2007年も残すところあと2週間と少し。年の瀬を迎え、師走の街の慌ただしさがつのるこの時季は、なぜかいつも以上に故郷日本の情緒が恋しくなるものです。年越しそばにおせち、紅白、お年玉、初詣で、年賀状に年末ジャンボにこたつでみかんに……。でも「今年は帰省しないでドイツでゆっくり」というみなさんのために、ドイツならではの味わい深い 「ゆく年くる年」をご紹介します。 (ささきりか)
クリスマスが家族と過ごす時なら、ジルヴェスターは気のおけない友だち同士、パーティーで盛り上がり、年越しのカウントダウンをするのが定番。そして夜空にドッカー ンと花火を打ち上げて、「Frohes neues Jahr!!」と乾杯だ。でもパーティー&花火以外の年末年始の恒例と言えば……。
「大晦日」はドイツ語で「ジルヴェスター(Silvester)」と言うけれど、そもそもこの「ジルヴェスター」っていったい何?ジルヴェスターはローマ法王、ジルヴェスター1世(314~335年在任)の名。法王は335年の12月31日に崩御したため、その命日が「聖ジルヴェスターの日」として今日までキリスト教圏の暦に記されている。ちなみにジルヴェスター1世は家畜の守護聖人。
来年はどんな年になるかなあ?所は変わっても思うことは皆同じ。日本なら、初詣ででおみくじを引いて、「大吉」にニンマリしたりするけれど、ドイツなら「鉛占い(Bleigießen)」で来年の運勢を占ってみよう。この鉛占い、始まりはローマ時代に行われていた神のお告げを解き明かすための風習だったといわれるが、今日ではジルヴェスターパーティーなどで楽しむ占いだ。キットは、年末が近づくとスーパーなどで購入できる。
やり方は簡単。スプーンの上に小さな鉛の塊を乗せて下からろうそくの火などであぶり、鉛が溶けたら、すかさずそれを冷水の中にポチャンと落とし、固まった形で運勢を占う。と言っても、固まった鉛が何かはっきりした物の形に見 えることはマレ。「これ はハートのように見えるから、来年は新しい恋が待っているかも!」なんて、ちょっとこじつけながら楽しんじゃおう。
鉛占いの結果がぱっとせず、しょんぼりしている友だちがいたら、幸運をもたらすといわれる「四つ葉のクローバー」や「ブタ」、「煙突掃除屋(Schornsteinfeger)」の小物を贈ってみては。年末が近づくと、花屋の軒先にクローバーの小さな鉢植えが並び始めるので、自宅用にも一つ買って、幸運を家に呼び込もう。ところで、煙突掃除屋が何でラッキーなのか知ってた?
昔は暖炉がつまってしまったら、家庭の主婦にとっては一大事。料理もできないし部屋も暖められない。そこに救世主として現われたのが煙突掃除屋だ。黒の作業服に黒の山高帽と、全身黒ずくめで決めた掃除屋が暖炉をほうきでさっと掃除すれば、問題は一挙解決!彼のおかげで一家に幸運が舞い戻ってくる、というわけだ。それからもう一つ。年初に煙突掃除屋が定期点検に訪れる家庭も多いかと思うけれど、そのときは何気なく触ってみて。彼に触れた人には幸運が訪れるといわれているから。
連邦首相がテレビで、ジルヴェスターの夜または元旦に行う新年のあいさつ(Neujahrsansprache)も恒例。ちなみにクリスマスのあいさつは、大統領の担当だ。あいさつの内容は新年の抱負などで、毎年似たようなものではあるけれど、それが災いし(?)、過去にちょっとしたハプニングが起きたことがある。
1986年のジルヴェスター。本来なら87年に向けたコール首相(当時)のあいさつが放送されるはずが、公共放送局ARDが誤って前年の同首相のあいさつを流してしまったのだ。ARDは結局、87年の元旦に改めて「正しい」あいさつを放送し直すという、なんともお騒がせな幕開けとなった。
家でゆっくり寝正月を決め込む予定の人に、このほかの恒例番組をご紹介しよう。日本なら「紅白歌合戦」「かくし芸大会」と、特番のオンパレードだけど、ドイツならジルヴェスターの「Dinner for one(一人でディナーを)」と元旦のウィーン・フィルハーモニー管弦楽団の「ニューイヤーコンサート(Neujahrkonzert)」。
