ワーホリ・留学以外の選択肢シリーズ 2
社会奉仕と職業体験を同時に
ドイツのボランティア制度
「BFD/FSJ」
ドイツに住んでみたい……。そんな思いを抱く人の多くは、まずワーキングホリデー制度や語学留学を思い浮かべるかもしれない。しかしドイツにはそれ以外にも、職業訓練やボランティア活動、オペア留学、フリーランスなど、さまざまな形で滞在する方法がある。本シリーズでは、そんなドイツにおけるさまざまな滞在方法や制度、その実体験をご紹介。第2回は、年齢や専門知識を問わず誰でも参加でき、社会・環境・文化など幅広い分野で活動できるドイツのボランティア制度「BFD」および「FSJ」に注目する。 (文:ドイツニュースダイジェスト編集部)
参考:www.bundesfreiwilligendienst.de
BFD/FSJとは?
BFD(Bundesfreiwilligendienst /連邦ボランティア制度)およびFSJ(Freiwilliges Soziales Jahr /社会奉仕年)とは、若者から高齢者まで幅広い世代が参加できるボランティア制度。社会、文化、環境、スポーツ、介護や教育の現場などの公益を目的とした多様な分野で活動できる。現在では、BFD・FSJ合わせて年間約10万人が従事しているという。
FSJはもともと若者向けに設計された制度であり、16〜27歳までが対象。一方、BFDは2011年に兵役と代替役務(Zivildienst)が廃止されたことを契機に導入され、27歳以上でも参加可能だ。そのため、キャリアの転換期にある人や定年退職後の人々にとっても、新たな活動の場を提供している。活動を終えると、証明書と評価書が発行されるため、就職時に有利に働くこともある。
活動期間は両制度とも最短6カ月〜最長18カ月だが、1年間を選ぶ人が多い。9月に開始される場合が多く、その後の大学進学や職業訓練に円滑に移行できるよう配慮されている。基本はフルタイム勤務だが、BFDでは週20時間以上であればパートタイムも可能。参加者には毎月の手当(300〜500ユーロ程度)が支給され、加えて食事や宿泊の提供、あるいはそれに代わる手当を受ける場合もある。また、社会保険への加入が義務付けられており、その期間の年金や失業保険の給付権利にもつながる。
さらに1年間の活動中には、25日間のセミナーに参加する義務がある。社会・政治・宗教に関する議論や将来の進路設計をテーマとしたセミナーなどがある。なおFSJは一度しか参加できないが、BFDは5年の間隔を空ければ何度でも繰り返し参加できる。
● BFD/FSJで体験できる職業の種類
社会分野(Sozialer Bereich)
保育園、高齢者介護施設、障害者支援施設、救急サービス、ホームレス支援、病院など
環境・自然保護(Ökologischer Bereich)
森林管理局、環境保護ステーション、動物園、国立公園など
文化(Kultur)
劇場、博物館、美術館、文化・芸術団体、図書館、文化財保護団体など
教育(Bildung)
宿題サポート、学習支援プロジェクト、全日制学校の放課後プログラムなど
スポーツ(Sport)
スポーツクラブ、健康スポーツ、スポーツ関連のレジャー施設など
インテグレーション(Integration)
移民背景を持つ人々のための統合プロジェクト、難民支援など
● ほかにもあるボランティア制度
FÖJ(Freiwilliges ökologische Jahr/エコロジーボランティア年)
16〜27歳が対象の、自然や環境分野でのボランティア制度。森林管理、環境教育、森林や公園、動物園、農業など自然保護・持続可能性に関わる幅広い分野で活動できる。活動中は保険が適用され、少額の手当も支給される。
https://oeko-freiwillig.de
EFD(Europäischer Freiwilligendienst/欧州ボランティア制度)
17~30歳対象。欧州連合(EU)のErasmus+プログラムの一環として、2~12カ月間、欧州各国や近隣地域で社会的プロジェクトに参加できる。語学研修、生活費や渡航費補助、手当も支給される。
https://ich-will-efd.de
IJFD(Internationaler Jugendfreiwilligendienst/国際青年ボランティア制度)
17~30歳対象。欧州連合(EU)のErasmus+プログラムの一環として、2~12カ月間、欧州各国や近隣地域で社会的プロジェクトに参加できる。語学研修、生活費や渡航費補助、手当も支給される。
https://ich-will-efd.de
1年間の職業体験!私たちのBFD奮闘記
なぜBFDを選んだのか? 言葉や文化の壁はどう乗り越えたのか?実際にBFDを経験した日本人の方々に、そのリアルな体験を伺った。
デイケアのBFDとして
みんなから頼られる存在に
お話を聞いた人
Fさん
日本でウェブコーダーとして働いた後、友人の会社で働くため渡独。しかしビザの問題により就職を断念せざるを得ず、介護施設のデイケアでBFDを実施することに。BFD終了後はその職場で正社員として採用された。
QBFDをやろうと思った理由は?
