「起業のアイデアはあるけど」「いつかはドイツで勝負してみたい・・・・・・」
と考える皆さん、 ここで一度、ドイツでの会社設立の流れをおさらいしてみましょう。
ドイツ連邦経済技術省(BMWi)の調査結果によると、
ドイツで起業した3人に1人が移民および移民の背景を持つ市民だそうです*。
2010年からは、BMWi主導で起業家への支援策の充実を図っており、
起業やドイツ国外からの進出を歓迎するムードがこの国で今、ますます高まっています。
(編集部:高橋 萌)
*Bundesministerium für Wirtschaft und Technologie "Gründerland Deutschland Guten Start" Februar 2012
ドイツで会社設立
ドイツで起業!その前に
ドイツで起業、ドイツへの進出を目指す目的は明確ですか? ビジネスを実現するために必要な技術、資格、適性などは揃っていますか? 会社の設立・運営という長い道のりを走り出すその前に、確固たる方針と入念な準備が必要です。
滞在許可
外国人(EU以外の国の出身者)がドイツに法人を設立する場合、滞在許可は必要不可欠。期限 付きの滞在許可(Aufenthaltserlaubnis)、無期限の定住許可(Niederlassungserlaubnis)をすでに所持しているか、自営業者の場合は25万ユーロ以上の投資を行う用意があり、ドイツ経済にプラスの効果が期待され、雇用を生み出す事業であれば、原則的に滞在許可が下りる(§ 21 Aufenthaltsgesetz)。
専門家を味方につけて、しっかり準備
起業の意思を固めたら、ビジネスプランの作成や必要資金の確保、市場調査はもちろん、日本とは異なる慣習やリスク(社会情勢、国民性、法規制など)にも対応できるよう、現地の専門家の力を借りながら準備を進めます。
起業・ドイツ進出を支える専門家
弁護士(Rechtsanwalt)、税理士(Steuerberater)、起業コンサルタント (Existenzgründungsberater)。その他、会計士、銀行、人材派遣会社、不動産、保険会社など。2013年11月18日(月)~24日(日)には、ドイツ起業ウィーク(Gründerwoche Deutschland)が開催され、各種セミナー、あらゆる分野のビジネスパートナーと出会う機会が提供される。
公的サポート機関
ドイツ国内の日本大使館・総領事館、JETRO、NRW.INVEST など各州の経済 振興公社、商工会議所(Industrie- und Handelskammer)、ドイツ連邦経済 技術省の起業支援(www.existenzgruender.de)など。
日本語サイトを持つ起業・ドイツ進出サポート機関
デュッセルドルフ日本商工会議所
http://www.jihk.de/jp/
在日ドイツ商工会議所
http://www.japan.ahk.de/jp/
ドイツ産業連盟(BDI) 日本代表事務所
http://www.japan.ahk.de/jp/
日本貿易振興機構(JETRO)
http://www.jetro.go.jp
ドイツ貿易・投資振興機関(Germany Trade and Invest) http://www.gtai.de/GTAI/Navigation/JP/invest.html
インベスト・イン・ジャーマニー(Invest in Germany)
http://www.invest-in-germany.de
ノルトライン・ヴェストファーレン州経済振興公社
http://www.nrw.co.jp/
必要な手続きを経て、開業へ
会社の形態にもよりますが、ドイツ で大きな割合を占める有限会社(GmbH)の場合は、主に定款(Satzung)の公証、商業登記 (Handelsregister)の届出・認証、事業担当局への登録といったステップが必要になります。
助成金や各種支援策を利用
外国人向けの補助金(ノルトライン=ヴェスト ファーレン州各市のドイツ進出企業向けWelcome package など)も少数ながらあります。基本的には外国人であってもドイツ人と同じ条件で各種補助金や支援を申請することになります。失業中であれば 雇用庁(Arbeitsagentur)が提供するセミナーに無料で参加できたり、起業コンサルタント料などの補助金を受けることも可能。
ドイツの会社形態いろいろ
会社の規模や業務内容に応じて、適切な会社形態を選ぶことが大切です。ここでは、ドイツで起業する際に一般的な3つの会社形態についてご紹介します。下記のほか、欧州株式会社(SE)、株式合資会社(KGaA)、合名会社(OHG)、合資会社(KG)などがあります。
有限会社(GmbH)
18歳以上の行為能力が認められる人であれば1人でも設立できるなど、設立の敷居が低く、手続きが簡素、義務が限定的で柔軟性に飛んでいることが魅力です。ドイツでは有限会社が全体の約7割を占めているので、社会的なイメージも悪くありません。
最低資本金額:2万5000ユーロ (最低資本金額の半額1万2500ユーロは現金で払い込み)
株式上場:不可能
ミニ・GmbH (有限責任株式会社・UG)
2008年に新設された会社形態。GmbHとほぼ同じ法的条件を備えますが、最低資本金1ユーロから設立できます。最低資本金2万5000ユーロを目指して、毎年利益の25%以上を積み立てに回す義務が生じ、2万5000ユーロに達するとGmbHに変更できます。
最低資本金額:1ユーロ~ (2万5000ユーロまで積み立て義務あり)
株式上場:不可能
株式会社(AG)
証券市場への株式上場が可能で、ビジネス規模の大きい会社向き。GmbHと比較して設立の準備に時間と費用が掛かり、取締役員会(Vorstand)や監査役員会(Aufsichtsrat)、株主総会(Hauptversammlung)を設置する必要があります。
最低資本金額:5万ユーロ (1万2500ユーロは現金で払い込み)
株式上場:可能
日本からドイツへ進出!