「Dinner for one」は、放送時間わずか18分という英国生まれのカルトコメディー。登場人物は90歳の誕生日を祝う老婦人ソフィーと執事のジェームスの二人きりだ。招待された4人の殿方はもう皆亡くなっていて出席者がいないため、ジェームスがその4人になりすましてソフィーと一緒に乾杯する。飲み進むうちに、だんだん酔っ払って足元がふらふらになったジェームスが、豪華なトラのじゅうたんにつまずくと、そのたびに舞台の端からドッと沸く「桜」の笑い声がお約束です。
一方、初公演は1931年のジルヴェスターまでさかのぼる伝統あるウィーンフィルのニューイヤーコンサートは、チケット予約が1年前からスタートするという人気の高い一大イベント。ウィーン音楽協会の「黄金の間」で華やかに行われるコンサートの模様は、世界50カ国で中継される。2002年には小沢征爾氏も指揮台に上がった。アンコールは3回行われるのが慣わしで、2曲目にはヨハン・シュトラウス2世の「美しき青きドナウ」、最後はヨハン・シュトラウス1世の「ラデツキー行進曲」と決まっている。2008年はジョルジュ・プレー トル(Georges Prêtre)氏が指揮を担う。
クリスマスに食べるものなら、あれこれすぐに思い浮かぶけれど、ジルヴェスターや正月というと何だろう。ラクレット?なんて声も聞こえるけど、よく知られているのはノイヤースブレッツェル(Neujahrsbrezel)。ブレッツェルはドイツに住んでいる人なら知らない人はいないと思うけれど、普通のブレッツェルと、この新年バージョンとのいちばんの違いはずばり、ばかでかいこと!それからいつもなら「穴」は3つだけれど、正月に食べるのは真ん中に大きな「穴」が一つだけ。今回、右の写真で登場してくれたヴュルツブルク在住のマリアちゃんが持っているのは、地元のパン屋さん「Brandstetter」が作ったノイヤースブレッツェル。「これから始まる1年をそこから見渡す」という意味が込められているのだそう。
最後に、ジルヴェスターに家族そろって楽しめるとっておきのお話をご紹介しよう。ミヒャエ ル・エンデの『Der satanarchäolügenialkohölische Wunschpunsch(邦題:魔法のカクテル)』だ。
今年最後の夜。魔法枢密顧問官ベールツェブブ・イルヴィッツァーはあせっていた。世界中に災厄をもたらすという彼の任務が滞っていたのだ。年が明けるまであと7時間、時間がない!そこでイルヴィッツァーは、世界を破滅させるための「魔法のカクテル」を完成させようとするが……。絵本はもちろん、お芝居ならワイマールの「Deutsches Nationaltheater」の公演でも楽しめます。
“Der satanarchäolügenialkohölische Wunschpunsch”
12月26・27日、2008年1月1日
Deutsches Nationaltheater Weimar Grosseshaus,
Theaterplatz 2, Weimar
www.nationaltheater-weimar.de
家の前でご近所さんと一緒に、街中に出かけて盛大に。場所はどこであれ、ドイツで新しい年を迎えるなら、花火で華やかにスタートさせたいもの。あなたの町の絶好の花火スポットは?各地の観光局担当者の声もご参考にどうぞ。
ドッカーンと「悪」を追い払おう!
日本人なら、しだれ柳や線香花火みたいに、花火は見て美しく、そして風流なものであってほしいと思うものだけど、ドイツで花火といえばドッカーン、ドッカーン、ヒューっと、主役は音。でも元旦の花火には、このうるさい音にこそ実は意味があって、昔はこの音で「悪」が追い払われると考えられていたという。だから、あまりのうるささに耳をふさいでしまう人も、この日ばかりは思いっきり騒いでしまおう!
