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ドイツ在住の日独バリスタに聞いた ドイツでおいしいコーヒーに出会うには?

ドイツの食と言えば、ビール・ソーセージ・じゃがいもの「三種の神器」が思いつく。ところが実際にドイツに住んでみると、街中にカフェが多く、コーヒーがとても身近な飲み物であることに気づいたという人もきっと多いはず。そんなドイツのコーヒー事情について、デュッセルドルフで活躍する日独のバリスタ2人に話を聞いた。さあ、ドイツでおいしいコーヒーを探す旅に出かけよう。(Text:編集部) 

参考資料:『COFFEE BOOK コーヒーの基礎知識・バリスタテクニック・100のレシピ』(誠文堂新光社)

ドイツでコーヒーが愛される理由

ドイツでのコーヒーの人気はさまざまな統計によって明らかになっている。なんとコーヒーの1人当たりの年間消費量は、ビールのそれを上回っているのだ。では、コーヒーがドイツで愛される背景には何があるのだろうか。それは歴史をひも解くことで見えてくる。

そもそも欧州にコーヒーがやってきたのは、17世紀頃だった。すでにコーヒーで貿易していたアラブ人たちがインドに種子を密輸し、さらにオランダ人貿易商がそれを国に持ち帰り移植したのが始まり。18世紀初頭になると、オランダに加えてフランスや英国が南米の植民地でコーヒー栽培をスタートさせる。ドイツでは、フリードリヒ大王が早くからコーヒー商売に目をつけ、国営の焙煎所でしか焙煎を許可しないなど、厳しく取り締まられていたそう。

コーヒーがドイツの市民にも飲まれるようになったのは、フリードリヒ大王亡き後の産業革命の時代。工場では1日中ストーブに「コーヒースープ」が火にかけられ、人々の体を温め、集中力や活力を高めたといわれている。その後、コーヒーはおいしく飲みやすくなるようにその都度改良され、市民の人気を獲得していった。また、第二次世界大戦後、再びコーヒーを飲めるようになったことは豊かさの証であり、コーヒーはドイツ人にとって戦後復興のシンボルでもある。

参考:ドイツコーヒー協会「Deutschland Wird Zum Kaffeeland」

  • ドイツ人は1人当たり年間 162ℓのコーヒーを飲む。
    コーヒーを飲む人のうち、毎日何度も飲むが 57.1%
    毎日飲むが 24.6%
    週に何度か飲むが 10.0%

    Quelle: Tchibo, brand eins Wissen und Statista / Kaffee in Zahlen

  • ドイツ国内のコーヒー1杯の平均価格は 1.91ユーロ
    スイスの 3.25ユーロに比べて1ユーロ以上も安い

    Quelle: Tchibo, brand eins Wissen und Statista / Kaffee in Zahlen

  • ドイツ人は1人当たり年間 6.65㎏ のコーヒーを 自宅で消費する。
    欧米諸国中では 8位、1位はフィンランドの 10.35㎏

    Quelle: Das Statistik-Portal / Wo die größten Kaffeeliebhaber zuhause sind

日独バリスタ対談日本もドイツもコーヒーが「熱い」!

若松さん(左)と、ピーターソンさん

  • 若松信孝さん(わかまつのぶたか)
    デュッセルドルフ在住の日本人バリスタ。ドイツでコーヒーに目覚め、ラテアートを独学で学び始める。ラテアートの大会へ出場経験も。Die Kaffeeにメインバリスタとして勤務。
    Instagram:@barista_nobi
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  • カイ・ピーターソンさん
    デュッセルドルフ在住のドイツ人バリスタ。東京のスペシャリティコーヒー専門店で働き、ハンドドリップを学ぶ。Copenhagen Coffee Labに店長として勤務。
    Instagram:@kai_rista
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日独のコーヒーの違い

  • 日本
    ● ハンドドリップが主流
    ● お客さんが新しいものが好きな傾向に
    ● カフェの敷居が高い ハンドドリップ
  • ドイツ
    ● エスプレッソマシンが主流
    ● お客さんがストレートに意見を言う傾向
    ● カフェが身近な存在 エスプレッソマシン

いまさら聞けないコーヒーのこと

Q:カフェラテとラテマキアートの違いは?
A:スチームミルクかミルクフォーム、または両方が入っているなど、その組み合わせによって名称が変わる。また、店によって配分も異なる。

