健康な食生活は、理想の身体作りへの第一歩。とはいえ、日本とは勝手が違うここドイツの食文化に馴染めず悩んでいる読者は多いだろう。そこで編集部が着目したのが、自然食事法と言われる「マクロビオティック」。今号では、この道に詳しいドイツ在住のMikaさんに、体を中からキレイにしてくれるというマクロビオティックの基本的な考え方と実践法をうかがいました。体の中側も外側もピカピカに磨けば、“美の女神”が微笑みかけてくれるはず!
マクロビオティック入門
(編集部):ドイツ在住歴7年。当地の美味しいお肉を中心とした食事を続けた結果、現在は肥満街道まっしぐら。自分の体内事情はできれば知りたくないという現状を打開すべく、食生活の大改革を目論むマクロビオティック初心者。 | Mikaさん:2004年よりデュッセルドルフ在住。09年からマクロビオティックの勉強&実践を始め、現在は市内の自然食品店に隣接する小さなキッチンでマクロビオティック・ランチを提供中。KIJ(クシインスティテュートオブジャパン)認定インストラクター。 |
Mikaさん、早速ですが「マクロビオティック」とは、そもそも何ですか?
マクロビオティックとは、単なる食事法にとどまらず、どのように生きるかをも考える1つの哲学で、「マクロ (macro=偉大な/大きな)」と「ビオス(bios=生命)」という古代ギリシャ語に由来します。西洋医学の父ヒポクラテスは長寿と健康を目指す治療法としてこの言葉を使い、環境と食事に重点を置いた治療を行いました。また、マクロビオティックは日々自然と向き合う生活を楽しみながら、幸せに暮らそうという生活法でもあります。
この生活法および食事法は、日本の伝統食が基本となっています。その思想を世界に広めるべく、仏パリを拠点に食事療法として現代によみがえらせたのが、東洋医学・哲学の研究者であった桜沢如一先生(1893~1966:欧米名はジョージ・オーサワ)です。桜沢先生は、「陰陽」という言葉を使って一般の人に分かりやすくこの食事法を説きました。その後、桜沢先生のお弟子さんであった久司道夫(1926~)先生が、米ボストンを拠点にマクロビオティックの思想をより現代に合うように体系化し、発展させていったのです。
マクロビオティックのキーワードは、ずばり「陰陽」ということですか?
はい。陰陽はマクロビオティックの重要な指針の1つです。宇宙のあらゆる現象と存在は常に相対し、反対にあるもので補われているという考え方です。例えば太陽と月、昼と夜、男と女、生と死、動と静、温と冷・・・・・・といった具合です。万物は相互に盛衰、転換、交代し、移り変わるので、陽のみ、陰のみというものはなく、必ず両方を内包しています。また、陰と陽の間の状態を中庸と言います。
その陰陽の考え方を食事で実践するわけですね。
マクロビオティックでは陰陽、さらに「五行」の考え方を用い、適した食材を選んで料理法に活用します。例えば今の季節は冬、自然界では陰性となっています。ここで上手くバランスを取るには、身体を温める働きをする陽性の食物や料理法を増やします。逆に夏は暑く、自然界は陽性になるので、身体を冷やすために夏野菜や生食を増やします。また、個人差のある体質やライフスタイルを考慮し、自分に合うように陰陽を調整することも大切です(下記の 「食べ物陰陽表」参照)。
五行とは人々が昔、自然界にある木・火・土・金・水を使い、直感で感じ取っていた変化です。例えば四季。春先から少 しずつ暖かくなり、夏に暑さがピークを迎え、秋が近付く につれて涼しくなり、冬には寒さが最も厳しくなります。1日の動きも同様で、太陽が昇り皆が動き出す朝は春、太陽が一番高い地点に達して最も暖かくなる昼は夏、太陽が沈 み涼しくなる夕方は秋、暗くて寒い夜は冬に例えられます。このように季節や時間帯、私たちの環境は常に変化するので、そのサイクルに適応できるよう、その時々に必要なエネルギーを摂ることが重要なのです。
陰性 | 中庸 | 陽性 | |
色 | 紫 ‐ 藍 ‐ 青 ‐ 緑 ‐ 黄 ‐ 茶 ‐ 橙 ‐ 赤 | ||
味 | えぐい ‐ 辛い ‐ 酸っぱい ‐ 甘い ‐ 塩辛い ‐ 苦い ‐ 渋い | ||
大きさ | 大きく拡散している | 小さく収縮している | |
季節 | 春・夏に成長する | 秋・冬に成長する | |
野菜の例 | なす科 なす トマト じゃがいも |
いも科 さといも さつまいも |
根菜 玉ねぎ 大根 かぼちゃ ごぼう にんじん れんこん じねんじょ |
代表的な食品 | 白砂糖 アルコール 清涼飲料水 油 バター 香辛料 化学調味料 |
全粒穀物 雑穀類 海藻 大豆 小豆 ごま 番茶 |
肉類 魚介類 卵 チーズ 焼いた粉物 塩 醤油 味噌 |
自然や四季に対する敏感な感覚を大事にするマクロビオティックは、日本人にはイメージしやすい気がします。