ちなみによく使われる「フォイヤーヴェアク(Feuerwerk)」とは一般に、大がかりな「打ち上げ花火」のこと。個人が楽しむいわゆる爆音花火は「ベラー(Bölller)」と呼ばれます。
キール Kiel
「『Kiellinie』と呼ばれる海岸沿いが、地元の人々には人気ですね」 (キール観光局のクアンテさん)
リューベック Lübeck
「夏は海水浴客でにぎわう「Travemünde」地区のシンボルである「Nordermole」は、市民によく知られた花火スポットです。でもバルト海の荒波はすぐ目の前。暖かくしてお出かけください」(リューベック観光局のシュッツさん)
ハンブルク Hamburg
「花火を鑑賞できる特別遊覧船は、毎年ジルヴェスターの夜に運航するけど、いつも10月には切符は完売だね。今年ももちろん売り切れちゃってるけど、ベストスポットはもちろん港湾地区。人出はすごいけど、船上からでなくても楽しめるよ。船の汽笛や教会の鐘もいっせいに鳴り響いて、迫力満点!」 (観光船会社HADAG広報担当者)
デュッセルドルフ Düsseldorf
「日本デーの花火にはちょっと劣る(?)気もするけれど、眺めがいいのは、やはりライン川沿い。川と花火って相性抜群!アルトシュタットからほろ酔い気分で眺める花火もいい感じ」(在独歴5年になる日本人Kさん)
ケルン Köln
「この町で花火といえば、ライトアップされたドームが華を添えるライン川沿い。地元のテレビ局WDRでも生中継されるので、出不精の私はこれまでテレビ画面を眺めているばかりだったけれど、今年は出かけてみようかな……」(地元の日本人Rさん)
コブレンツ Koblenz
ヴィルヘルム皇帝の騎馬像が立ち、ライン川とモーゼル川が交流する町随一の観光名所「Deutsches Eck」をバックに上がる花火は、かなりの見もの。
フランクフルト Frankfurt
「カウントダウンが近づくと、町は人、人、人で大にぎわい。私は、マイン・ブリュッケから眺める花火がいちばんきれいだと思います」(フランクフルト観光局のベックマンさん)
シュトゥットガルト Stuttgart
「花火スポットはたくさんありますよ!Bauwerke、Hauptbahnhof-Turm、
Kunstmuseum、Fernsehturm、Bismarckturm、
Birkenkopf、Uhlandshöhe、Rotenberg……」(シュトゥットガルト観光局のメーラーさん)
ミュンヘン München
Marienplatzはもちろん、「ミュンヘンのパーティー通り」である Leopoldstraßeもにぎやか好きに人気。Prinzregentenstraßeの金色の天使の 塔「Friedensengel」周辺も、ここ数年ホットスポットだそう。
ドレスデン Dresden
「アルトシュタット近くの観光スポット『Brühlsche Terrasse』や市街を一望できる『Weißer Hirsch』、エルベ川近くにたたずむEckberg 、 Albrechtsberg、Lingnerschlossの3つの城も、風情があっておススメです」(ドレスデン観光局のシューリヒトさん)
ベルリン Berlin
ドイツで新年のカウントダウンといえば、世界中でテレビ中継されるのがここ、ベルリンのブランデンブルク門。ジルヴェスターから新年にかけては、寒さも吹き飛ばすほどの熱気でパーティーは最高潮に。
エリザベート・ブルンナーさん
(ボン近郊ヘネフ在住)
ホームパーティーをして、クローバーやかわいいブタの小物とかをお互いに贈り合うの。昔ならペニヒ硬貨も幸運のシンボルだったわ。ベルリンに住んでいたころは、ベルリーナーをみんなで食べたけど、その中に一つだけ、からしクリームを入れたのを混ぜて、だれに当たるか大騒ぎしたり……。
ロベルト・シュプックさん一家
(ルクセンブルク近郊ヴィンチェリンゲン在住)
同年代の子どものいるご近所さんと、家の近くの公園で花火を上げます。子どもたちも、その日はお昼寝をすませて、夜更かしのための準備も万端。カウントダウンまで大人と一緒に楽しみます。
アンドレアス・ローゼンタールさん
ヴォルフガング・シュナイダーさん
(ケルン在住)
Saufen! Saufen! ガンガン飲みまくる、これに尽きるね!彼女はスキーに行きたいなんて言ってるけど、男同士、飲んで騒ぐほうが断然楽しいな。
アンダ・パウルさん
(ニュルンベルク近郊バイアースドルフ在住)
日ごろは遠く離れていてなかなか会えない友だち同士で集まって、お互いの近況とか、ゆっくり話ができたらいいなと思ってるわ。
本誌連載「ドイツ食の歳時記」で、いつもドイツの素朴で美味しい料理をご紹介していただいている舞楽あき子さんに、手軽にできるおせち4品を作っていただきました。(ささきりか、編集部・神野直子)
お正月はもともと、年神様を迎え、来る1年の多幸を願う儀礼。おせち料理には、お正月に主婦がゆっくりできるようにというだけでなく、年神様をお迎えしている間、火を使うのを慎むという物忌みの意もあるのです。