ドイツにどうしても行きたかった当時、友人が自分の会社で雇ってくれることになり、ひとまず渡独しました。ところが外国人局でビザの申請が却下されてしまい、すぐに次の就職先を探さなければならない状況に。そんななか、日本人の方の「BFD制度を使用してドイツに滞在していた」旨のツイートを偶然見つけ、ドイツに残る手段としてBFDを選びました。
Q従事先はどのように決まりましたか?
語学は過去にA1の証明書を取ったきりでしたが、私の場合はBFDのために語学の証明書の提出は求められず、面接で意思疎通ができれば大丈夫という感じでした。BFD斡旋団体との最初の面談では、今までの経験や今後やりたいこと、いつからドイツにいてどのビザで滞在しているかなどを聞かれました。会話の中で語学力も見られていたと思います。希望通りの職場で受け入れてもらえない場合もあるため、ほかにどのような選択肢を考えているかも聞かれました。
その後、その団体が応募先の介護施設と連絡を取り合ってくれ、私の元に介護施設から連絡がありました。そこで面接日を決め、面接には一人で行きました。もともと作業療法士の元での従事を希望していたのですが、その施設では不採用に。斡旋団体が私の条件に合いそうな別の介護施設を探してきてくれ、そこに面接に行き、後日採用されました。
QBFD先での仕事内容は?
出勤は平日のみで、土日祝は完全に休みでした。介護士の同僚たちは早番、遅番とシフト制で働いていましたが、BFDはフルタイム勤務のため、8〜17時まで働いていました。主な仕事内容は、デイケア利用者さんの食事の準備・配膳、テーブルや食器の後片付け、簡単な掃除、植物の水やりなど。介護士が助けを必要としている場合にはトイレ補助にも入りました。そのほかは臨機応変に、認知症患者さんの徘徊に付き添ったり、利用者さんと一緒にボードゲームをしたり、電話対応をしたりもしました。
作業療法士の仕事に興味があると伝えていたため、作業療法セラピーの時間は仕事を外れてセラピーに同行させてもらえました。やってみたいことはなんでも挑戦させてもらえ、クイズやビンゴの司会を務めたり、食事前のお祈りも担当しました。
ある利用者さんといつもやっていたボードゲーム
QBFDのセミナーでは、どんなことをしましたか?
年間25日間の参加義務があるセミナーですが、さまざまな体験ができるのは本当に貴重で、楽しい時間でした。多岐にわたる内容で書ききれないのですが、例えばアートセラピー体験、森の中で五感を刺激する体験、障害のある方々が働いている工房の訪問、旧東ドイツやユダヤ人迫害に関する博物館の訪問、巡礼路をみんなで歩く体験、手話体験、州議会の訪問などが記憶に残っています。クリスマスの時期には、みんなでデコレーションを作り、クリスマスマーケットも訪問しました。セミナーを通して同じBFDをしている仲間と知り合えることも心強かったです。また、FSJに従事している若者たちと一緒にセミナーを受けることもありました。
BFDのセミナーでクリスマスデコを作る様子
QBFDで大変だったことは?
