ジャパンダイジェスト

死亡後の手続きからドイツでの葬儀まで
エンディング・プラン

誰にでも平等に訪れる死。「死ぬこと」について考えるのは決して楽しいことではないが、どんな葬儀で人生を締めくくりたいか、漠然と頭に思い描いている人もいるだろう。生前中に自身の納得のいく選択をし、残される家族のためにしたためるエンディングノートに注目が集まる昨今。ドイツで迎えるかもしれないその時に備え、知っておくと良い情報をまとめた。(編集: 山口 理恵)

ドイツで邦人が亡くなった場合の諸手続き

邦人がドイツで亡くなった場合、残されたご家族などはまず、どのような手続きを行う必要があるのだろうか。遺体をドイツで火葬し、日本に埋葬するまでの手順を説明しよう

1. ドイツで遺体を火葬する

遺体を火葬するまでには、様々な事務手続きが必要になる。ドイツ人と婚姻関係にある故人が日本での埋葬を希望していた場合も、以下の手続きは必須。

1 「婚姻証明書 Heiratsbescheinigung」
または 「出生証明書 Geburtsbescheinigung」の入手

既婚者の場合は「婚姻証明書」、未婚者の場合は「出生証明書」を、大使館または領事館に、故人の戸籍謄本を提出して入手する

2「死亡証書 Totenschein」の作成

検死医に故人のパスポートを提出し、「死亡証書」を作成してもらう。「死亡証書」は密封され、ドイツの戸籍局をはじめとする関係官庁に回付される。それ以外の人は中身を見ることも入手することもできない。

3ドイツにおける死亡届の提出

婚姻証明書または出生証明書を、死亡証書とともに(通常は葬儀会社を経由し)戸籍局に提出。これに基づいて、故人の各種記録および証明書が作成される。

4「死亡記録抜粋 Auszug aus dem Todesregister」および
「死亡証明書 Beglaubigte Abschrift aus Sterbebuch」の入手

戸籍局より上記2種類の書類を入手し、どちらか1部を大使館または領事館に提出。

※この2種類の証明書は、帰国後、日本の市区町村役場にて死亡届を提出する際に添付資料(各1部)として提出。また保険などの諸手続きにも必要となるため、複数部入手しておくと良い。

5「日本への遺骨持ち帰り願いおよび 納骨寺院通知」の提出

ドイツの法令に則り、遺骨は直接遺族に引き渡されず、大使館または領事館が遺族に代わって遺骨の引き渡しを受ける。これはそのために必要な書類。

※これを基に作成される「遺骨引き渡し要請書」には、日本での〈遺骨埋葬寺院〉を明記する欄があり、ドイツ官庁側に連絡・提出する義務を負う。

6「遺骨証明書発給申請書」の提出・入手

遺骨を日本に持ち帰る際は、骨壺の内容が遺骨のみであることを証明する「遺骨証明書」 (Urnenbescheinigung)の発給・持参が有用。必要書類ではないが、通関手続き(特にドイツ出国の 際)を容易にするため、大使館や領事館はこの証明書の持参を勧めている。

2. 遺骨の引き渡し

ドイツでは、日本のように家族や知人が火葬場まで同行することはできない。遺骨は葬儀会社を経由して、通常は骨壺(すでに密閉されたもの)を引き取る形になる。

1遺骨の引き渡し

火葬後の遺骨は大使館または領事館で封印し、館内にて遺族に引き渡される。遺骨の引き渡し日は通常、遺族が日本へ帰国する当日または前日となる。

2「遺骨埋葬について Beisetzung einer Urne」 および
「遺骨埋葬証明用紙 Bestätigung der Beisetzung einer Urne nach 10 der DVO zum Feuerbestattung」の入手

葬儀会社から遺族に渡される書類。これは、遺骨を日本で埋葬した後、ドイツ側に前もって通報した寺院に間違いなく埋葬したことを、埋葬した日本の当該寺院が証明するための用紙となる。

