短かったドイツの夏ももう終わり。
冷夏でうまいビールが飲めなかった……
とお嘆きの方もご安心を。
ドイツのビールシーズンはこれからです。
ビール王国で思う存分ドイツビールの醍醐味を
ご堪能下さい。 (編集部)
ドイツビールの基礎知識
ドイツにある醸造所の数は、世界中の醸造所の3分の1にあたる約1200。そこで作られているビールの種類はなんと5000種類にも上る。1日に1種類ずつ試したとしても、全種類を制覇するまでに14年ぐらいはかかるという計算だ。種類も豊富ながら、飲む量も半端ではない。2005年の年間の一人当たりの消費量は115.2リットル(日本人は49.6リットル)。それでも1970年代は150リットルだったことを比べると、年々消費量は減っている傾向にある。その背景には日曜の礼拝後に1杯引っ掛ける(Frühschoppen)という慣習が廃れたり、居酒屋(Kneipe)が少なくなって飲む機会が減っていること、ワインやその他の飲料に押されていることがあげられるだろう。
ビール純粋令の
オリジナル証書 ©Gfö
そしてドイツビールを語るときに欠かせないのが、ビール純粋令(Reinheitsgebot)だ。これは、ビールとして認められるのは、モルト、ホップ、水、酵母の4つの原材料で造られたものに限り、その他の添加物などは加えてはならないということを定めた法律。1516年4月23日にバイエルンのヴィルヘルム4世が発令して以降、脈々と現代にまで受け継がれており、ドイツ人が自国ビールに誇りをもつ所以でもある。
地域で違うビール
ドイツでは地域ごと、醸造所ごとに異なったビールを楽しめるのがビール好きにとってうれしいところ。訪れた地の郷土料理とともに味わいたい。そこで知っておきたい主要なビールの種類をざっとおさらいしよう。
● アルトビア(Altbier)
ニーダーライン地方、及びデュッセルドルフの地ビール。名前にもなっているAltはビール自体が古いというわけではもちろんなく、高い温度での発酵、熟成を可能にする紀元前6世紀にも遡る古い醸造方法に由来する。グラスは0.25リットル。(銘柄:シュリュッセル、シューマッハーアルトなど)
● ベルリーナーヴァイセ(Berliner Weiße)
ベルリンとその周辺で飲まれるビール。そのままだと若干酸味があるため、薬草(Waldmeister)のシロップを入れて飲むことが多い。夏向き。
● ボックビア(Bockbier)
黒ビール。 褐色は特に南部で、淡色は北部で飲まれる。ピルスなどと比べてモルトの含有量が多く、味に力強さがある。南ドイツの僧侶が断食のシーズンにこれを飲んでひもじさをしのいだという。(銘柄:サルバトール、ヘラーボック、トリウンファートアなど)
● ケルシュ(Kölsch)
ケルシュを造ってもいいのは、ケルンの醸造所あるいはケルン醸造組合に加盟する業者のみ。ライトで軽い口ざわりのビールは0,2リットル入りの細長いグラスで飲む。(銘柄:フリュー、ガッフェル、ドームなど)
● ヴァイツェンビア(Weizenbier)
ヴァイツェンビア(ヴァイスビア)といえばバイエルン。貴重な小麦をビールに使うのはけしからんと、一時期は造るのが禁止されたことも。発酵途中にも樽に栓をするため炭酸の含有量が多く、爽やかで濃い味わいは女性にも大人気だ。
● ヘレス(Helles)
モルトの味が強調された、少し甘めのビール。特にドイツの南で非常に好まれている。バイエルンでは、どの食事でもこのヘレスがつきものといっていいくらい愛されている。
● ドゥンクレス(Dunkles)
アルコール度数が4.6~5.6%と高く、濃色のモルトで造られている。人気低迷の時代が続いたが、ここにきてバイエルン以北でもファンを増やし、復活の兆しが見えてきた。
● ピルスビア(Pilsbier)
男性向きともいえるのがピルス。他のビールを圧倒的に引き離してドイツ人の大好きなビールナンバーワン。うまいピルスを飲むには、グラスに注ぐときに一気にまず入れ、泡が消えたらその後2回ほど注ぎ足す。(銘柄:ベックス、ビットブルガー、ヴァーシュタイナーなど)
