寒い季節を温かく彩る ドイツのクリスマス飾り
いよいよ始まるドイツのクリスマスシーズン。ドイツ各地でクリスマスマーケットが開かれ、クリスマスツリーやアドヴェントカレンダーなど、家も街もさまざまな装飾で温かく彩られる。実はそれらのクリスマス飾りの多くが、ドイツの発祥であることをご存知だろうか。本特集では、そうしたドイツの代表的なクリスマス装飾とともに、ドイツ各地のクリスマスマーケットで手に入るアイテムをご紹介する。
(文:ドイツニュースダイジェスト編集部)
Weihnachtsbaum
クリスマスツリー
発祥地:フライブルク
モミの木などの常に緑を保つ常緑植物は、かつてゲルマン民族の間では冬の精霊を追い払い、豊穣を約束するものとして崇拝されていた。1419年にフライブルクのパン職人組合がクリスマスに木を飾り、それがクリスマスツリーの始まりといわれる。1570年ごろにはドイツ北部でも習慣となり、ブレーメンのギルドハウスには、リンゴや木の実、ナツメヤシをつるしたツリーが飾られたという記録が残っている。当初はプロテスタントの家庭にしかなかったが、19世紀になるとカトリック家庭でも飾るように。宗派に関係なくクリスマスに欠かせないものとなった。
Weihnachtskrippe
クリッペ
発祥地:イタリア(ドイツではミュンヘン)
イタリアでは、古くからキリスト降誕の情景「クリッペ」が展示されていた。16世紀、対抗宗教改革の一環としてイタリアのイエズス会士がミュンヘンへやって来た際に、ドイツにクリッペが紹介されたという。1607年には、ミュンヘンの聖ミヒャエル教会にドイツ初のクリッペが設置された。文字を読めない人でもキリスト生誕の物語が分かるような教育的ツールとしても、クリッペはたちまち人気に。その後、教会にクリッペを設置することを禁止された時期もあったが、裕福な家庭や農家にも伝わり、家庭でも置かれるようになった。
Christbaumkugel
ガラスボール発祥地:ラウシャ
テューリンゲン地方のラウシャでは、16世紀末からガラス製品を造っていた。クリスマスツリーが普及してくると、装飾としてリンゴや砂糖のお菓子がつるされたが、それらは貧しい住民にとって手の届くものではなかった。一方、ガラスの原料は手頃な価格だったため、1847年にガラス職人が色付きのガラス飾りを作ることを思い付く。この新しいツリー飾りは、すぐに小売店のカタログに掲載され、見本市でも紹介された。1880年には米国の実業家が大量に注文して需要が急増し、世界中に広まっていった。
Adventskalender
アドヴェントカレンダー発祥地:ミュンヘン
12月1日からクリスマスまでの日数を数えるためのカレンダー。24個の「窓」が付いており、毎日一つずつ開けるとその中に小さなプレゼントが入っていたり、絵が描かれていたりする。オリジナルで作るという家庭も少なくないが、現在売られているアドヴェントカレンダーを作ったのは、ミュンヘンのリトグラフ会社に勤めていたゲルハルト・ラング。幼いころに彼の母が、キャンディーの入った24個の小箱を毎日一つずつ彼に開けさせていたという思い出から、1908年にリトグラフを使ってアドヴェントカレンダーの製造を開始。1926年には窓の裏にチョコレートを入れたアドヴェントカレンダーも発売し、商業的に大成功を納めた。
Adventskranz
アドヴェントクランツ
発祥地:ハンブルク
ハンブルクの神学者ヨハン・ヒンリッヒ・ヴィッヒェルンは、自ら設立した児童養護施設で、クリスマスがいつ来るのかを子どもたちが分かるようにと、1839年に車輪を使ってクリスマス・カレンダーのようなものを作った。車輪には大4本、小20本のろうそくを飾り、 平日は小さなろうそく、アドヴェントの日曜日は大きなろうそくと、毎日新しいろうそくに火を灯した。下の輪っかの部分がモミの木の枝で作られるようになったのは1860年頃で、20世紀初頭までに教会や一般家庭でも飾られるようになっていった。現在では、ろうそくが大4本のみのものが主流。
エルツ地方の手工芸品 発祥地:ザイフェン
くるみ割り人形やクリスマスピラミッドなどの手工芸品は、ドイツのクリスマスに欠かせない装飾の一つ。実はこれらのほとんどが、ザクセン州エルツ山地にあるザイフェンという人口約3000人の小さな村で作られている。もともと炭鉱業で栄えたザイフェンだったが、鉱山の衰退によって職を失った炭鉱夫たちが、それまで趣味で作っていた木工おもちゃを本業に変えたのが始まり。今日でも村人の半分以上が何かしら木工おもちゃに関わる仕事をしている。