3. 日本へ帰国後

日本で行う、埋葬するための最終手続き。これらをもって、ひと通りの事務手続きが完了する。

1「死亡届」の提出

日本で埋葬許可を受ける市区町村役場に「死亡届」を提出。提出の際は、「死亡証明書」の原本、および和訳文(翻訳者氏名を記載し捺印したもの。この場合、誰の翻訳でも可)を添付する必要がある。「死亡証明書」ではなく「死亡記録抜粋」を提出した場合は、死亡時刻の記載がないことを理由に、死亡届が受理されない場合もあるので注意。

2「遺骨埋葬証明書」の返送・提出

日本での遺骨埋葬を終えたら、ドイツの葬儀会社から受け取った「遺骨埋葬証明用紙」 に、埋葬した寺院のスタンプを押印してもらい、ドイツの役所に返送する。

注意事項

  1. 遺骨を持って帰国する際は、予約した航空会社に遺骨の 携行を事前に連絡し、遺骨の機内持ち込みの了承を得ると良い。ドイツでは、遺骨は一般の受託手荷物と同じ扱いとなるため、機内への持ち込みは通常認められていない。
  2. 委託した葬儀会社が骨箱を用意しているかどうかを確認 する。ドイツでは、骨壺をさらに骨箱に入れる風習がない。ただし、日本人からの委託を受けたことのある葬儀会社では、日本人向けに骨箱の用意をしているところもある。
  3. 「 死亡届」をドイツの大使館および領事館に提出してから日本へ帰国する場合、日本の本籍地の市区町村役場に届くまで日数を要し、その間は埋葬許可が下りない。

※故人のご家族がドイツにいない場合、また不明点などについては、地域を管轄する大使館または領事館にお問い合わせください。

ドイツの寺院に眠るという選択
惠光寺における仏式葬儀

国籍を問わず、すべての仏教徒に開かれている惠光寺では、日頃から当寺へ足を運ばれていた参拝者や、当寺の活動に関わられた人などを対象に、浄土真宗の規範に則った仏式葬儀を執り行っている。境内には遺骨を納める墓地があり、納骨も可能だ。手順としては、お寺に連絡して葬儀の日程が決定され、葬儀の際に遺族は遺骨・遺影等を持参する。墓地への埋葬は、骨壺を地中に埋め、その上に法名・俗名・没年月日などを刻んだ御影石のプレートが置かれる。その後も遺族や関係者は、故人をしのんでお参りすることができ、また、境内の「倶会堂」では分骨も受け付けている。

惠光寺惠光寺での葬儀や納骨を希望する人は、生前から当寺への参拝などを通して、ご縁を育まれると良いだろう。

葬儀:布施
御影石プレート:約1000ユーロ
管理費(20年):1050ユーロ
(市公安局の規定による)

お問い合わせ先:
デュッセルドルフ惠光日本文化センター
www.eko-haus.de

葬送は日本の家族や友人と共に
エンバーミングと祖国への遺体空輸

遺体を生前の姿に近い状態のまま遺族のもとに返すことができるエンバーミング(Embalming、死体防腐処理または遺体衛生保全)。遺体を感染症から守るために消毒・殺菌し、身体に薬剤を注入して腐敗を防ぎ、最後に修復や化粧を施す。遺体はこの処置により、10日~2週間は衛生的に安全な状態が保たれ、祖国での葬儀が可能となる。

遺体空輸日本には、エンバーミングから遺体を祖国へ送還するサービスを行う企業が多数あり、海外で邦人が亡くなった場合でも、現地大使館または領事館の書類手続きや空港での通関手続き、日本国内の搬送 など、すべて代行して行ってくれる。

費用(例)
平均約150万円(エンバーミング、棺、書類手続き代行、遺体保存料、ドライアイス、空輸コンテナ料、航空貨物運賃、その他手数料などが含まれる)

