音楽活動35周年を昨年祝ったばかり、映画『Kill Bill』に提供したテーマ曲『Battle Without Honor or Humanity』や、音楽監督、俳優としても高く評価された映画『SF サムライ・フィクション』によって、ドイツで最も有名な日本人の一人である布袋寅泰。彼にこの春ドイツ4都市を含む8都市をめぐる欧州ツアーにかける意気込み、ドイツとの関係について語っていただいた。日本のスーパースターは、欧州の地で「無名の新人アーティスト」として新しい挑戦の中にいる。
── 音楽活動35周年という記念すべき年を迎えた昨年、ドイツ・ベルリンを訪問されたそうですね。デヴィッド・ボウイとBOØWYのルーツを追った旅を経て、ベルリンという場所にどのような印象を抱かれましたか?
僕が初めてBOØWYというバンドでベルリンの伝説のハンザトン・スタジオにレコーディグのため訪れたのは1985年です。まだ壁が東西を分断し、街は暗く重苦しい印象でした。時間限定付きの観光ビザでチェックポイントチャーリーから訪れた東ベルリンはまるでモノクロームの映画の世界で、時間が止まっているかのようでした。89年に壁が崩壊したというニュースを日本で見て、僕はいてもたってもいられず、翌日にはベルリンに飛んでいました。壁のない自由の街、ベルリンをこの目で見たかったのです。その後、バンドが解散してソロになってからも何度かレコーディングでベルリンを訪れました。
長い時が経ち、2016年にアーティスト活動35周年を迎えた僕は、僕の原点とも呼ぶべきベルリンでライブをし、思い出の地を巡りました。壁はなくなり、街は近代化され活気にあふれ、ドイツが未来に向け力強く歩み続けている力を感じました。と同時に、僕は時間に置き去りにされたようなノスタルジックな感傷にかられました。それは昨年、僕の永遠の憧れであり、僕に「ベルリン」という街の存在を教えてくれたDavid Bowieが亡くなったからかもしれません。BOØWYもBowieも消えたベルリンで、僕は一人の『BOY』に戻り、自分の辿ってきた濃厚な時間を振り返りました。ベルリンは僕の人生の分岐点とも呼べる、特別な場所なのです。
2016年欧州ツアーで演奏する布袋寅泰
── 映画『SFサムライ・フィクション』が頻繁にテレビで放映(多い年で年に3回)されているドイツでは、布袋さんの演じたサムライが視聴者の記憶に深く刻まれていて、日本人が想像する以上に、「HOTEI」はドイツ人にとって身近な日本人のアイコンです。昨年のベルリンでのライブで、観客の反応について印象に残っていることはありますか?
『サムライ・フィクション』をドイツの皆さんがご存知なんて驚きです! 嬉しいような恥ずかしいような(笑)。あの映画は僕の役者、音楽監督としてのデビュー作品です。その撮影に入る前に僕はステージのセットから落下して右肩の鎖骨を骨折してしまい、殺陣のシーンは全て左手に切り替えねばならず大変でした。あの映画は韓国で、同時期に公開されたレオナルド・ディカプリオの『タイタニック』を超えるヒットとなり、プロモーションでソウルを訪れた際には、ホテルの大浴場で見知らぬ人に、素っ裸なのにも関わらず「ホテイトモヤスー! サムライ・フィクションー!」と大声をあげられてしまい、たくさんの人に囲まれ顔を真っ赤にしたのを覚えています(笑)。
昨年のベルリンのカシオペアでのライブは最高でした。初めは大人しく様子を伺っていたオーディエンスが中盤から盛り上がり始め、終盤のステージと観客の一体感、そして皆さんの笑顔が忘れられません。映画『Kill Bill』のテーマ曲(Battle Without Honor or Humanity)はもちろん、世界発売の『ストレンジャーズ』というアルバムの曲を中心に、インストルメンタルと歌が半々の内容でした。
今年はBOØWYの懐かしいナンバーやソロのヒット曲など、BEST OF HOTEIと呼ぶにふさわしい内容で挑みます。今年は元デヴィッド・ボウイ・バンドのドラマー、ザッカリー・アルフォード、90年代にAPOLLO 440というバンドで大ヒットを放ったベーシストのNOKO、そしてキーボードは布袋バンドの奥野真哉という、日米英の先鋭ミュージシャンがバックを固め、カラフルでダイナミックなサウンドを皆さんにお届けします。僕の音楽を知らない人にも必ず楽しんでもらえる自信があります。ご友人と一緒に是非お出かけください。
ベルリンのライブハウス、カシオペア(Cassiopeia)
── 昨年のベルリンに続き、今年はドイツ4都市をめぐるツアー。今後、布袋さんの演奏をドイツで聞ける機会が増えるのではないかと期待しています。2012年から英国ロンドンを拠点にされていますが、布袋さんのグローバルな活動の、今後の目標や計画について教えてください。
こうして少しずつ世界に活動の場を広げていけることをとても嬉しく思います。とは言え、日本以外では僕はまだまだ無名の新人アーティスト。自分の存在を知ってもらうためには、地道な努力が必要です。時には挫折しそうになることもあるけど、誰かではなく、自分で選んだ道です。諦めず一歩ずつ積み重ねていきたいと思います。35年前、無名だったBOØWYというバンドも小さなライブハウスからスタートしました。20人しかいない客を前に「今、目の前にいる一人の心を掴めば、いつか必ず100人に、そして1万人に伝わるはずだ」と信じてライブ活動を続けた結果、BOØWYは日本一のバンドとなり、ミリオンセールスを記録し、東京ドームのラスト・ギグスの10万枚のチケットを10分で売り切りました。
僕の目標は世界でのセールスや名声ではありません。僕の音楽を楽しみに待っていてくれる世界の仲間に会いにいくこと。いつか必ずワールドツアーを実現したい。ライブハウスでもかまわない。一人の心を掴むため、ずっと旅を続けていきたい。
世界にはたくさんの日本人の方々がそれぞれの目標に向かい頑張っている。僕も同士として、音楽で皆さんにエールを送れたらいいなと思います。皆さんとライブ会場でお会いするのを、とても楽しみにしています!
HOTEI EURO TOUR 2017
4月11日(火)フランクフルト(Zoom)
4月12日(水)ケルン(Clubbahnhof Ehrenfeld)
4月17日(月)ハンブルク(Indra)
4月18日(火)ベルリン(Musik & Frieden)
※ツアーの詳細、チケットの購入は
下記のウェブサイトをご参照ください。
https://wizpro.com
www.myticket.de
TEL: 01806-777111