おそらく、欧米人より日本人の方がマクロビオティックを受け入れやすいのではないかと思います。ご飯にお味噌汁に簡単な副菜という食事スタイルは、日本人が先祖代々受け継ぎ、慣れ親しんできたものだからです。
慣れないことが多いドイツの地で暮らしているからこそ、食事で心と身体を整えることで柔軟に環境に適応したいものです。何千年もの間、穀物を主食にしてきた日本人は、穀物を消化しやすい身体になっており、戦後日本人の食生 活が大きく変わったと言えども、人間の基となる構造は変わっていません。日本人が典型的なドイツ人の食事スタイルに合わせて分厚いステーキやアルコールを頻繁かつ大量に摂取していると、たちまち生活習慣病にかかってしまうのは、身体構造の違いによるところが大きいと言えます。
でも、お肉や甘いお菓子が大好きな私には、マクロビオティックを今すぐ実践できそうもありません・・・・・・。
マクロビオティックでは、「食べてはいけない」とされるものはありません。ただ、陽性が強い肉、卵、焼きしめた粉ものなどを摂り過ぎると、かえって陰性のものを欲します。例えばこってりとしたお肉料理には、じゃがいもを添えたり、強いお酒が飲みたくなったりと、自ずと陰陽のバランスを取っているのです。そのバランスの振り子が大きく一方に傾くほど、その後は反対方向に大きく振られます。極端な陽性と陰性の食べ物でバランスを取っていると、じわじわと身体に大きな負担が圧し掛かることになるので、可能な限り中庸な食材でバランスを取ることがポイントです。
とはいえ、何事も無理をすると長続きしませんので、まずは「今よりベター」を目指しましょう。1日1食、あるいは週1回でも季節の野菜や全粒穀物を丁寧に調理し、ゆっくりとよく噛んで食べると、体調が少しずつ変化していくはずです。
具体的には、どんな変化が見られるのでしょうか?
この食事法は今日始めて明日すぐに変化が出るというものではありませんが、1週間も続けると快適な睡眠を得られるようになったり、朝のお通じが良くなったりと、何かしらの変化が見られるようになります。焦らずゆったりと構え、自分の身体の声に耳を澄ませるような心の余裕を持つことが大切。すると、ささやかな変化にも気付けるはずです。
また、食事を変えることで「もっとキレイになって自分を好きになりたい」「生き生き、はつらつと意欲的に仕事をしたい」など、どんな自分になりたいかを具体的にイメージしてみるのも良いでしょう。
マクロビオティックとは、自然の変化や条件に身体を適合させて調子を整えていくということなのですね。では、どんなふうに実践すれば良いのでしょうか?
1. まずは玄米を食べてみる
玄米を浸水して数日置くと芽が出ますが、同じお米でも白米は精米された時点で酸化が始まり、浸水したまま放置すると腐ってしまいます。玄米の強い生命力を身体に摂り入れることで、私たちの身体にもエネルギーが行き渡ります。また、玄米には美容の素であるビタミンB群が多く、デトックス効果もあります。
2. 調味料を自然なものに変える
化学調味料ではなく、伝統的な製法で作られたお味噌や醤油を使うことで有効な酵母や乳酸菌を体内に摂り入れ、腸内環境を整えてキレイな血液を作ります。
3. 元気な素材を丸ごと使う
しっかり根を張ったにんじんなど、元気な野菜を選びましょう。野菜の皮や根には栄養素がたっぷり詰まっているので、皮を剥かずに丸ごといただくのがコツです。
4. よく噛んで、腹八分目を心掛ける
玄米を口の中に頬張ってよく噛むと、徐々に甘みが出てきます。咀嚼により唾液中のアミラーゼがデンプン質を分解して糖にし、身体に消化吸収しやすい状態にしてくれます。 一口最低でも30回は噛むようにすれば小食になり、手間いらずのダイエットとしても有効です。
5. 食事は楽しく
大切な人と囲む食卓は、温かく幸せなひと時です。愛情を込めて作った料理を家族や友達に振舞うのも、食事の醍醐味の1つ。この幸せな時間をもっと大切に、噛み締めるように楽しみましょう。
Mikaさんのマクロビオティック・ランチ / レッスン
マクロビオティック・ランチは完全予約制。レッスンは、それぞれのライフスタイルに合わせた少人数制のコースを只今準備中。
Oekoma – der Bioladen in Düsseldorf - Oberbilk
Heerstraße 19, 40227 Düsseldorf
Tel: 0211-7213626(独英)
www.oekoma.de
お問い合わせ: このメールアドレスは、スパムロボットから保護されています。アドレスを確認するにはJavaScriptを有効にしてください
マクロビオティック実践
Mikaさんいわく、自然食品を扱うお店が充実しているドイツでは、たいていのマクロビオティック食材は入手可能だそう。彼女イチオシの食材と簡単レシピで、マクロビオティック生活を始めてみよう。
ドイツで手に入る!