例えば、黒豆は「まめまめしく(健康で)働けるように」、昆布巻きの昆布は「よろこぶ」とのかけ言葉など、おせち料理には、それぞれ新しい1年への祈願が込められています。
ジルヴェスターのパーティーで、たまにはおせちを用意してお客様を迎えてみては?食材は、ドイツで手に入りやすいものばかりです。
紅白菊花
本来はかぶで作る菊花を、赤かぶと大根を使って紅白にしてみました。量を食べるものではないので、できるだけ小さい赤かぶを見つけましょう。かぶの色が移るので、漬けるときの容器は必ず別々に。大根の代わりにコールラビを使ってもできます。
材料(4人分) | |
赤かぶ(Rote Bete) | 小4個 |
大根 | 半本程度 |
酢 | 150cc |
みりん | 大さじ3 |
砂糖 | 50g |
唐辛子 | 少々 |
- 赤かぶの皮をむき、へたを下にしてまな板の上に置き、縦横に細かく切り目を入れる。(割り箸ではさんでおくと、下まで切り落とす心配がない)
- 大根を赤かぶと同じくらいの形に切り、同様に切り目を入れる。
- ①②を別の容器に入れ、海水程度の塩水(分量外)に1時間漬ける。
- 酢とみりんと砂糖を混ぜ、甘酢を作り、2等分する。
- 赤かぶと大根を形をくずさないようにしぼり、別々の容器に入れ、上から甘酢をかける。最低1日漬け込む。
- 食卓に出すときに、大根の上に唐辛子の輪切りもしくは千切りを飾る。
数の子
言わずと知れた鰊(にしん)の卵。二親(にしん)とかけて、子孫繁栄 を願う縁起物です。ドイツ語では「Heringsrogen」。価格もお手ごろです。
材料(4人分) | |
数の子 | 200g |
粉末だしの素 | 小さじ山盛り1 |
水と酒(半々が目安) | 合わせて150cc |
しょうゆ | 大さじ1 |
かつおぶし | 適量 |
- 数の子は筋を取り、たっぷりの水につけて丸1日塩抜きする。途中で1度水を変える。
- 粉末だしの素、水、酒、しょうゆを煮立て、冷ましてから、水気を切った数の子を漬け、一晩おく。
- 食べるときに、かつおぶしを飾る。
鮭の西京漬け
しっかり漬けた肉や魚は、冷めても美味しいもの。おせち料理としてだけでなく、たくさん作って冷凍しておけば、お弁当や急なお客様の際にも重宝します。
材料(6人分) | |
鮭 | 約700g (片身フィレの半分程度) |
白味噌 | 150g |
みりん | 50cc |
酒 | 50cc |
砂糖 | 70g |
- 酒とみりんを沸騰させ、アルコール分を飛ばし、砂糖を溶かす。
- 冷めたら、白味噌を加えてよく練り、ペースト状にする。
- 鮭の切り身を漬け、二晩寝かす。
- 焼くときは、焦げやすいので中火でじっくりと。
伊達巻風だし巻き卵
昔は大切な文書はすべて巻物にして保管したことから、お正月には巻物がよく登場します。伊達とは華やかなこと。本来の伊達巻は白身魚のすり身が入 りますが、ここでは、だし巻き卵を伊達巻風に焼いてみました。
材料(6人分) | |
卵 | 4個 |
粉末だしの素 | 小さじ1 |
湯 | 大さじ1 |
酒 | 大さじ3 |
砂糖 | 大さじ2 |
塩 | ひとつまみ |
- オーブンを200度に温める。
- 粉末だしを湯で溶き、酒を加え、砂糖、塩を入れ、よく混ぜる。
- ボールに卵を溶いてよく混ぜ、②を加える。
- ③をクッキングシートを敷いたバットに流し、オーブンに入れ、表面に焼き色がつくまで焼く。(目安は15分)
- ④をすだれにのせて巻く。巻き終わったら、すだれをつけたままにして、冷えるまで待つ。
どこででも売っている赤豆(Red Kidney Bohnen)をしょうゆと砂糖で煮たら、黒豆っぽい雰囲気になります。お試しあれ!
「ホテル・ニッコー・デュッセルドルフ」には、年越し1泊2日のプランが用意されています。朝食に弁慶特製のおせち料理を食べて、 2008年をすがすがしく迎えてください。
住所: Immermannstr.41, Düsseldorf
要予約Tel. 0211-8340
● Düsseldorf
インマーマン通りの「カフェ・リラックス」では、リアル タイムで「紅白歌合戦」が観られます。鴨ねぎそば(10 ユーロ)を味わいながら、SMAPの中居くんと鶴瓶師匠の息のあった司会ぶりを楽しんではいかが。本誌読者には温泉卵が特別サービスとなりますので、ご注文の際には「ニュースダイジェストを見ました」と一声を。混み合うことが予想されるので、予約をおススメします。
Tel. 0211-1795653
● Köln
おそばを食べるならここ「レストラン飛岡」。かけそばなど(8,50ユーロ~)がおススメです。
Tel. 0221-3489888
● Stuttgart
年越しそばと銘打たないものの、「喜長」ならざるそば、たぬきそば、天ざるそばなど各種そば(8,80ユーロ)が勢ぞろい。
Tel. 0711-247687
● München
「sasou」は19時までオープン。山菜そば(6,80ユーロ)、天ぷらそば(8,70ユーロ)などが食べられます。
Tel. 089-263701