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せめて一時間だけでもせめて一時間だけでも ~ホロコーストからの生還
ペーター・シュナイダー 著 八木輝明 訳

慶應義塾大学出版会
ISBN 978-4-7664-1402-8

ナチス政権下のベルリン。ユダヤ人が逮捕され強制収容所へ送られていくなか、若きユダヤ人音楽家コンラード・ラテは地下潜伏生活を送り、次々と寝床を変えながらナチスの手から逃げていた。ベルリンに在住していたユダヤ人16万人のうち、約半数が外国へ逃れ、戦後まで奇跡的に生き延びた人はわずか1500人。ラテがのちに50人の援助者の名前を挙げているように、一人のユダヤ人が生き延びるには、多くの良識あるドイツ人の手助けが必要だった。

当時ドイツでは、民間人の多くが、独裁政治を恐れて自分も罪に加担した。一方で、自分の危険を顧みず、ユダヤ人に人道的に手を差し伸べた勇気ある市民たちがいた。ユダヤ人をかくまったことを隣人に密告され、殺害された一般の人々。ベルリンにあるユダヤ人を偲ぶ記念碑の中に、そんなベルリン人を称える記念碑はないという。

スティーブン・スピルバーグ監督の映画『シンドラーのリスト』によって、ユダヤ人を救ったドイツ人の話は有名になったが、それまで、草の根レベルでユダヤ人を助けたドイツ人がいたことはほとんど知られていなかった。訳者の八木はこの事実を、「ドイツではこのような話を、罪の無害化を計り、免罪符を得ようとしている、という思想風土が続いてきたから」だと述べている。

本書の主人公ラテは、戦後、ベルリン・バロック・オーケストラを結成し、数十年にわたって指揮者を務めた人物。大戦中、ラテがいかに過酷な状況に置かれていたか、どのようにナチスの迫害をくぐりぬけてきたかが、リアルにそして読みやすく描かれている。正義を保つことは難しい。だからこそ、戦時下という特殊な状況のなかで、正義を持ち続けたドイツ人がいたことを心に留めておきたい。(令)



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