4年に1度の西洋料理の祭典「世界料理オリンピック」が10月19日~22日の4日間に渡りエアフルトで開催されました。世界約40カ国から、1100人以上の料理人が一堂に集まり腕を競い合うこの大会に、日本からはナショナルチームとナショナルジュニアチーム(23歳以下)が参加しました。世界と肩を並べて戦った日本チームの熱戦をリポートします。
(文:高橋萌)
世界料理オリンピックとは
72カ国の料理人の団体で構成する世界司厨士協会が、4年に1度ドイツで開く世界最大の西洋料理の競技大会。団体部門・個人部門がある。最も厳しいとされる国際ジャッジで審査され、味だけでなく衛生面や食材の有効利用、栄養バランスなど50項目以上が細かくチェックされる。90点以上の評価で金メダル、80点以上で銀メダル、70点以上で銅メダルが授与される。
第22回世界料理オリンピック総合結果
ナショナルチーム(団体) | ナショナルジュニアチーム(団体) | ||
1位 | ノルウェー | 1位 | ドイツ |
2位 | ドイツ | 2位 | スイス |
3位 | スウェーデン | 3位 | スウェーデン |
4位 | シンガポール | 4位 | アメリカ |
5位 | カナダ | 5位 | 日本 |
25位 | 日本 |
9回目の出場となった日本代表ナショナルチーム
京都・滋賀から選抜されたシェフが3年半の準備期間をかけて勝負に挑んだ。世界料理オリンピックに先駆けて開催された「クレムリン国際料理大会」(2007年10月、ロシア)では2部門で金メダルを獲得した。
チームコーチ | 安田和彦(京都調理師専門学校) |
リーダー | 滝本将博(京都ブライトンホテル) |
久保田和行(京都調理師専門学校) | |
三浦健史(大津プリンスホテル) | |
南康成(ホテルニューオウミ) | |
村上貴(ホテルグランヴィア京都) | |
伊藤道彰(ルヴェソンヴェール) |
展示「タパス・祝祭日の料理」部門 | |
展示「コース・ベジタリアン料理」部門 | |
展示「洋菓子」部門 | |
レストラン部門 | |
総合25位 |
展示部門では、ショーピース(デコレーション)とのバランスが評価のポイントの1つです。エコの精神で、材料を無駄にしないことをコンセプトにショーピースを作りました。コンセプト自体は時代にマッチしていると評価を受けましたが、料理の素材が贅沢すぎるという審査員の鋭い指摘。料理とショーピースとのバランスが取れていれば、もっと高い 評価をいただけたと思います。
レストラン部門のメニューは、オードブルに「鳥のバロンティーヌとマレーヌのテリーヌ、野菜の酢漬け」。メインに「子羊のキャベツ包み、キノコのパテ、季節の野菜」。デザートには「竹筒のチョコレートムース包み、季節のフルーツをくずで固めたもの、オリジナル・クレームブリュレ」を準備しました。日本ならではの味と香りのバランスで他国と差をつける作戦です。例えば、マレーヌのテリーヌには海苔をはさんでいますし、竹筒の香りがチョコレートムースのアクセントになります。
訪問客も料理を味わえるレストラン部門、日本の料理のチケットは当日には1枚も残っていなかったんです。日本の料理に世界から注目が集まっていることを改めて実感しました。
日本代表ナショナルジュニアチーム「うま味チーム」
今回が初出場の日本ジュニアチーム。これまでは、世界とのレベルの差を理由に見送られてきたが、1908年に(現在の東京大学)教授だった池田菊苗氏によって、昆布のだしから「うま味」が発見されてからちょうど100周年を迎える節目の今年、日本の若き料理人たちの挑戦が始まった。
写真)展示の部で金メダルを受賞し、喜びを爆発させる選手たち
ジュニアコーチ | 三國清三(AJCA国際審査委員) |
セカンドコーチ | 中原月男(AJCA国内審査委員) |
ペイストリーコーチ | 石井卓(帝国ホテル) |
リーダー | 澤野惇史(22) |
伊藤亜紀(22) | |
鴨田萌子(20) | |
小泉淳哉(22) | |
遠藤貴也(22) |
展示部門 | |
レストラン部門 | |
総合5位 |
コーチ陣からの声
展示部門での金メダルは大偉業と言えます。レストラン部門の銀もすばらしい。レストラン部門で出したメニュー「うま味デラックス」は西洋料理でありながら、中身は柚子味噌やみりん、わさびなど日本の食材を使っている。しいたけや竹の子、だしでうま味を表現した点が非常に好評でした。
展示部門で披露したゼリー掛けの技術やデザートの完成度も高く、総合力が揃ってこそ果たせた結果だと思います。ジュニアの選手たちは、厳しいトレーニングを7カ月間積んできた。決して十分な時間ではなかったが、世界で戦えるレベルにまでに腕を上げた成長ぶりがメダルに結びつきました。
今までやってきた努力が実ったことに心がいっぱいです!この金メダルは、今回のオリンピックのために輪島の職人さんたちが作ってくれた輪島の漆器を始め、私たちに関わってくれた人たちすべてのおかげで獲れました。最高です!! ありがとうございました。
輪島漆器が「同心円」で繋ぐ日本と世界
日本ジュニアチームの挑戦を支えた若手漆器職人たちの活躍にも注目が集まりました。2007年3月25日、石川県能登半島沖で発生した地震は、マグニチュード6.9の規模となり、漆器や朝市で有名な輪島に大きな被害を与えたことは記憶に新しいと思います。
今回、ジュニアチームの展示部門で料理を盛りつけた器は全て輪島の漆器。このオリンピックのためだけに、輪島の古込和孝さん、坂口彰緒さんを始めとする輪島漆器青年会の職人たちがデザイン、制作を手掛けました。
輪島復興への願いを乗せた器は、世界の舞台で特別な存在感を醸し出していました。豪快に飾り立てた各国の展示の中で、黒と朱の色がぐっと観衆の目を惹き、料理を引き立てていました。
デザインを担当した古込さんの想い
テーマは「同心円」。同じ心、同じ円の中で一緒にやろう。料理の世界と漆の世界、または日本と世界を同じ円の中に捉えるという発想です。
指紋1つでも減点の対象になる厳しい審査が行われる料理オリンピックのために「石目乾漆」という古典技能を復活させました。表面をざらつきのある石目乾漆で仕上げることにより、指紋が付かない器が出来上がりました。朱・黒・白のバージョンで作り上げた自信作です。料理を引き立てるよう、じゃまにならないよう、シンプルに作り込んでいきました。
職人、坂口さんの覚悟
評価されるかされないか、どちらかだろう、中途半端な評価はされないはずだと思っていました。漆の魅力が世界の人にわかってもらえるかどうかが勝負の分かれ目。展示部門での金賞は、漆の文化が世界にも受け入れられたということを意味します。自分で作ったものですが、本当にきれいに仕上がっていると、料理を並べたときに、一層思いました。