ジャパンダイジェスト

都市の交通を変える?話題の近未来型モビリティー EスクーターのABC

2019年7月にドイツで解禁され、日本でもついにサービスが開始した電動キックボード。ドイツでは「Eスクーター」と呼ばれる、エコでモダンな街づくりのために開発された、新しいタイプの乗り物だ。街ゆくEスクーターの軽快な走りに「乗ってみたい!」と憧れつつ、あちこちで事故が発生し、ちょっと乗るのが怖い……という人もいるだろう。今回は、そんなEスクーターの実態を紹介しながら、乗り方や交通ルールを解説する。(Text:編集部)

Eスクーター

そもそも「Eスクーター」って?

電動アシスト機能付きキックスクーターのこと。従来の「キックボード」のように地面を蹴って進むのではなく、電動で自走するため、体力を使わずに坂道も登ることができる。300ユーロ代から販売もされているが、乗り捨て可能なシェアリングサービスの利用が主流。

  • メリット ・体力を使わない
    ・バス停や駅までの短距離移動がラク
    ・渋滞に巻き込まれない
  • デメリット ・ほかの移動手段に比べて割高
    ・長距離移動には不向き
    ・都市交通にまだなじんでいない

米国生まれのパーソナルモビリティー

ドイツ国内でEスクーターが登場したのは、2019年7月のこと。当時、その目新しさで人々の注目を集めると同時に、新聞やテレビではEスクーターによる事故のニュースも目立つようになった。それにもかかわらず、購入するには何カ月も先まで待たなければならないほどの人気ぶりで、Eスクーターのシェアリング企業は次々と国内の都市に事業を展開している。

そもそもEスクーターは、「パーソナルモビリティー」の1つとして米国で誕生。パーソナルモビリティーとは、街中での近距離移動を想定した1~2人乗りの小型電動コンセプトカーなどを指す未来型の乗り物だ。昨今、自動車メーカーが徐々にガソリン車やディーゼル車を廃止。プラグイン・ハイブリッドや電気自動車が主流になろうとしている一方で、二酸化炭素(CO2)排出量が少ないといわれるEスクーターは、都市部での新しい移動手段として現在欧米を中心に急速にシェアが拡大している。

2017年の登場以降、瞬く間に人気を博し、パリやイスラエルの首都・テルアビブにも米国発のE スクーターシェアリングの企業Limeが参入。やがてドイツもそれに目をつけ、交通・デジタルインフラ相のアンドレアス・ショイアー氏(CSU)は、Eスクーターが「非常に大きな将来の可能性」を秘めているとして、国内でEスクーターを解禁することを決定。同氏は「私たちの都市は、近代的で環境に優しく、クリーンな移動手段を求めていた」と話し、「(Eスクーターは)車に代わって、駅やバス停から自宅、職場までのラストマイルにとって理想的だ」と述べた。

駅やバス停から自宅などの目的地までのことで、比喩的に「マイル(約1.6キロ)」という言葉が用いられている

「環境に良い」はウソだった?

ドイツでは、2019年6月15日にEスクーターの一般道路使用に関する規制が発行され、7月15日から公道を走ることが法律で認められた。Limeやベルリン発のTierをはじめ、シェアリングタイプのEスクーターが突然街中を走り始めたことは、記憶に新しいだろう。しかし、実際に蓋を開けてみると、多くのドイツ人が予想していたようにEスクーターによる事故が発生し、その安全性について疑問の声が上がった。交通ルールを知らずに利用する人が多く、飲酒運転や交通違反も後を絶たない。また、歩道に駐車されたEスクーターが車椅子利用者や視覚障がいのある人々の通行の妨げになっていることも指摘されている。それどころか、本当は環境に良くない、という専門家まで登場した。

都市ごとのE スクーター総数(2019年7月15日)3企業とも人口が密集する都市を中心に展開。
人口の少ない地域に参入するかどうかは、今後の課題となりそう

IOP Publishingで公開された米国の研究報告によると、1キロメートルあたり自動車が257グラムのCO2を排出しているのに比べ、Eスクーターは126グラムと少ない。しかし、電動自転車の25グラムやディーゼルバスの51グラムと比較すると、より多くのCO2を排出していることが分かる。そこには、Eスクーターの製造過程、充電のための回収作業などで発生するCO2排出量も含まれるからだ。

Eスクーターの今後の課題

こういった批判にさらされながらも、Eスクーターシェアリングを展開する企業は着々と前進しているという印象だ。本当のエコフレンドリーを実現するために、企業の共通課題として、再生可能エネルギーのシェアを100%にすること、現在数カ月と言われるE スクーターの寿命をできるだけ延ばすこと、集配距離を短縮し効率化を図ることなどが挙げられる。また、Tierの共同設立者であるユリアン・ブレージン氏は、ビジネスサイトGründerszeneのインタビューで、Eスクーターは車やバイクに比べてはるかに事故が少ないことを指摘。事故件数を減らすために、Tierではアプリを通じて安全トレーニングを実施しているという。さらにデンマークでは、広い自転車道のおかげでE スクーターによる事故件数が少ないため、ドイツにおける都市のインフラ整備も必要があると語った。

