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毒ガス開発の父ハーバー毒ガス開発の父ハーバー ~愛国心を裏切られた科学者
宮田親平 著

朝日新聞社 
ISBN 978-4-02-259934-6

ドイツのノーベル賞科学者フリッツ・ハーバー。毒ガスを開発したことで有名だが、日本と深い繋がりがあることを知っている人は少ないのではないだろうか。本書は、時代に翻弄された彼の生涯を描くとともに、彼が尽力した日独関係の親交の歴史をも明らかにする。

時代はビスマルクの統治下。ユダヤ人の両親のもとに生まれたハーバーは化学の道を志し、反ユダヤ主義の障壁にも負けず、持ち前の勤勉さでカールスルーエ大学に職を得る。

まず、合成肥料の元となるアンモニアの合成法を開発し、ドイツの食糧危機を救った。しかしアンモニアは火薬の原料でもあったため、ドイツは第一次世界大戦へと突入。次第に形勢が不利になるなか、早く戦争を終わらせるために毒ガス開発に没頭していく。しかし自身も科学者の妻クララは、これに自殺という形で抗議を示した。

戦前には世界を凌駕していたドイツ科学界だったが、敗戦後は困窮を極めた。それを救ったのは、星製薬の創業者・星一であった。ハーバーは日本への技術供与に貢献し、1926年には日独の文化交流機関「ベルリン日本研究所」を開設、初代所長に就任した。訪日時の講演で「美の繊細さが日本独自の独創的な文化だろう」と、日本のすばらしさを真っ先に理解した人物でもあった。

戦争を自分の発明で長引かせてしまったかもしれないと、敗戦後は深い絶望感を味わい、アインシュタインからは「才能を大量虐殺のために使っている」と非難された科学者。ユダヤ人であるがために、人一倍ドイツ人になり切ろうとしたが、結局はヒトラーの第三帝国に裏切られる。心から愛した祖国の地を再び踏むことはなかった彼の生涯に、悲哀を感ぜずにはいられない。(令)



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