現在、ドイツに進出している日系企業数は1446社*を数え、国内市場にとどまらないダイナミックな海外展開を目指す企業が、欧州最大のマーケットを誇るドイツを目指しています。ドイツに進出する際、どのような会社形態が望ましいのか、P12の現地法人という会社形態に加えて、日系企業の進出に際しては、日本法人の「支店(Zweigniederlassung, Branch)」「駐在員事務所(Repräsentanzsbüro, Representative Office)」という形が考えられます。進出形態別のメリットとデメリット、進出国としてのドイツの魅力について、税理士の田中泉さんにお話を伺いました。 *外務省「海外在留邦人統計(平成24年速報版)」
ドイツへの企業進出を支援する
田中 泉 さん
公認会計士、税理士、弁護士のみならず、経済学士、税務専門職、簿記、給与計算などの専門職資格者、総勢約30人のプロフェッショナルからなるチーム。起業から日常業務に至るまで、企業の抱える問題や課題に合わせて個別に税務、会計、法務の分野をフルサポートする。田中泉氏による日本語での支援もあり、日本企業に特化したサービスも充実。
Kanalstr. 2, 41460 Neuss
TEL: 02131-9242 0
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www.shwp.de
在独歴は35年以上、日本企業の海外駐在員として勤務した経験を経て、当地で税理士の資格を取得。日本企業の実情への深い理解と、ドイツでのビジネスに必要な専門知識を兼ね備えた田中泉さんは、ドイツで事業展開する日本企業の強い味方。まずはドイツへの進出を決めた企業の共通の疑問、進出形態について質問します。
ドイツへ進出する際の組織形態
日本企業がドイツへ、そしてどの都市へ進出したいのかという場所の選定とは別に、進出形態をどうするかを決めなければなりません。下記に3つの形態を説明しますが、これは必ずしもビジネスの段階に応じて3つのステップを踏むということではありません。
● 駐在員事務所
日本の本社の一事務所がドイツに存在するという位置付けで、事務所自体は独立した法人ではありません。一番簡単に作れますが、活動面で制限があります。駐在員事務所は情報収集やリサーチを目的とする組織であり、営業活動は行わないという前提に、当地において法人税の課税から免除されています。営業活動(とりわけ顧客との契約締結行為)を行う場合は、いわゆる恒久的施設(PE: Permanent Establishment)とみなされ、ドイツの活動から生じる利益にはドイツ法人税その他が課せられてしまいます。この場合、日本の本社は駐在員事務所も含めた全体の利益に対し、日本で法人課税を受けているため、結果として二重課税となってしまいます。
● 支店
駐在員事務所と同様に、本社の一部がドイツにあるという位置付けで、法人格もありません。ただし支店の場合には、最初から営業活動が可能な組織を整え、当地で商業登記も行います。そのため支店においては、その業績に対してドイツで法人課税を受けます。逆に日本の本社においてはドイツ支店の業績は日本の課税からは除外しますので、二重課税は発生しません。
● 現地法人
現地法人には様々な会社形態(有限会社、株式会社、欧州株式会社など)がありますが、比較的簡単な手続きで規制も少ない有限会社(GmbH)がドイツでは主流です。ドイツに進出した日系企業も、99%がGmbHの形態だと思います。現地法人はドイツ法に基づき固有の法人格を持つ組織ですから、契約も独自で締結し(独自の義務権利)、ドイツ法人として法人課税の対象にもなります。さらに現地法人は独立法人ですから、その債務が本社まで直接に波及するわけではなく、また本社は出資者として資本金の金額までしか責任を持たないという有限責任の範囲も明確です。
進出形態について考える際は、中長期的なビジネスプランや取引先との関係性、そしてまたリスクに対する検討が重要です。「トラブルが起きたとき、適用される法律、独立法人であるかどうか、有限責任をどこまで盾に使うかなどの観点は大きな意味を持ってきます」と田中さんも言っています。次に、ドイツへの進出を前に心得ておきたいリスクとは?