※燃油サーチャージや通関業者手数料、爆発物検査などは別途費用がかかる。

参考
鈴木葬儀社 www.sougi.com
三特興業社 www.santoku.tv

ドイツの一般的な葬儀・埋葬・納骨

国内に4000以上もの葬儀会社(Bestatter)があるドイツでは、様々な葬儀のスタイルの選択が可能。死後、病院での遺体安置は24時間までであり、遺族は36時間以内に葬儀会社を決定しなければならない。後から分骨することができないため(「火葬」の項を参照)、どのような葬儀をしたいか、葬儀会社が提供するサービスを念頭に葬儀方法を選ぶ必要がある。病院に安置後の遺体や、火葬後の遺骨や遺灰を自宅に持ち帰ることは法律で禁止されている。

東西ドイツで比較: ドイツ人の希望の埋葬・葬儀方法

葬式 Beerdigung

葬式 Beerdigung土葬、火葬にかかわらず、埋葬前に行われる告別式(Trauerfeier)は通常、教会や墓地に付属する礼拝堂、または葬儀会社の1室で行われ、聖職者や専門の語り手、もしくは近しい友人などが故人の生前のエピソードや人柄などについて語り、弔問者一同で故人をしのぶ。また、地域によっても異なるが、埋葬後はレストランなどの1室を借り、コーヒーやケーキ、昼食などが弔問者に振る舞われる(Trauerkaffee)。葬式に出席する際の服装マナーは日本と同様。

土葬 Erdbestattung

土葬 Erdbestattungカトリック教徒とキリスト教徒が人口の約 60%を占めるドイツでは、数年前まで土葬が一般的であったものの、今日では3人に1人の割合となっている。これには、人々の宗教離れと棺を埋葬するための墓地の敷地使用料が関係している。左のグラフを見ると、東側に住む住人に比べて西側の住民は依然として土葬を希望する人が多く、火葬には消極的。東側に住む人々の方が、葬儀に対して合理的な考えを持ち、また「可能ならば自宅に」と希望する人が多いことも興味深い。

火葬 Feuerbestattung、Urnebestattung

火葬 Feuerbestattungキリスト教徒に火葬が許可されるようになったのは1963年のこと。日本と同様、遺体を棺に納めて火葬場で焼く。日本のように「骨上げ」という風習がないので、高温で焼いて骨の形は残らず、遺灰の顆粒物を骨壺(Urne)に納める。遺族は遺灰を見ることも触ることもできない。火葬のみにかかる費用は平均約300ユーロ。

※土葬・火葬ともに、葬式から墓の管理費までを含む費用は約3350ユーロ~。棺や墓の種類、墓地の場所によって費用は高くなる(出典: 2015年2月Bestattung.de調べ)。

墓地 Friedhof

墓地 Friedhof宗教ごとに独立した墓地があるドイツ。一 般的なのはキリスト教系の庭園墓地や、 村の教会に併設された墓地、自然と一体化した森の墓地。墓は、埋葬場所に故人名を刻んだ墓石を立てたり、区画されて整列した墓石(場所の選定は不可で、埋葬後、故人名が刻まれる)、また逆に、匿名の墓などが選べる。墓地の使用料は20~30年の契約がほとんどで、延長も可能。地域や最初にかかった葬儀費用によってもその使用料は異なり、300~3000ユーロと幅広い。別途、管理費も必要となる。

納骨堂 Kolumbarium

納骨堂 Kolumbarium国内に約100カ所ある、教会や墓地に設置された納骨堂。起源は古代ローマ時代にさかのぼるといい、骨壺に入った遺骨をロッカーのような棚に納め、故人名などを刻んだ御影石などでふさぐ。墓を立てようと思っていたが、埋葬後、遺族が墓を訪れる機会が少ないことを知り、手頃で合理的な形式のこの墓を予約したという人もいる。ハノーファーにある納骨堂 「Kolumbarium Hl. Herz Jesu」は、20年の使用料と管理費を含み、費用は2750ユーロ~。

