「お墓」というと、日本人の私達にはどこか暗いイメージがあります。特に夜には、お墓の近くを通りたくないと思う人もいるのではないでしょうか。ところがお墓に対するこのようなイメージは、ドイツに来てガラリと変わりました。ドイツのお墓は花で飾られ、公園のように整えられていて、墓地内を散歩する人も大勢います。庭園の見本市の際には、お墓をどのようにコーディネートするかのコーナーがあり、お墓専門の庭師もいるそうです。
キリスト教では、信者の霊は肉体の死の際にすぐに天国に引き上げられると考えられており、お墓の中に死者が眠っているとは考えません。そのため、お墓は死者を記念して思い出す場、つまり神が死者の霊を天国に召してくださったことを感謝する場として、清く心を落ち着けられるように美しく整えるのです。
そういう公園墓地の中でも、特にハンブルク北部に位置するOhlsdorfer Friedhof(オールスドルフ墓地:S バーン・U バーンのオールスドルフ駅すぐ)は、世界最大規模だということを最近知りました。その大きさは、東西3.8km、南北2.2㎞で、墓地内にバスの停留所がいくつもあるほどです。
チャペルが13カ所あり、葬られる墓所の最寄りチャペルで葬儀ができるようになっています。普通の墓地ならチャペルは一つですから、ここがいかに広大かを想像していただけるのではないでしょうか。
ライスハレ(音楽堂)のスポンサーであるライス一族のお墓
1800年代中頃まで、町の中心地に近い、現在見本市会場のある辺りが市の墓地だったそうですが、人口の増加に伴い、1877年よりオールスドルフに移転したとのことです。当時、有力者やお金のある人々は既に街中に墓地を持っていたので、郊外に葬られるのは、貧しい人や、身寄りのない人が多かったといいます。広大な公園墓地ですが、それでも年月とともに手狭になり、近年は場所節約のため、土葬よりも火葬が多くなってきていると聞きました。骨壺を土に埋める場合もありますが、納骨堂に骨壺を納める場合もあり、納骨堂が増えてきているそうです。
一つ一つのお墓は、それぞれに趣向が凝らされているので、それらを観察しながら散策するのも興味深いことでしょう。墓地というシチュエーションなので、普段は深く考えない「死」や「人生の意味」についても、自然に思いをめぐらすかもしれません。
墓地内の各所に「静かな道」の表示がある
現在、墓地内には3万6000本の木があるそうで、本当に緑豊かです。桜やシャクナゲなど、美しい花を咲かせる木々が植えられており、バラ園や噴水もあって、自然の中で日常の喧騒を離れてリフレッシュするには最適の空間だと思いました。
ハンブルグ日本語福音キリスト教会牧師。イエス・キリスト命。ほかに好きなものはオペラ、ダンス、少女漫画。ギャップが激しいかしら?