ひとえに職場での言葉の壁でした。当時A2程度の語学力でしたが、同僚もデイケア利用者さんも全員ドイツ人、そして強い方言……。最初の3カ月はとても孤独だった記憶があります。それでも同僚たちは根気強く接してくれ、利用者のお年寄りの方々もとても親切で、うまくコミュニケーションできなくても仕事でやる気を見せようと心がけました。
そのうち同僚にとても信頼されるようになり、施設長にも「あなたはとても働き者で仕事のことを何でも知っているって評判よ!」と言ってもらえるほどに。同僚とは今でもプライベートで会うほど仲良しになりました。その施設での仕事が気に入っていたため、施設長に相談し、BFD後はそのまま正社員にしてもらえることに。1年ほど働きましたが、その後はパートナーと暮らすため別の街に引っ越しました。将来の展望の変化もあり、次のキャリアに向けて準備を進めているところです。
ある朝、出勤して発見した同僚からの誕生日プレゼント
QこれからBFDをする人へのアドバイスをお願いします!
ドイツ滞在のビザに困っている人や、ドイツ社会での仕事を体験してみたいという人にはとてもおすすめな制度です。BFDで成果を出せた場合、私のようにそのまま雇ってもらえる可能性もあります。一方で、BFDでは最低限の手当しかもらえないので、生活費を賄える貯金や資金源を確保しておくことは大切です。就活の際にもBFDの経験があることはプラスに見てもらえるので、今後ドイツに長く住みたい人は就職の足掛かりとして、チャレンジして損はないと思います!
幼稚園でのBFDと
語学学校の日々
お話を聞いた人
Eさん
ドイツのクラシック音楽や文化に興味があり、ワーキングホリデー制度を利用して渡独。その後、幼稚園でBFDを1年間実施。BFD後半はBFDをパートタイムに切り替え、語学学校にも通った。
QBFDをやろうと思った理由は?
もともとクラシック音楽が好きだったこともあり、ドイツに行ってみたいなと思ってワーキングホリデーで渡独しました。初めてBFDとFSJについて知ったのは、ドイツ語の語学学校に通っていた際に教科書の中で出てきたとき。そろそろビザが切れるというタイミングで、まだもう少しドイツに残りたいなと思っていたところ、知り合いの日本人の方がBFDをやっていたこともあって、私も挑戦してみることにしました。ちなみにその時点では、私はB1のドイツ語コースを修了していました。
Q従事先はどのように決まりましたか?
BFDを始める3カ月くらい前からネットで従事先を探し始め、BFDを斡旋している協会に直接メールを送り始めました。その後、BFDを斡旋しているある協会から返事をもらい、初めてそこで面談をした際におすすめしてもらったのが、後に私の従事先となる幼稚園でした。
本格的に契約書などのやりとりが始まったのは、BFDを始める1カ月くらい前でした。契約書以外にも、警察に行って無犯罪証明書をもらったり、予防接種を受けなければいけなかったりと、いくつかの準備が必要でした。結局、外国人局に提出する書類がギリギリになってしまったため、本来の開始日にはビザが間に合わず、遅れて開始することになりました。
BFD期間中は、市内交通チケットを割安で購入できるほか、美術館などでの各種割引も受けられる
QBFD先での仕事内容は?
仕事内容は、一言で言えば保育士のサポートです。子どもたちが遊んでいる間は、子どもたちの見守りをしたり、一緒に遊んだりするのがメイン。おやつの時間やごはんの時間はその手伝い。お昼寝の時間は、寝かす時に一緒に部屋に入って子どもたちを見守ったり(子どもたちが寝ている部屋に1人は大人がいなければならない)、お昼の会をしたり。あとは、ドイツでは冬の間でも庭で遊ばせることが多いので、服や靴の着脱もよく手伝っていました。
QBFD中にうれしかった・楽しかったことは?