匿名・共同墓地 Anonyme Bestattung

匿名・共同墓地 Anonyme Bestattung匿名の墓地への埋葬や共同墓地の利用は、最も安価な葬儀方法となる。基本的には、墓地の中の匿名のエリアにある納骨堂に納められるが、無名の墓を立てることも可能。匿名の墓を故人が希望していた場合は、遺族は埋葬に立ち会えず、埋葬場所は不明となる。匿名での墓地への埋葬は、火葬の場合で平均860ユーロ(無名の納骨堂の使用料を含む)。墓地や地域によって異なるが、多くの場合、その後の管理費などは不要となる。

ドイツ、その他近隣諸国で行える自然葬

樹木葬 Baumbestattung

樹木葬

近年、日本でも注目されている樹木葬。ドイツ全国に54カ所もの敷地を有するFriedwald®は、「宗教に左右されない、社会的義務からの自由」という理念を掲げ、家族やパートナー、友人グループ、単身者などが気に入った木を選んで、安らかな眠りにつける終の棲家を提供している。人数構成に対する木の大きさなどは、すでに色別に紐が付けられ選別されており、希望者は家族全員で共有する、パートナーと利用するなど、目的に合った木を選んで購入する。骨壺には土に返る天然素材を使用し、埋葬されると、木には名前が刻まれたプレートが付けられる。

  • 家族用 / 友人グループ用: 3350ユーロ~
    (10人まで、購入から99年間の使用料を含む)
  • パートナー用: 2700ユーロ~
    (2人まで、99年間の使用料を含む)
  • 共有用: 770ユーロ~
    (知らない人同士10人で木を共有、99年間の使用料を含む)
  • 共有ベーシック: 490ユーロ~
    (15~30年の使用料を含む)
  • ※埋葬する際は、埋葬費用(骨壺を含む)として275ユーロが別途必要となる。
  • Friedwald®: www.friedwald.de

湖への埋葬湖への埋葬
Seebestattung

船で湖の中ほどまで行き、語り手によって故人をしのび、水溶性の骨壺に入れられた遺骨を湖の底に沈めるという葬儀。自然に返るもの、花びらや石などは一緒に沈めても良い。参列は約50人まで可能。費用は平均970ユーロ。

草地への散骨牧草地への散骨
Almbestattung

スイスで行える葬儀方法。ドイツで火葬済みの遺灰を郵送し、スイスの葬儀会社が受け取って牧草地に埋葬、もしくは散骨する。埋葬の場合、墓を立てることは許可されていない。

地中海&大西洋への埋葬地中海&大西洋への埋葬
Mittelmeer & Atlantik Bestattung

地中海や大西洋に、湖への埋葬と同様、骨壺ごと海中に沈める葬儀。費用は例として、遺体の引き取りから火葬、一連の書類手続きや海での葬儀をすべて含めて1489ユーロ~。
www.anternia-bestattungen.de

空中散骨空中散骨
Luftbestattung

熱気球やヘリコプターから遺灰を散骨する葬儀。ドイツでは、墓地や埋葬に関する規定によって禁止されているが、フランスやオーストリア、チェコ、スイスでは可能。ドイツ国内の葬儀会社の中には、このサービスを受け付けているところがある。

メモリアル・ダイヤモンドメモリアル・ダイヤモンド
Diamantbestattung

炭素が地中で高温高熱にさらされてできる天然のダイヤモンド。この原理を応用して遺灰から炭素を抽出し、人工的に合成ダイヤモンドを製造することが可能で、身に着けていれば、いつも故人を身近に感じることができる。約4000ユーロ~。

宇宙葬 宇宙葬
Weltraumbestattung

カプセルに約7グラムの遺灰を詰め、米国やロシアから打ち上げられるロケットに搭載される散骨葬。費用は、軌道を周回するロケットの場合は4995ドル~、月へ打ち上げられるロケットは1万2500ドル~。


※ドイツ関連の記事は、主に以下のウェブサイトを参考にしています。 www.bestattungen.de

 
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