ライプツィヒ東部にある、「女の子」のためだけの場所。ミオ(MiO=Mädchentreff im Osten)と名付けられたこの場所には、平日の午後、主に10代の学校帰りの女の子たちが20人ほどやって来ます。ザクセン州で最も移民の多いこの地域とあって、ミオに集まる女の子たちも8割が移民です。ベトナム人、フランス人、米国人、英国人、スペイン人、韓国人、トルコ人、シリア人と、宗教も文化もまったく異なります。
ミオを運営する「ライプツィヒ女性文化団体 (Frauenkulture.V. Leipzig)」は、1990年に設立されました。東西の壁崩壊後、激動する社会における「女性の権利」を守るために、政治的活動を精力的に行っていた女性たちが中心となって立ち上げました。主旨は、女性による芸術・文化を支援すること。この団体は、ライプツィヒ南部に拠点を置き、展覧会やコンサート、映画上映、講演会、ワークショップ、セミナーなどを開催しています。
ミオの室内の様子
この文化団体がミオの設立に踏み切ったのは、2012年にライプツィヒ東部の小学校を対象に行ったプロジェクトがきっかけでした。「女性の職業」とは何か? をテーマに子どもたちに絵を描かせたところ、子どもたちは保母や看護師をはじめとする、代表的な女性の職業だけを描いたのです。例えば、イスラム教の家庭に生まれた女の子たちには、通常の学校教育を終えた後、「働く」という選択肢がほとんどありません。女性は結婚すると家庭に閉じこもるため、大学へ行く必要すらないと考えられています。ミオは、このような移民の女の子たちが手に職を持ち、経済的にも自立して、本当の意味でドイツ社会に統合できるようにすることを目的に、2013年に立ち上げられました。
基本的に、ミオの開館時間内は、スタッフがドイツ語の宿題をサポートします。ドイツ語の読み書きがまともにできない移民の親に代わり、ボランティアを含んだ3、4人のスタッフが交代で、女の子たちの日々の宿題を手伝います。さらに、自宅で幼い弟や妹の面倒を見なければならないために、宿題に手を付けられない女の子たちは、ミオにいるベビーシッターに弟や妹を預けて、勉強することができます。
イベントでフリーマーケットを開催する移民の少女たち
それ以外にも、思春期の女の子たちは、ここでいろいろな悩み事を相談することができます。学校でのストレスや将来への不安、疑問など、親切なスタッフに話を聞いてもらえるので、いつも女の子たちが集まります。費用はまったくかかりません。児童館と同じ役割のようですが、男の子は入室できません。自国の慣習や宗教観から不審感を持つ移民の親には、スタッフが根気強く、コミュニケーションを図りながら関係を築いていきます。親や学校からのストレスで潰されないように、ミオは女の子たちの救いの場となっているといえるかも知れません。
ドイツ建築家協会認定建築家。福岡県出身。東京理科大学建築学科修士課程修了後、2003年に渡欧。欧州各地の設計事務所に所属し、10年から「ミンクス・アーキテクツ」主宰。11年より日独文化交流拠点ライプツィヒ「日本の家」の共同代表。
www.djh-leipzig.de