幼稚園に出勤した初日、すぐに懐いてくれる子もいて、それがとてもうれしかったのを覚えています。あとは、子どもたちの成長を間近でみられたことでしょうか。例えば私が休暇で1週間職場に行かなかっただけで、1週間後に会った子どもたちがすごく変わっているんですよね。これまでのキャリアで保育に関わったことがなかったので、新鮮な驚きでした。
あと私自身は、ワーホリ中はドイツ社会に参加している感覚があまり得られていませんでした。そのため、BFDという形で正式に働けるということ自体がとてもうれしかった。BFDの場合は正社員や職業訓練生と比べて責任感やプレッシャーも少ないので、気軽に仕事を体験できるのもよかったです。
絵本の読み聞かせをすることも
Q反対に大変だったことは?
最初の頃はドイツ語の壁がすごく高くて、コミュニケーションに苦労しました。業務内容としても、「何時までにこれをやっておいてください」という明確な指示をもらえるわけではなく、子どもたちと遊ぶことがメインなので、「自分は今これをやっていていいのかな」「やることがないけど大丈夫かな」と不安になる場面も。もちろん保育士さんたちは、話しかけたら優しく教えてくれるのですが、最初は自分から声をかけることすらしんどく感じていました。裏返せば、BFDをやっていたことによって、ドイツ語はかなり鍛えられたと思います。
気候に合わせた服装を子どもたちに示すパネル
QBFDに困ったときなど、職場や斡旋先からどのようなサポートがありましたか?
最初はフルタイムで働いていたのですが、実は途中からはパートタイムに切り替えてもらいました。というのも、もともと保育士を目指していたわけでもないので、自分が何のためにこの場所にいるのかが分からなくなり、悩んでいる時期がありました。
そんなときBFDの斡旋先の担当者に相談したら、「働く時間を半分にして、自分の時間を作れるようにしてみたら?」とアドバイスしてくれました。もちろんその分、毎月の手当は減額されますが、後半はBFDと並行して語学学校にも通ったりしながら、最後までやり遂げることができました。
QこれからBFDをする人へのアドバイスをお願いします!
BFDはあくまでボランティアという立場なので、「頑張りすぎないこと」も大切なのではないかと思います。私も、日本人の感覚で頑張ろうとしすぎていて、初日はもう本当にしんどかった(笑)。いい意味でちょっと肩の力を抜いて、周りに頼りながらやれた方がBFDを楽しめるのではなと思います。
あとは、もし幼稚園でBFDをやりたいという方がいれば、子どもたちからたくさん病気や風邪をもらうので、健康に気をつけて頑張ってください!
BFD/FSJ開始までのステップ
BFD/FSJを始めるまでには、さまざまな準備が必要となる。ここではBFDを参考に、開始までのステップを確認しよう。
STEP 1
分野と活動先を探す
- 興味ある分野を決める(介護・教育・文化・環境・スポーツなど)
- 公式検索サイトでは、BFDをしたい街や職種など条件を絞って検索することが可能
- BFDを斡旋する団体(Caritas、DRK、Diakonieなど)で探す方法も
STEP 2
応募書類の作成
- 直接応募または地域のBFD斡旋団体を通して申し込む
- Lebenslauf(履歴書)、Motivationsschreiben(志望動機書)の提出が一般的
- 語学証明書の提出は不要な場合が多い
STEP 3
従事先での面接・1日体験
- 応募後は面接を行い、仕事内容、勤務時間、住居や食事の提供の有無などを確認する
- 双方の条件が合致すれば、正式に受け入れが決まる
- 1日体験をへて採用が決まる場合が多い
STEP 4
訓練契約の締結
- 採用が決まったら契約書に署名する
- 活動期間、勤務日と休日、手当や保険など、契約書の内容をしっかり確認する
STEP 5
ビザ・生活準備(ドイツ・EU国籍以外の場合)
- ドイツでの滞在許可証を申請
- 必要な書類:申請書、証明写真、パスポート、従事先の契約書、健康保険の加入証明書、賃貸契約書、住民登録証など
- 住居、保険、銀行口座などの生活基盤を整える