全体的に辛口の意見が多いドイツだが、Eスクーターの導入が成功か失敗か、判断を下すのは時期尚早と言えそうだ。むしろ、より良い都市生活の実現のために、市民を巻き込みながら試行錯誤している段階と言えるかもしれない。そのなかで一人ひとりができることは、ルールを守り安全運転を心がけること。まずは、この近未来的な乗り物に試しに乗ってみるところから始めてみるのはいかがだろうか。

参考:Tagesspiegel「Entscheidung zu Elektromobilität / Regierung macht Weg frei für E-Scooter」(2019年4月3日)、Forbes JAPAN「eスクーターは便利でも賛否両論 欧州の都会から見る危険性と事例」(2019年7月14日)、Süddeutsche Zeitung「Viele Unfälle und wenig Umweltnutzen」」(2019年8月10日)、Gründerszene「Tier-Mobility-Gründer „Leider ist die E-Scooter-Debatte oft recht einseitig“」(2019年8月10日)

編集部スタッフが実際に体験!
初心者のためのEスクーターガイド

ドイツの主要都市でシェアリング事業を展開するTierのEスクーターに、編集部スタッフが初挑戦。安全にEスクーターに乗るためのポイントや、実際の乗り心地をレポートする。じっくりシミュレーションして、Eスクーターを楽しんで!

TIER

Tier

Tier

2018年10月にベルリンでスタートアップしたEスクーターの会社。オリジナルのEスクーターを開発し、ドイツの17都市をはじめ、欧州各地や中東でシェアリングサービスを展開している。www.tier.app

ドイツ国内:ベルリン、ビーレフェルト、ボーフム、ボン、ケルン、デュッセルドルフ、フランクフルト、ハンブルク、ハノーファー、ハイデルベルク、インゴルシュタット、ルートヴィヒスハーフェン、マインツ、マンハイム、ミュンヘン、ミュンスター、ヴィースバーデン(2019年8月現在)

Tier利用料の目安
1ユーロ(ロック解除料)+0.15~0.19ユーロ/分(都市によって異なる)
※1回の利用料の目安は3~4ユーロ(10分程度)

5つのSTEPで乗ってみよう!

1アプリをダウンロードする

アプリをダウンロード

まずは、スマートフォンでTierのアプリをダウンロードし、ユーザー登録をする。

名前やクレジットカード情報を入力するだけなので、5分ほどで登録が完了する。一度登録すれば、利用料は自動引き落としなので、スマホさえあればいつでも利用可能。

2Eスクーターを探す

Eスクーターを探す

アプリで近くにあるEスクーターを探す。Eスクーターを見つけたら、QRコードをスキャンするか、アプリ内のEスクーターIDをタップしてロック解除。

乗る前にここをチェック!
□ ブレーキは利くか?
□ ライトはつくか?
□ タイヤはパンクしていないか?

3片足を乗せて、さあ出発!

片足を乗せて

片足をボードに乗せて、両手でハンドルをしっかり握る。地面についている方の足で、3~4回地面を蹴って出発!スピードに乗ってきたら、両足をボードの上に乗せる。

操作に慣れるため、まずは公園の中など広い場所で練習するのがおすすめ。ボードの幅が狭いので、特にガタガタした道はバランスを取るのが難しいことも。

4スピードアップする

スピードアップする

右手側のスピードレバーを使ってスピードアップ。自転車と同じように両サイドについたブレーキでスピードダウン(古いタイプの車種はボードに足ブレーキがついているので注意)。

スピードレバーを一気に押しすぎると急進してしまうため、少しずつ加速すると◎。スピードに乗ってどんなに気持ちよくても、周囲の交通状況に注意して。

5目的地に到着!駐車して完了

駐車して完了

目的地に到着したら、Eスクーターを駐車。駐車可能なエリアは、アプリの指示に従う。通行の妨げにならないように、駐車場所には配慮すること。「Fahrt beenden(乗車終了)」をタップして完了。

待ち合わせなどで急いでいるときに、なかなかバスやトラムが来なかったり、乗り損ねてしまった場合に利用すると、時間を短縮できて便利そう!

楽しく安全に乗るためのQ&A

Q: どこを走ってもいいの?
A: 原則的に自転車道だけ

自転車専用道のない場合だけ車道走行が認められている。歩道は走行禁止で罰金あり。また、対向車線を走らないように注意して。

Q: 速度制限はある?
A: 時速20キロまで

都市ごとに定められている最高速度(ドイツでは一般的に時速20キロ)を超えないように注意する。また、下り坂ではスピードを十分に落として走行すること。

Q: 子どもは乗っていいの?
A: 14歳以上から使用可能

ドイツでは14歳以上がEスクーターを使用可能。なお、TierのEスクーターを借りられるのは、18歳以上から。運転免許証は不要。

Q: ヘルメットはいらない?
A: 着用するのがベター

ヘルメット着用の義務はないが、各地で事故が発生していることから、着用が推奨されている。実際に、事故で怪我をする人はヘルメットを被っていないことが多いそう。

Q: お酒を飲んでも運転できる?
A: 飲酒運転は禁止

車やバイクの場合と同じように飲酒運転は禁止。特に夜間は視界が悪くなるため、飲酒していなくても注意して運転することが必要だ。

 
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