コーヒー

Q:最近よく聞くスペシャリティコーヒーとは?
A:原産国や生産者はもちろんのこと、種子の状態からカップまでのすべての段階で徹底した管理がなされ、厳選された豆だけが使われた最高品質のコーヒーのこと。
参考:日本スペシャリティコーヒー協会ホームページ

Q:軟水と硬水で味が変わるのは本当?
A: 硬水のドイツでは軟水の日本と比べて、 コーヒーの味がとげとげしく感じられる 傾向に。硬水の場合は豆を細かく挽い た方が良い。ドイツで軟水を使いたい場合は、市販の軟水(Volvicなど)を使用 するのがおすすめ。


ドイツでバリスタとして働く若松さんとピーターソンさん。やはりドイツではコーヒーが身近な飲み物だと感じている。

ピーターソンさん(以下、P) 特にハンブルクは港があるので昔からコーヒーが人気で、博物館もある。ほかにもウィーンのコーヒー文化や第二次世界大戦後にイタリアから移民労働者がたくさん来たり、いろいろな影響がありそう。

若松さん(以下、W) お店のお客さんが言ってたんだけど、朝起きて飲むコーヒーは力の源だったり、友だちと一緒にリラックスするときに飲んだり、生活になくてはならないものだと。日本で言うと、緑茶のような存在なのかな。カイくん(ピーターソンさん)はいつからコーヒーを飲むようになったの?

P 17歳の頃、学校の食堂やキオスクで飲むようになったのが始まり。でも、そのときは全然こだわりとかがなくて……。

W 自分も日本ではコンビニで缶コーヒーを飲んでいたくらいで、本格的に飲み始めたのは欧州に来てから。日本のカフェのコーヒーは高いから、敷居が高いと感じる人が多い印象だね。

P 日本のカフェで働いていたとき、日本人の方がドイツ人よりもこだわりが強いと思った。コーヒーの質だけじゃなくて見た目やサービスも大事で、スタッフのトレーニングも厳しかった。ドイツのおもしろいところは、お客さんが厳しい(笑)。いつもと違う味、とか自分の意見を言うんだよね。

W ああ、それすごい分かる! 日本で「おいしい」と言われるとお世辞かなって思うんだけど、ドイツでは逆においしくないものはおいしくないとはっきり言ってくるから、「おいしい」は本当なんだと思う。

P 僕ははっきり意見はしないけど、コーヒー豆の生産国や焙煎方法についてバリスタに聞くことはある。気になる焙煎所とかスペシャリティコーヒーの生産者を調べておいて、外国を旅行したときに実際に訪ねることも。

W 本当によく勉強してるね。今度バリスタ仲間でカッピング(コーヒーのテイスティングのこと)をしたいと思っているんだけど……

若松さんとピーターソンさん対談中

コーヒーへの愛が止まらないお二人。そもそもバリスタになったきっかけとは。

W 日本でバーテンダーをしていた20代後半の頃、初めての海外旅行でドイツに。カフェやレストランをまわるうちに、日本とは違う時間の流れ方やサービスの仕方に衝撃を受けてね。それで、ワーキングホリデーでデュッセルドルフに来たんだ。当時働いていたカフェでラテアートというものを知り、夢中になったのが最初のきっかけかな。

渡独して2年目に、東日本大震災が発生。津波の映像を見て、とてもショックだった。ちょうどその年に、なでしこジャパンがW杯で優勝したのを覚えてる?日本を元気づけた彼女たちを見て、自分もいつかドイツで認められるバリスタになって、力の源であるコーヒーを被災地の人に届けたい。そう決意して、バリスタの資格を取得したんだ。その後、今の職場のメインバリスタとして働きはじめて5年目になるよ。

P 僕は学生時代にカフェでバイトしていたんだけど、本当に興味が出てきたのは日本に留学したときから。留学中も東京のカフェで働いてた。始めたばかりで友だちがいなかったとき、いろいろなカフェの人がお店に来てくれて、自分が休日のときは逆にその人たちのお店に行くようになったんだ。いろいろなコーヒーやバリスタと出会って、コミュニティーもどんどん広がったよ。  

どうせ働くなら、人を幸せにする仕事をしたいと思っていて。お客さんが仕事に行く前にカフェでポジティブな気分になってもらいたいし、自分自身も雰囲気のいいところで働きたい。コーヒーよりも人が好きなんだよね。