ドイツ進出の際のリスクについて考える
抽象的な言い方をすると、「日本からは見えない不確定要素が存在する」ということを、まずは認識していただきたい。ドイツ人やほかの外国人を相手にしますので、想定外のことがいくらでも起こります。例えば、従業員のメンタリティー、休暇の取り方、お客様への対応、会社への忠誠心など、前提とする習慣や常識がかなり違います。また、日本以上に安全基準や環境保護に関する規制もあり、それが業務の障害にもなり得ます。日本の常識が通じない問題に対し、すべて自社で対応するには最初から無理があります。ドイツでは、日本よりも細分化・専門家が進んだ分野が多く、その意味においても、税理士、弁護士、会計士などの各種の専門家集団が多く存在します。一昔前の駐在員は、「ドイツ語ができなくでも良いから死ぬ気で頑張って来い」といって本社から送り出されたものですが、今日の駐在員には、すべてを自分で解決できなくでも良いから、外部専門家を有効活用する能力が大変重要であると思います。
すべての問題を自社で解決する際に負うコストとリスクを考えると、上手くアウトソーシングすることの重要性が分ってきます。最後に、進出先としてのドイツの魅力はどんなものでしょう?
進出国としてのドイツの魅力
消費、生産共に欧州で一番大きなマーケットであり、世の中が安定していること。ドイツの企業は技術的にも高いレベルを誇っており、ライバルという面では厳しいでしょうけれど、ドイツでの成功が世界での成功に繋がる側面もあります。そしてドイツ社会は、外国人または外国の企業に対して非常にオープンだということですね。ドイツにおけるビジネスの中で、日本人あるいは日本企業だから差別を受けることはほとんどありません。他の国では、なかなかこうは行かないと思います。これは大変ありがたいことです。
日独のビジネスを繋ぐ懸け橋に
カロリーネ・やよい・モラー さん
通訳および翻訳業務、リサーチ、日本・ドイツでの出張のコーディネート、テレビ局の番組制作に伴うコーディネーション、コンサルティングといった4つの柱から成り立つ日独ビジネス・サポートを日独両国で提供。様々な専門分野における通訳・翻訳の経験も豊富。
Geisenheimer Str. 14, 14197 Berlin
TEL: 030-2061 5541
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www.japancoaching.com
半導体の製造工場では、マスク・帽子・ウエアで完全防備してクリーンルームに入り、日独の技術者の橋渡しを行い、香川真司選手(マンチェスター・ユナイテッド)がドイツでの親善試合に参加すれば、日本のテレビ局の撮影に同行する。通訳・翻訳にとどまらない、日本とドイツ両国の社会・文化的背景を経験的に知っているからこそできるビジネス・サポートを提供するやよい・モラーさんの活躍の場は幅広い。
自分の持っている技能からビジネスチャンスを掴む
「ベルリンを拠点に日本と関係のある仕事がしたい」。日系企業の少ない同地でチャンスを見出せずにいたモラーさんは、ならば自分で仕事を作ろうと起業に踏み 切った。日本人の母とドイツ人の父を持つ日独ハーフ。ドイツで育ち、日本の高校・ 大学を卒業した後、ベルリンに戻り、ま ずは日本貿易振興機構(JETRO)に就職。その後、全く違う職業を経験してみたいと高級ホテルのセールスマネージャーを勤めた。しかし、やはり日本と関わり続けたいとの思いを強くする。「自分に何ができるだろう?」そう思ったときに、2つの故郷を持つモラーさんの経験と能力がビジネスチャンスに繋がった。
必要なのは「人脈」「資金」「柔軟性」
起業に際しては「人脈が一番大切。ホテルの仕事やJETROでの仕事を通して知り合った方々に、私のビジネスは支えられています」。1人で営業活動を行うモラーさん。見本市の会場では手裏剣のように名刺を配り、新たな人脈構築にも余念がない。また、起業に際しては、起業コンサルタントを利用。いくつもの会社を起業、経営しているベテラン女性経営者のセミナーに通い、1から起業のノウハウを学んだ。「どんな質問にも答えてくれて、抱えていた疑問をあっという間に解決。起業を目指す方には、信頼できるコンサルタントに相談することをお勧めします」。
