幻冬舎 ISBN: 978-4344411821
例えば、「宝くじで1億円が当たったら、どんな生活を送りたい?」こんな、妄想的な問いかけに自分なら何と答えるだろう?本書に描かれているのは、その問いに対する主人公サチエの答えとも言えるかもしれない。しかし、勘違いなさらぬように。一攫千金を狙うギラギラした物語ではありません。
小説「かもめ食堂」は、フィンランドのヘルシンキが舞台。そこに小さな食堂(かもめ食堂)を構えるサチエ、ふとした縁から食堂で働くことになった2人の日本人女性、そして食堂に通う地元のお客さんたち……と、個性的でわけありな人物が多数登場するが、あくまでゆったり、そして淡々とストーリーは展開する。「人はみんな変わっていくものですから」とは、サチエの言葉。日常の中にある大なり小なりの波を乗り越え、それぞれがまっすぐに自分を見つめ直していく。
その中心にあるのは、日本のソウルフード「おにぎり」。かもめ食堂のイチオシメニューであるそれは、実家の食卓で味わう「いつもの味」に感じるような幸福感を象徴している。そして、1つ1つ心を込めて「おにぎり」を握る様子は、日々のささやかな幸せを見落とさないように、丁寧に人生を生きることと似ている。そんな、静かな幸せと、日々をしなやかに生きる凛とした強さを感じさせる本書に、読後ぐっと感じ入るものがあった。
もともと映画のために書き下ろされた作品とあって、小説を読んだなら、映画も鑑賞することをオススメする。小説には、それぞれの登場人物が抱える過去や想いが細かに描かれているが、映画の中に映し出されるヘルシンキの街の雰囲気、会話のテンポが物語をより魅力的に、立体的に見せてくれる。
実際にヘルシンキを旅する機会があったら、映画のロケに使われたカフェ(下記参照)にも立ち寄ってみたいな。(高)
Kahvila Suomi(カフェ・スオミ)
住所: Pursimiehenkatu 12, 00150 Helsinki, Finland
www.kahvilasuomi.fi