ジャパンダイジェスト

平成中村座・ベルリン公演現地リポート

5月14日から21日まで「世界文化の家」(Haus der Kulturen der Welt)で開催された平成中村座のベルリン公演は、大成功裡に幕を閉じた。「絶対に観る価値はある」(ターゲスシュピーゲル紙)、「見逃してはならない演劇体験」(モルゲンポスト紙)と絶賛した地元メディアの影響も大きかったのだろうか、多くのベルリンっ子や現地在住の日本人、さらには日本から駆けつけた追っかけなど、連日ほぼ満員の観客で会場は埋まった。

(取材・文:中村真人)

中村勘三郎
1955年、十七代目中村勘三郎の長男として東京に生まれる。3歳の時、中村勘九郎を名乗り初舞台。どんな役でもこなす卓越した演技力に加え、コクーン歌舞伎や平成中村座を立ち上げるなど、伝統的な歌舞伎の枠組みにとらわれない野心的な試みで話題を提供し続け、若い世代からも絶大な支持を受ける。2度のニューヨーク公演で成功を収めた後、今回のベルリン、シビウ(ルーマニア)が平成中村座にとって初の欧州公演となる。2005年3月には十八代目中村勘三郎を襲名。芸術祭賞、菊池寛賞など受賞歴も多数に上る。

今回の演目「夏祭浪花鑑」(なつまつりなにわかがみ)は、幕が開く前から役者たちがぞろぞろと客席に現れ、観客に声をかけながら回るという粋な演出で始まる。祭囃子が鳴り響く中、活気ある江戸時代の庶民の世界にいきなり引き込まれるというわけだ。終演後は、鳴り止まない 拍手に応えて、役者一同が舞台から降りてお客さんと握手しながら回るというサービスぶりで、演劇やオペラが盛んなベルリンといえども、ここまで熱気にあふれ、演じる側と観る側とが一体となった舞台は、そうそうお目にかかったことがない。千秋楽の後の打ち上げでは、「世界文化の家」のシェーラー館長が、「あなた方は、ベルリンに大きなプレゼントを贈ってくださいました」と最初に挨拶。その後、10回の公演を終えたばかりの中村勘三郎さんに少し話を伺うことができた。

平成中村座

「ベルリンの演劇は過激で面白いと聞いていたけど、本当にその通りだったね。お客さんの反応が面白いんだ。気に入らないと途中で帰ってしまう人もいるし、熱狂的な反応を示す人もいる。感想を聞くと、一人ひとりのコメントがみんな違うのがいい。日本だと、どうしても右に左にと流されてしまいがちでしょ。これは僕らが学ぶべきことだよ」

世界文化の家
会場となった世界文化の家

物語の前半で、ベルリンの人々にとりわけ強烈な印象を与えたのは、暗闇の中での儀平次殺害のシーン(「ここで本物の火の使用を認めてくれたベルリンの消防署に感謝しています」と勘三郎さん)から、突然まばゆいばかりに明るくなって祭りの場面へと移るところではなかっただろうか。舞台から客席に向かって踊り狂う10人の若者は、現地で雇われたエキストラだったのだが、その中の一人、フンボルト大学で日本学を学ぶペーター・トートさんに話を聞いた。ハンガリー系スロバキア人のトートさんは、日本語学習歴4年。日本には2カ月間住んだことがあるだけと話すが、敬語までしっかりと使いこなす。最近の日本のポップカルチャーより伝統文化にずっと興味があるという彼にとって、今回の仕事は最高の経験になったようだ。

「リハーサルでは串田和美先生(演出家)の指示を通訳したり、(芝居の冒頭ドイツ語で台詞を語る)勘三郎さんの息子の中村勘太郎さんにドイツ語を教えたりする機会もありました。歌舞伎役者さんたちの、演技に集中する姿はすごかったです。役者さんだけでなく、小道具や三味線弾きの方々まで、スタッフのほぼ全員とお話しする機会がありました。とにかく何もかもが楽しかった。勘太郎さんからは、『日本に来ることがあったら、ぜひ遊びにいらっしゃい』と声をかけてもらえたんですよ」と目を輝かせた。

千秋楽、勘三郎さんは観客のスタンディング・オベーションに応えて、「Ich komme wieder nach Berlin.(またベルリンに来ます)」と語り、ベルリンっ子を喜ばせた。

「初めてベルリンに来たとき、暗くて寒くて、正直あまりいいイメージではなかったけれど、今回3週間滞在してみてこの町が大好きになりました。かめばかむほどの味が出るというか、深いんだ。ニューヨークみたいにモノを売る町じゃないんだよね。そんなところにも惹かれました。ベルリンには絶対また来たいと思っています」

勘三郎さんとトートさん
写真左)ペーター・トートさん(左)と中村勘三郎さん
写真右)終演後、客席を一巡する役者たちは、観客から大歓声で迎えられた

 
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