必要な出費は「投資」になる
ほかにも、見積書や契約書のひな形については弁護士に相談。起業した当初は税金のことは自分で、とも考えていたモラーさんだが、今では税理士に任せている。「EU内では、よく税金に関わる法律が変わりますし、私が調べたところで理解に苦しみますので、専門家に任せて安心」。また、ビジネスにトラブルは付き物。損害など、最悪の事態を想定してモラーさんは最初から保険(Vermögensschadenhaftpflichtversicherung) に入ることにした。「自分のビジネスに必要なお金は惜しまずに。出費が投資になりますから」。
顧客の要望に応えるべく、勉強する日々。そんな職業人生を「色々な分野の人と仕事ができることが一番の醍醐味」と、楽しんでいる。
おもてなしの心をドイツに
星野 貴弘 さん
日本で商業空間デザイン、ブランディング、コンセプトメイキングと、レストランやカフェにとどまらず、多岐にわたるプロデュースを担ってきた星野氏が、ドイツへ進出。2013年3月、直営の日本食レストランsumi.をオープンさせた。
お問い合わせ: このメールアドレスは、スパムロボットから保護されています。アドレスを確認するにはJavaScriptを有効にしてください
Schinkelstr. 28, 40211 Düsseldorf
TEL: 0152-0572 7777
www.facebook.com/sumi.duesseldorf
デュッセルドルフの中心地からは少しだけ離れた立地。だけど、美食家や流行に敏感な人が集う隠れ家的名店やこだわりのお店が密集するグルメスポット。そこに今年3月、日本食レストランsumi.はオープンした。同店を手掛けたchimz GmbHのCEO星野さんがsumi.に込めたのは、同社の強みである商業空間デザインとブランディングである。
日本独自の魅力を感じる場所
「どこの席に座っても、いつ来ても、見えるシーンが違うレストランの方がお客様に楽しんでいただける」。だから、テーブルや椅子もちょっとずつ使う家具を変えたり、入り口に近い席は座り心地の良い椅子にしたりと、そういうことを含めて商業空間をデザインする。「投資できる額の中で最大限の満足度を引き出し、そのスペースで予想した売り上げを確保。資金の早期回収を目指します」。見据えるのは、欧州での商業空間プロデュース業務の展開。だから、直営レストランsumi.は「ショールーム的役割」を果たす場と位置付ける。ただし、やるならば「最初にお客様の頭に思い浮かべていただけるレストランでないと」と、日本の飲食業界、そして店舗のプロデュース・運営で培った知識と経験を総動員。デュッセルドルフの客層の、日本文化に対する理解の深さに目を付け、日本独自の文化である「おもてなしの心」を感じられるレストランに、コンセプトを定めた。
準備期間はできるだけ短く
「準備期間はお金が出て行くだけ」だけれど、オープンすることが目的ではなく、その後が問題なので「店舗を探すことには妥協しない」。しかし、日本では数々の店舗のオープンに携わった星野さんでも、日独の違いに戸惑うことはあった。日本だったら外観の色を変えたり、壁に穴を開けたりという内装の自由度が比較的高い一方で、ドイツでは少しの変更でも役所に申請する必要がある。「これもだめ、あれもしちゃいけない……これもまた勉強。自分の想定とどれくらいの誤差があるのか、専門家の方に協力いただきながら修正できたことは良かったです」。信頼できる弁護士や税理士に加え、当地のレストラン経営者、デュッセルドルフ市のジャパン・デスクに話を聞くなど、現地での情報収集も積極的に行った。
ビジョンを持ち続けられるか
起業を実現するために必要なものは、「お金」と「ビジョン」。実現すべきビジョンをいかに持ち続けられるか。そこに安直な見返りは求めずに、精一杯やっていくことが大事だと、星野さんは言う。「お客様が喜んでくれること」を第一に、ストイックなまでに「本物」を目指す星野さんの想いが詰ったレストランでは、特別な時間が待っている。