ドイツ人に人気のビールメーカー
いかにビールとて流行廃りもある。現在のトレンドは苦味が少なく、軽くてさわやかな口当たりのピルスなのだそうだ。ちなみに専門誌“Inside Getränke Markt”の人気メーカー調査によると、1位Krombacher、2位Bitburger、3位Warsteiner、4位Becks、5位Veltinsとなっ ている。
ニュースダイジェストが
独断と偏見で選ぶおいしいビール
どうせならば全種類を試してみたいところだが、500種類なんて到底無理。そこで北から南までの市販されているビール7種類を選んで試飲してみた。(10点満点の集計結果は以下のとおり)。のん兵衛からほぼ下戸まで揃った審査員だけに評価はさまざま。高温多湿の夏に飲まれる日本のビールと比べると、ドイツビールはのどごしがあまり良くないというのが一致した意見。逆にいえば、ドイツビールはドイツで飲んで こそその美味しさが分かる、ということだろうか。
点数とコメント
1. | アウグスティーナーブロイ「クセになりそう」「しょうが味」 | 7.8 |
2. | ベックス(ピルス)「フルーティー」「薄い」 | 6.7 |
3. | エアディンガー(ヴァイスビア)「泡立ちがいい」「美味!」 | 6.0 |
3. | ホルステン 「苦い」「辛口」 | 6.0 |
5. | フリュー 「炭酸がきつい」「ケルシュの極み」 | 5.4 |
6. | アストラ 「匂いが独得」「新しい出会い」 | 5.2 |
7. | リューベンブロイ(オクトーバーフェスト)「甘い」 | 5.0 |
ドイツ二大ビール祭りに行こう
① オクトーバーフェスト(ミュンヘン)
毎年ビール好きが世界中から集う一大イベントは、今年は9月22日(土)~10月7日(日)まで。この時にしか飲めない特別な『オクトーバーフェスト・ビール』を心ゆくまで堪能したい。気になる今年の1マースのお値段は、7,30~7,90ユーロ。
詳細は www.muenchen.de
② カンシュタット・フォルクスフェト(シュトゥットガルト)
2番目に規模が大きく、より地方色が強く表れているのがこのカンシュタット・フォルクスフェスト。1818年にヴィルヘルム1世により長い飢饉後に収穫祭として開催されたのが始まり。期間は9月28日(金)~10月14日(日)まで。
詳細は www.stuttgart-tourisut.de
醸造所でビールを楽しむ
新鮮なビールを味わうならば、生産元で。大手メーカーはもちろん、小さな醸造所でもおいしいビールの試飲と工場見学がセットになっている。例えばアルトビアのマーケットシェア、ナンバーワンのDibels。ここではビールの原料の説明から、樽やビンに詰められて出荷するまでの過程を詳細に見せてくれるほか、樽からコップにおいしく注ぐコツを伝授してくれるコースもある。
要予約:一人13ユーロ~
(0,2リットルのアルトビア+豚すね肉のアルトビア ソースがけ+ニーダーライン特製ジャガイモ団子のセット付)
詳細:www.diebels.de
参考:www.brauer-bund.de / www.rponline.de
協力:Diebels社
「そんなにビールが好きなら、フランケンへ行けよ」。ドイツでの留学生時代、ビール好きが高じてあちこちの醸造所を巡っていた僕に対し、ある友人が言った言葉だ。それ以来、時間を見つけてはフランケンに通い、さまざまな醸造所を訪れてはビールを味わってきた。
ビール王国ドイツにある醸造所の約3分の1にあたる400軒が、驚くことにフランケン地方に点在している。「ビールは醸造所の煙突の見える範囲で飲め」という、どこかで聞いたことのある諺が、フランケンでは本当に生きている。伝統あるビール文化が継承されるフランケンは、まさに「ビアパラダイス」だ。
フランケンってどこ?
