ケルンでの集団暴行事件の報道を受け、ドイツの治安を不安視する声が高まっています。催涙スプレーは売り切れ、多くの女性が自己防衛セミナーに詰め掛けていますが、果たしてドイツの近年の治安情勢はどうなっているのでしょうか。いたずらに不安を募らせる、その前に、冷静に現状を把握し、日本との違いを認識することから始めましょう。ご自分やご家族を守るのは、日ごろからの必要十分な備えと警戒心。ドイツでの生活、欧州での旅を楽しむために、防犯対策をお忘れなく!(編集部:高橋 萌)
参考:法務省 平成27年版 犯罪白書、外務省 海外安全ホームページ、Polizeiliche Kriminalstatistik 2014
数字で見るドイツの治安情勢
1ここ数年、ドイツの治安は急激に悪化している!
「急激」には、悪化していません
ドイツの警察当局が発表している『犯罪統計2014』によると、年間の犯罪認知件数は約608万件。前年比2%増と、わずかながら増加しています。過去5年間に認知された犯罪件数は600万件前後で推移しているので、「急激な悪化」は統計には表れていません。『犯罪統計2015』が初夏に発表されるのを待ち、最新情報を弊誌でもお届けいたします。
2日本での生活と同じように防犯対策すれば大丈夫!
世界レベルでは比較的安全、でも犯罪件数は 日本の5倍!
日本は、先進国としてはまれに見る犯罪発生率の低い国。世界的に見れば比較的治安が良いとされるドイツも、殺人事件は日本の2倍、窃盗は2.7倍、全体で約5倍の犯罪が発生し、日本と同じ感覚で生活をしていると、思わぬ場面で犯罪に巻き込まれる可能性があります。防犯意識、危機意識を、日本にいるときよりも高く持つことが必要不可欠です。
3デュッセルドルフは日本人が多いから安全でしょ?
デュッセルドルフもフランクフルトも、安全とは言えません
大都市(人口20万人以上)での犯罪発生頻度※をみると、金融都市フランクフルトが1位、首都ベルリンが2位、北部ハノーファーが3位、デュッセルドルフが7位と日本人が多く暮らす町が上位に入っています。大都市で一番犯罪発生頻度が少ないのはミュンヘンでした。ちなみに、日本のワースト1位の大阪でも約1700件ですから、その差は歴然です。※住人10万人当たりの犯罪の発生頻度
4ドイツでは外国人や難民による犯罪が多い!
増加傾向にあることは確かです
ドイツ国内で発生した犯罪の容疑者は、ドイツ人が71%、ドイツ人以外が29%。外国人が多いとは言えません。しかし、ドイツ以外の国籍を持つ市民は820万人と、人口比率では1割ほどであることを考えるとドイツ人の約3倍に。また、「難民」による犯罪については、すぐに報道されるので多く感じますが、全体で見ると数は少ないと警察はみています。
最新の犯罪の手口を知り、被害を防ごう!
ドイツでは、どのような犯罪が起きているのでしょうか?4割が窃盗に関する犯罪、その次に多いのが詐欺です。一般市民を狙った犯行が半数以上という現実を前に、今一度気を引き締めて、防犯対策を進めましょう。手口を知っていれば防げる犯罪もあります。「明日はわが身」との意識で情報収集し、危険を予測・回避するすべを身に付けることは、欧州での暮らしに必要な知恵です。
ドイツ各地で急増中!空き巣
2006年比で4割も増加しているのが、空き巣。特に北西部ノルトライン=ヴェストファーレン州(NRW)、および北部のハンブルクとブレーメンで頻発しています。NRWでは、デュッセルドルフ、ケルン、エッセン、ドルトムント、ボーフム、アーヘンが空き巣の被害が多い地域です。
手口
- マイナスドライバーなどで、玄関のドアや窓をこじ開けて侵入
- 「気分が悪い」「電話を借りたい」「子供のためにトイレを貸して」 など、様々な口実を使って住居に侵入
- 業者などを装って、家人に開錠してもらう形で侵入
防犯対策チェックリスト
- ちょっとの外出でも、鍵を2回転させてしっかり施錠
- 窓の上部を半開にしたままにせず、しっかり施錠。
- 玄関の呼び鈴がなっても、心当たりがない場合は開錠しない
- 業者や警察の訪問を受けた際も、相手の身元が確認できるまで開錠しない
