欲しいと願う筆者は、ルーベンスのことを古くからの友人について語るかのごとく雄弁に、親愛の念を持って綴る。
これを機にヨーロッパ各地にあるルーベンスの作品をじっくり観てみたい、そう思わせる1冊だ。(高)