フランケンは、バイエルン州の北部にある地方を指す。フランケンと言うと、独特な形状をしたボトルに入った「フランケン・ワイン」が連想される通り、ワインの名醸造地としても知られている。しかし、それはヴュルツブルクを中心としたウンター・フランケン地方の話。僕が通い続けているのは、ここよりもややマイン川上流域にあり、その丘陵地が続く地形から「フランケンのスイス(Fränkisch Schweiz)」などと呼ばれている「オーバー・フランケン」地方である。
ビールの都
奇跡の復興を遂げた古都ニュルンベルク、音楽祭の街バイロイト、レジデンツを望むヴュルツブルク...フランケン地方にも多くの都市があるが、ことビールに関しては、その中心都市は間違いなくバンベルクだ。街を見下ろす丘の上に建つ13世紀建造の大聖堂と、その眼下に広がる旧市街一体はユネスコ世界遺産にも指定されているのだが、その都市を取り巻くビール文化もまた世界遺産級である。かつてはこの市街地だけで、数十軒もの醸造所が、文字通り軒を並べていたというから驚きだ。
その歴史は、その4本の塔が街のシンボルでもある聖ミヒャエル教会の横にある 「Fränkisches Brauereimuseum(フランケン醸造所博物館:Michaelsberg 10f)」で見ることができ、また実際に街を歩いていても、かつての醸造所の看板を未だに掲げている建物に出くわすことも多い。今日でも10軒ほどの醸造所が市内に点在しており、麦芽の味わいをじっくりと楽しむ淡色ビール「ヘレス」や伝統的な褐色ビール「ドゥンケル」、独特の酸味を持つ小麦ビール「ヴァイスビア」など、どこでも南ドイツらしいビールを楽しむことができるが、この地方の名物といえば何と言っても「ラオホビール」だ。
燻製された麦芽を用いて醸造されたこのビールは、どこの醸造所でも造られている訳ではなく、バンベルク市内でいえば中央駅からも近い「Brauerei Spezial」(シュペツィアル醸造所:Obere Königstr10)と、旧市街の真ん中で老舗のビアレストラン「Schlenkerla 」(シュレンケルラ:Dominikanerstr 6)を営む「Brauerei Heller(ヘラー醸造所)」 で醸造をしている。
ラオホビールを初めて飲む時、ビールグラスからフワリと漂ってくる燻製の香りに戸惑うが、3杯目を手にする頃には、すっかりその美味しさに引き込まれる人が多い。Stephansberg(シュテファンスベルク)という丘の上にあるビアガーデン「Spezial Keller(シュペツィアル ケラー)」は、このラオホビールを飲みながらバンベルクの街を一望する絶好のビアスポット。僕はここで、バンベルクの魅力にも引き込まれてしまった。
究極の地ビール?
さて、世界遺産の街並みを歩くのも良いが、フランケンのビール文化の真骨頂は、やはり都市周辺に点在する小さな集落にある。先祖代々家族で守り続けてきた小さな醸造所が、バンベルク郡下だけでも80軒にもなるというからこれまたスゴイ。
家族で小さく営んでいるために、当然その醸造量は少ないのだが、そのビールを毎日のように飲んでいるのが、集落に住んでいるオジサンたちである。オジサンたちは、毎晩醸造所内に併設されている直営酒場 「Brauerei Gaststätte(ブラウエライ・ガストシュテッテ)」にやって来ては飲んでいる。
集落内の商店などに卸していることもあるが、直営のガストシュテッテのみでビールを販売している店も少なくない。そもそも小さな集落では、店と言ったら醸造所しかないのだ。瓶ビールの販売すらなく、我々が飲めるのは店内で樽から出されるビールのみというケースもかなりある。
期間がたつと劣化してしまうビールであるが、「醸造所の煙突の下」で飲んでいるのだから(好き嫌いはあるにせよ)美味いに決まっている。そんな現地でしか飲めないようなビールを楽しみたい。そのための唯一無二の方法が、ビールを求めて自分自身が旅をして現地に赴く「ビール紀行(ビアライゼ)」である。
ただし、フランケンの農村集落は、どこも公共交通機関の未発達なエリアにあり、集落に行き着くだけでも苦労する。営業時間も短く、また近年では後継者不足からの廃業も多い。こんな状況下でありつけた1杯のビールは、まさに「究極の地ビール」と言えよう。
小林洋祐
ウェブサイト「ビール文化研究所」所長
www.bierreise.net
静岡県出身、在住。1997年から99年にかけてドルトムントに留学。当時からドイツの深いビール文化に興味を持ち、醸造所巡りを始める。帰国後も年に1~2回のドイツ旅行を繰り返す。ビール情報の少なさを嘆き、ビール紀行の羅針盤サイトとして「ビール文化研究所」を立ち上げた。