- 長期不在にする場合は、新聞を止め、郵便受けがいっぱいにならないようにする
- 不在中も、タイマー付きのライトやテレビを活用し、留守宅だと気づかれないようにする
- 窓は、防犯性の高い形状の金具になっているか確認
- 近所で不審者を見かけたら十分に注意する
玄関のドアには「かんぬき」が最も防犯効果が高い。※設置は大家と要相談
ふとした気の緩みが命取り! すり・置き引き
人混みの中では、特にすりに気をつけましょう。窃盗犯は、多くがドイツ国外からやってきて犯行を繰り返すプロ集団。注意深くターゲットを狙い、複数人で役割を分担し「あっ」という間に盗みを行います。大切なのは、ターゲットにならないようにすること。空き巣もそうですが、彼らは完全犯罪を目指しますので、防犯意識の高い物件や人物は狙いません。
手口
- 衣服にシミや汚れを付け、謝罪しながら接近し、汚れをふき取るふりをして盗む
- 人混みの中で、ぶつかってきたり、立ちふさがったりして進路をふさぎ、共犯者が盗む
- 道を尋ねるふりをして地図や時刻表などで目隠しをし、その隙に共犯者が盗む
- 募金や両替を依頼するふりをして、財布から現金を奪う
- 警察官を名乗る者に所持品検査をされ、財布やパスポートを提示して盗まれる
- 子どもが寄付を求める文句の書かれた紙を差し出し、対応している隙に共犯者が盗む
- レストランで、椅子にかけておいたジャケットやかばんから財布が盗まれる
防犯対策チェックリスト
- 人混みの中ではスリの可能性を考え、警戒心と注意力を持って行動する
- 現金や携行品は最小限にとどめ、貴重品は1カ所にまとめて収納しない
- ズボンの後ろポケットに財布や貴重品を入れない
- かばんのファスナーは常に閉じておく。人混みの中ではリュックサックは前に
- 買い物中、貴重品の入ったかばんをカートに入れない、レジに置かない
- レストランでも貴重品を身体から離さない、目を離さない
- 空いている早朝や深夜の長距離列車の中でも警戒。居眠りに注意
- 外出先では、携帯電話・スマートフォンをテーブルの上に置かない
- キャッシュカードやクレジットカード情報、携帯電話の製造番号などはメモしておく
身体と密着する場所に貴重品を収納できる旅行者用の貴重品袋がお勧め
巧妙な詐欺にご注意!
詐欺は、誰もが巻き込まれる可能性のある、とても身近な犯罪。年々巧妙化するインターネット・サービスを利用した詐欺にもご注意ください。ふと、携帯電話に舞い込んだ儲け話、お得すぎるサービスなどには、「上手い話には裏がある」と、注意して対応しましょう。人の欲求や心理を逆手に取るのが詐欺なのです。
手口
- 「 キャッシュカードや航空券をなくして困っている」などと、お金の借用を求める
- 偽札の捜査中であるとする警察官を名乗る者が財布を渡すよう求める
- 電話帳の掲載についての内容確認を装いファックスやメールでの返信を求め、掲載料が発生する契約を結ぶ
- Paypalや銀行からのメールを装い、口座情報を入力させる 「フィッシング詐欺」
- 現金やプレンゼントが当選したことを知らせ、サービスへの登録 を装って個人情報を入手。または、望まない有料サービスに加入 させる
- 賃貸物件のポータルサイトなどで、格安物件を提供。遠方に住んでいるため鍵の受け渡しが直接できないなどと理由をつけて、契約前に前金を送金するよう促す
防犯対策チェックリスト
- 警察官を名乗る者には、必ず身分証明書の提示を求める
- 所持品の検査を求められた場合は、警察署でのみ応じると答え、110番通報で連絡
- 罰金を現金で要求された場合、相手の所属機関に照会することを伝える
- 心当たりのない請求などについては、必ず関係機関に確認する
- 銀行口座などの情報について、金融機関からメールで問い合わせがあった場合は疑う
- 通常の契約の流れと違うことがある場合は疑う
- いかなる要求に対しても、すぐにお金を振り込まない。家族などに相談する
疑わしいケースでは、メールの文面や担当者の名前などをインターネット検索すると、詐欺の注意情報がヒットすることも
テロの脅威から身を守る!