Nussknacker
くるみ割り人形
バレエなどでも有名なくるみ割り人形は、もともとは王様や衛兵など、「権力者の口をクルミでふさいでしまおう」という庶民のアイデアから生まれた。よく見るデザインのものは、ハインリヒ・ホフマンの絵本『くるみ割り王とあわれなラインホルト』に登場する「くるみ割り王」がもとになっている。
Engel und Bergmann
天使と炭鉱夫
ろうそくを手にした天使と炭鉱夫がセットになったモチーフ。鉱山の中での作業は暗く危険なものであったため、古くからエルツ地方の炭鉱夫にとって「光」はクリスマスを祝う大切なシンボルだった。そこに、彼らを温かく見守る妻を天使に見立てたモチーフが加わり、ペアで飾られるようになった。
Schwibbogen
シュヴィップボーゲン
アーチ型のキャンドルスタンドで、この形は鉱山の入り口を象徴している。炭鉱夫たちが仕事を終えて家族のもとへと安全に帰る道しるべとして、各家庭が窓辺にシュヴィップボーゲンを置き、明かりを灯したという。
Weihnachtspyramide
クリスマスピラミッド
ザイフェンの技術が集結した工芸品。数階建てのクリスマスピラミッドの中では、キリスト降誕のシーンや炭鉱夫のパレード、エルツ地方の風景などが再現されている。下で燃えるろうそくの熱によって、羽根車が静かに回転する仕組みになっている。
Räuchermann
煙出し人形
クリスマスに飾る人形で、1830年ごろに初めて作られた。中にお香をセットすると、口からもくもくと煙を出す仕組み。炭鉱夫をはじめ、牧師やパン屋、おもちゃ屋さんなど、エルツ地方に暮らす人々の生活を表現したさまざまなモチーフがある。
ドイツのクリスマスマーケットで見られる 世界最大のクリスマス飾り
世界最大のピラミッド&キャンドルアーチ
1434年から続くドイツ最古のクリスマスマーケットであるドレスデンの「シュトリーツェルマルクト」。その見どころの一つといえば、世界最大のクリスマスピラミッド。サンタや天使たちが飾られたピラミッドの高さは14.62メートルで、ギネスブックにも記録されている。入り口にあるキャンドルアーチも高さ5.85メートル、幅13.03メートルの特大サイズ!
世界最大のクリスマスツリー
世界最大のクリスマスツリーは、ドルトムントのハンザプラッツで行われるクリスマスマーケットで見られる。1996年に初めて設置されて以来、毎年このマーケットを華やかに照らしている。巨大なツリーは1700本のモミの木からできており、高さ45メートルで、重さは90トン。4万8000個のライトに彩られたツリーの頂上には、重さ200キロ(!)の天使が鎮座している。
世界最大のアドヴェントカレンダー
1996年以来、シュヴァルツヴァルトのゲンゲンバッハにある市庁舎は、毎年クリスマスシーズンになると巨大なアドヴェントカレンダーに変身する。市庁舎の24の窓が、アドヴェント初日から毎日18時になると一つずつ開けられていく。シャガールやウォーホルなどの芸術家から、現代のドイツ人イラストレーターの作品まで、毎年さまざまなコンセプトの絵を毎日楽しめる。
クリスマスマーケットで買いたいグッズ
わら細工のオーナメント
ドイツ南部で伝統的に作られていたといわれる、麦わらのオーナメント。ドイツの伝承では、羊飼いの少年が誕生したばかりのイエス・キリストに贈り物をしたいと思い、麦わらで「ベツレヘムの星」を作ったのが始まりといわれる。代表的な星型をはじめ、雪の結晶や天使などがある。
すず細工のオーナメント
すずは非常に柔らかく加工がしやすいため、19世紀ごろからツリーの飾りとしても使われるようになった。鋳造したすずのフィギュアには、職人によって繊細な絵付けがされている。こちらは、1796年創業の老舗すず製品工房ヴィルヘルム・シュヴァイツァー社のもの。
限定マグカップ
クリスマスマーケットの定番ドリンクといえばグリューワイン。提供されるマグカップは、それぞれのマーケットが毎年オリジナルで制作しており、気に入ったものは返却せずに持ち帰ることができる。各地のマーケットを周ってカップを集めるのも楽しい。
レープクーヘン
クリスマス菓子の定番であるレープクーヘン。その発祥の地はニュルンベルクで、シナモンやグローブ、コリアンダーなどの香辛料が効いていて食べ応えも抜群。マーケットでは、アイシングやチョコレートで装飾されたものが並ぶ。日持ちするので、クリスマス飾りとしても◎。