ドイツ人が見たフクシマ
脱原発を決めたドイツと
原発を捨てられなかった日本
熊谷 徹
発行元:保険毎日新聞社(2016/3/11)
ISBN-13: 978-4892932700
先日、世界最大級の産業技術見本市「HANNOVER MESSE」に取材に出た。その道中で同書を手に取った。東日本大震災から丸5年が経った2016年3月11日に日本の店頭に並んだという『ドイツ人から見たフクシマ』は、弊誌でコラム「独断時評」執筆中の熊谷 徹さんによる17冊目の著書。
本書は、まだ生々しく記憶に残る2011年3月11日に時計の針を戻す。本書にある通り、筆者もまた、ニコニコ動画のNHKニュースを流しっぱなしにし、日本からのニュースに必死で食いついていた在独日本人の一人だった。そして、ドイツ・メディアによる報道が日に日にセンセーショナルな熱を帯びるのを歯ぎしりしながら追っていた。5年を経た今、当時日本で実際に起こっていたことが段々と判明してきた。どれほど、福島第一原発が危うい状況であったかが。この未曽有の原子力災害の被害について評価をするには、5年という月日はまったく十分ではない。しかし、フクシマをきっかけにドイツが脱原発にかじを取り、当事国の日本が原発を再開したという、エネルギー政策の根底にある両国の違いについて考えるタイミングとしては、早過ぎることはない。日本には、人間の想像を超える自然災害が襲ってくる可能性があることを、熊本地震からも実感したばかりである。
本書で熊谷さんは、脱原発を決めたドイツのエネルギー政策についての日本メディアの主張「再生可能エネルギーのコストの高騰」「ドイツは他国から原子力エネルギーを購入している」などに、丁寧に反論。ドイツが国民的な合意の上で、脱原発以外の道を閉ざしていることを詳細なデータとともに紹介している。そこから改めて知る。ドイツの脱原発はこの5年で達成された訳ではないのだ。そして、読者にこう問いかける。私たちの人生、世界にとって大切なことは何か? 何を選んだかが、日独のエネルギー政策の違いの根底にあるようだ。
未来を創る技術を見たハノーファーからの帰り道、車窓から風力発電の風車が見えた。そして、黄金に輝く菜の花畑と美しい自然が見えた。ドイツ人が守りぬく決意をした風景なのだと思った。(高橋 萌)