パリで起こったテロ事件は、欧州での生活が常にテロの脅威にさらされていることを、鮮明に市民に思い知らせました。新年からミュンヘンで具体的なテロの脅威があったとして二つの駅が閉鎖されたドイツでも、テロに対する警戒は高まっています。21世紀に入り、対テロ戦争に加わった欧州や米国、日本などの先進国は、常にテロの脅威と隣りあわせでした。2014年以降、テロ組織「イスラム国(ISIL)」が勢力を拡大し、欧州の若者を引き込んだことで、事態はより複雑化しています。日ごろから、治安情報の収集に努め、警戒地域には近づかないなどの対策を立てましょう。テロ対策について、ドイツ国内で日常生活が困難になるほど不安を募らせる必要はありません。警察当局は高いレベルで警戒を続けながら、「怖がる必要なない。けれども十分に気をつけて!」とメッセージを発しています。
防犯対策チェックリスト
- 在独公館のウェブサイトの情報や『安全の手引き』、メーリングリスト、ニュース報道から、
生活圏の治安情報を収集する - 家族や会社など組織内のメンバーと、緊急時に連絡が取れるよう連絡網を作成しておく
- 生活圏内の危険な場所を把握(駅周辺、繁華街、高級ショッピングエリア、大規模イベント)
- 緊急時の避難場所、集合場所などについて家族などと話しておく
- 不審な郵便物は開けない。建物内の不審物は触らず通報する
- 不審物や不審者が紛れ込まないよう、建物周辺を 整理整頓しておく
- 不審者対策として、受付や入り口での身元確認を徹底する
- 大規模デモの際、興味本位でデモ隊に近づかない
手口が大胆な車上荒らし
車上荒らしが多発する欧州では、カーナビやオーディオ機器は、ポータブルが常識。車を離れるときは、車上荒らしに狙われやすい貴重品を持って行くか、隠します。
手口
- 「タイヤがパンクしている」などと声を掛けて、運転者を車外に誘い出し、盗む
- 窓ガラスを割り、車内のものを盗む
防犯対策チェックリスト
- 警報装置や盗難予防装置を車に設置しておく
- 駐車中の車内には、外から見えるところに貴重品やカーナビを置かない
- 警備体制の整っている駐車場を利用する
日ごろの情報収集がカギ!
「 在留届」、提出しましたか?
日本国外において、犯罪に巻き込まれるなどの緊急事態に日本人の拠り所となるのが、各地の在独公館。事件・事故・災害の際に、緊急連絡として情報を発信したり、安否確認をするのに必要となる連絡先は、「在留届」の情報を基にしています。ドイツ滞在が3カ月以上になる場合は、「在留届」を提出しましょう。そして、届け出た内容に変更がある場合や、帰国する場合の手続きもお忘れなく! www.ezairyu.mofa.go.jp/RRnet/
旅行や出張の際は「たびレジ」
短期間の旅行や、出張の際も、現地の治安情報の収集を積極的に行いましょう。そのための、一つの手段として「たびレジ」があります。滞在する地域とメールアドレスを登録しておけば、最新の海外安全情報や当地の在外公館が発出する緊急一斉通報などをリアルタイムで入手できます。テロや犯罪などの治安情報だけでなく、感染症や自然災害などの情報も、身を守るために必要です。 www.ezairyu.mofa.go.jp/tabireg/
もっと手軽に情報収集「外務省 海外安全アプリ」
スマートフォンのGPS機能を利用して現在地や周辺国・地域の危険情報や渡航情報を知らせてくれます。「MY旅行情報」機能で旅先や気になる国を登録しておけば、渡航情報が更新される度にプッシュ通知(アプリを起動してなくても情報が表示される)され、いち早く情報が手元に。各国・地域の緊急連絡先もアプリ内で確認できます。 ※App Store、Google Playからダウンロードできます
もし犯罪に巻き込まれてしまったら
緊急時の連絡先リストを作っておきましょう。下記に、家族の連絡先、カード会社や保険会社、自動車事故救援サービスなど、ご自身やご家族に必要な連絡先を加えましょう。
警察 110
消防・救急車 112
在ドイツ日本国大使館:030-21094-0
在デュッセルドルフ日本国総領事館:0211-16482-0
在ハンブルク日本国総領事館:040-333017-0
在フランクフルト日本国総領事館:069-238573-0
在ミュンヘン日本国総領事館:089-417604-0