W デュッセルドルフやケルンにも同じ大会に出場しているバリスタが何人もいて、みんな顔なじみ。ベルリンやミュンスターにもいいバリスタがいるね。

P うんうん。僕たち2人もそうだけど、敵というよりもみんな仲間。

W そうだね。大会ではまだ結果が出せていないけど、いつもほかの出場者から刺激をもらってる。

ラテアート 若松さん 若松さんがラテアートの大会で描いたラテアート3点。白鳥の親子(右下)のモチーフは子ども連れのお客さんに出すと喜ばれる、と言う若松さん

コーヒーで誰かを幸せにしたい、という気持ちはお二人の共通するところ。一方で、若松さんはラテアート、ピーターソンさんはハンドドリップが得意だ。

W ドイツのカフェはエスプレッソマシンが主流だけど、日本はフィルターコーヒーが人気だね。このフィルターコーヒーがメインなのが、米国から始まったコーヒーの「サード・ウェーブ」。農園や焙煎の違いまでこだわり抜き、丁寧にハンドドリップで入れる。ドイツでも部分的にその波が来ているけど、日本ほどではないかな。スターバックスが流行した「セカンド・ウェーブ」の時代は、深煎りのコーヒーにミルクを注ぐタイプ。それに対して、サード・ウェーブは比較的浅煎りのものが多いよね。

P 浅煎りだから、酸味が出やすい。よくドイツにも日本にも酸味が苦手という人がいるよね。焙煎や淹れ方を間違うと嫌な酸味が出るんだけど、それは僕も好きじゃない。本当にいい酸味というのは、フルーツティーとかジュースみたいな、すごく甘くて香りも強い。酸味が好きじゃない人にも、ちゃんとしたコーヒーを試してもらいたいな。特に日本人は新しいものが好きだし(笑)。

W エスプレッソも本当においしいものは、ドライフルーツにチョコがついたような感じで、デザートを食べたような余韻が残る。酸味=酸っぱいではない、というのはバリスタとして伝えたいことだね。

P それに、バリスタの仕事はコミュニケーションも大事。コーヒーは苦くて濃い、と思っている人もいるから、何も言わずにフィルターコーヒーを出すと「酸っぱい!」というのが第一印象になってしまう。でも、最初に「これはベリー系の甘味がありますよ」と説明すれば、第一印象は全然違うものになる。

W 道しるべをあげるような感じかな。自分の場合はラテアートを楽しみに来てくれる人もいる。忙しいときでも、一人ひとりがその人の一杯を楽しんで帰ってもらえるように「おいしくな~れおいしくな~れ」といつも頭の中で唱えるようにしてる。

P コーヒーの味をつくるのは、カップの中とお客 さんの頭の中だと思う。バリスタに自信があるかどうかも大切で、すごく失礼なバリスタだったらコーヒーもおいしくないはず。プロとして、技術とコミュニケーションの二つをうまく使っていきたいな。

W ちょっとしたお客さんへの気配りとかも、カイくんはきっと日本で学んできたんだろうね。ちなみに「フォース・ウェーブ」が2018年にすでに来ているという噂。特定のバリスタが抽出したコーヒーを飲みたい、というニッチなところまで来ているそう。

ピーターソンさん ハンドドリップ 豆から湯量までを慎重に計量しながら丁寧にハンドドリップをするピーターソンさん。コーヒーを入れる数分間はとにかく集中するとのこと

その後、ピーターソンさんのハンドドリップで、いくつかコーヒーを試すことに。

P 僕は結構香りが強いアフリカ系が好きで、これはケニアの豆でレッドベリー系の香り。

W うーん、フルーティー!紅茶のようだね。

P こっちはコスタリカの豆。うちのお店が直接取引しているところだから、生産プロセスもすごくこだわって生産されてる。(飲みながら)ケニアよりも味がダイレクトな感じ。

W あ、本当だ。甘味が強いね。なかなか日本人以外には伝わらないんだけど、ブラジルの豆って、たまにあんこのような甘味を感じる。そういうのって、ドイツでもある?

P あるある。ケニアの豆でルバーブの香りってあるんだけど、日本ではあまりなじみがないよね。じゃあ、次はエアロプレスで……

若松さんとピーターソンさん対談中

まるで調香師のようなバリスタの会話は、この後もしばらく続いたのであった。次ページは、そんなお二人直伝のおいしいコーヒーを飲むポイントをご紹介!

 
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