オススメのマクロビオティック食材
小野崎 麦味噌
Onozaki Gerstenmiso
栃木県にある味噌醸造の老舗、小野崎糀店の麦味噌は、山に囲まれた自然豊かな環境の下で1年以上掛けて木樽醸造されたもの。味、香り共に格別。玄米
Rundkorn Spitzenreis
うるち米の一種(あるいはうるち米ともち米との中間米)。圧力鍋で炊くことで、もちもちした食感と甘みが引き出される。また、土鍋などで炊くとさらっとした食感に。麦芽糖 / 米飴
Gerstenmalz / Reissirup
麦芽糖は、麦から造られた素朴でやさしい味の甘味料。スイーツを作るときの甘味料に使えば、身体への負担を軽減してくれる。米飴は水飴の一種で、麦芽糖よりさらっとしていている。ジョウセン醤油
Johsen Sojasoße
伝統的な製法で長時間熟成、発酵して作られた仙台のジョウセン醤油は、素材の味を引き出し、栄養価も抜群の優れもの。普段の料理に数滴加えるだけで、しっかりとした味付けに。今すぐできる!
簡単マクロビオティック・レシピ
玄米ご飯 ─ 圧力鍋を使った基本の炊き方
玄米 | 3カップ |
水 | 4+1/2カップ(900cc) |
※水の量は玄米に対して1.2〜1.8倍 | |
自然海塩 | 3つまみ |
1. | 玄米をボールに入れて水を注ぎ、2、3回、水を替えながらやさしく洗って水気をよく切る。 |
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2. | 圧力鍋に移し、分量の水を加える。水が温まるまで約10分ほど中火にかけた後、塩を加え、蓋をして強火にする。圧がかかったら弱火にして30分炊く。 |
3. | 火からおろし、圧が抜けるまで10~15分蒸らす。蓋を外し、しゃもじでやさしく混ぜ合わせ、容器に移す。 |
4. | 6時間~ 一晩水に浸けて炊くと、消化吸収がより良くなる。 |
野菜の煮しめ
キャベツ、かぼちゃ、 にんじん、大根 |
各200g |
昆布 | 10cm |
水 | 少量 |
醤油 | 適量 |
1. | 野菜を大きめに切る(同じ時間で煮えるよう均等に)。 |
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2. | 昆布を鍋に敷いてその上に野菜を1種類ずつ分けて並べ、1cmくらいの高さまで水を注いで蓋 をする。 |
3. | 蒸気がたくさん出るまで強めの中火にかける。蒸気が出て沸騰したら、弱火にして野菜が柔らかくなるまで15~20分煮る。 |
4. | 醤油で軽く味付けし、蓋をしてさらに3~5分。蓋をしたまま、鍋をやさしく揺らして混ぜる。 |
5. | 蓋を外し、煮汁がたくさん残っている場合は汁気 を飛ばす。火からおろし、2分ほど蒸らす。 |
ごまプリン
豆乳 | 3カップ |
米飴 (麦芽糖やてんさい糖でも良い) |
1/2カップ |
粉寒天 | 小さじ1 |
自然海塩 | 1つまみ |
くず粉 | 小さじ2 (少量の水で溶く) |
ごまペースト | 大さじ2 |
メープルシロップ | 少々(お好みで) |
1. | 鍋に豆乳、米飴、寒天、塩を入れ、焦げないように絶えず混ぜながら中火にかける。 |
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2. | 沸騰したら弱火にし、水に溶いたくず粉をだまができないように混ぜながら少しずつ加える。 |
3. | ボウルにごまペーストを入れて2の煮汁少量で溶き、鍋に戻し入れて混ぜながら2~3分煮る。 |
4. | 3を器に流し入れ、常温で固める。お好みで水でのばしたメープルシロップを回しかける。 |
マクロビオティックを始めたくなったあなたに・・・・・・
マクロビオティック入門書
マクロビオティック、はじめました
「マクロビオティックは大変なこと」という通念を打ち破り、誰もが自分のライフスタイルに合わせて無理なく、楽しく、心地良く食べ物や食べ方を「デザイン」するコツをアドバイス。家庭で気軽に始められるレシピも満載。
久司道夫のマクロビオティック 四季のレシピ
米コロンビア大学で政治学・国際法を学ぶ中、「英知ある人を育てる鍵は食べ物と環境にある」と考えた久司氏。現在は欧米食養界のカリスマ的存在である著者が、マクロビオティックの考え方から実践法までを丁寧に伝授する。
小さなキッチンの大きな宇宙
マクロビオティックのプライベートシェフとして、マドンナ&ガイ・リッチー家の料理番を務めた著者が、波乱万丈な自身の人生とマクロビオティック生活を綴る。巻末では「ゆるいマクロ」をテーマに、お手軽レシピを紹介。