フランスのワイン生産地の中で、最北に位置するシャンパーニュ地方。その中心となるマルヌ川が流れる谷には、シャンパーニュの主要生産地域であるモンターニュ・ド・ランス、ヴァレ・ド・ラ・マルヌ、コート・ド・ブランが寄り添っている。さらに南下するとコート・ド・セザンヌ、そして南東のはずれにはコート・ド・バールが横たわっている。総面積約3万4000ヘクタールのこの地域で、世界中の人々が求めて止まないスパークリング・ワイン、シャンパンが生産されている。
シャンパーニュ地方はドイツ同様、冷涼でぶどうが熟しにくい。しかし、通常のワイン用ぶどうよりも早めに収穫したベースワインを使うスパークリング・ワインには、このような気候は好都合でもある。土壌は主に中生代のチョーク(白亜)で構成されており、コート・ド・バールの一部にはキンメリッジと呼ばれるシャブリ地方と共通の、やはり中生代に形成された土壌が見られる。
モンターニュ・ド・ランスでは主にピノ・ノワールが、ヴァレ・ド・ラ・マルヌでは主にピノ・ムニエが、そしてコート・ド・ブランでは主にシャルドネが栽培されている。基本となるシャンパンは、通常この3品種のブレンド。加えて、複数のヴィンテージのベースワインがブレンドされ、ヴィンテージの良し悪しに左右されない一定品質のものが生産される。つまり、ベーシックなシャンパンは、ブレンドによって、醸造所、またはブランドの個性が表現される。
このほか、単独品種あるいは2品種のみで醸造するもの、特級畑、1級畑のぶどうのみから造られるもの、特定の単一畑から造られるものなどがある。シャンパーニュ地方の格付けは村単位で、現在、特級畑指定村が17、1級畑指定村が44ある。
シャンパーニュの生みの親と言われる修道僧ドン・ペリニョンは、ブラン・デ・ノワール(黒ぶどうから色素を抽出せずに醸造する白ワイン)を考案した人物であることが分かっている。泡立つワインは17世紀半ば、ワインを樽で買い付け、ボトリングしていた英国でそのからくりが発見され、フランスに伝わったという説が有力だ。
それまで、シャンパーニュ地方では赤のスティルワインが生産されていた。シャンパーニュ・メゾンの多くは18世紀半ばから19世紀末にかけて相次いで創業したのである。19世紀にはブルゴーニュの赤やソーテルヌにまで泡が込められたという。
ところで、シャンパン・メゾンの立ち上げには多くのドイツ人が関わっている。有名どころでは、クリュッグの創業者ヨハン=ヨゼフ・クリュッグ、ボランジェの創業者ヨゼフ=ヤコブ・ボランジェ、ドゥーツの創始者ヴィルヘルム・ドゥーツとペーター・ゲルダーマン、マムの礎を築いたペーター=アーノルド・マム、パイパー・エドシックの基礎を創ったフロレンツ=ルートヴィヒ・エドシックなどがいる。
そして21世紀のドイツには、シャンパンを志向し、シャンパーニュの品種でシャンパーニュ製法のゼクト造りに挑戦している造り手たちがいる。
シャンパンの醸造方法については、「醸造の手法 ゼクトの場合(2010年6月4日掲載 819号)」をご参照ください。
※ シャンパーニュに関する詳しい情報は、以下のオフィスおよびウェブサイトより収集できます。
Champagne Informationsbüro
Eugensplatz 1, 70184 Stuttgart
Tel: 0711-664759720
Fax: 0711-664759730
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www.champagne.de(日本語)
1. ドルドン・ヴィエイヤールの醸造家ファビエンヌさん
2. ルイユ村
創業1812年、エペルネの西約10キロメートルのルイユ(Reuil)にある家族経営の醸造所。緩やかな斜面を成すヴァレ・ド・ラ・マルヌ(Vallée de la Marne)はピノ・ムニエの故郷だが、ドルドン・ヴィエイヤールの所有畑では、伝統的なシャンパンを構成するピノ・ノワール、ピノ・ムニエ、シャルドネの3品種が栽培されている。畑は主にチョーク質土壌。この土壌は熱と湿度を保ち、ぶどうに必要な栄養分をバランス良く供給してくれるという。醸造所のセラーもチョーク質土壌で構成され、年間を通して理想的な温度を保っている。代々守られて来たぶどうの樹齢は平均35年だ。
ドルドン・ヴィエイヤールは地域色を活かし、ピノ・ムニエに力を入れている。ピノ・ムニエの栽培面積は61%、ピノ・ノワールは26%、シャルドネは13%。女性醸造家ファビエンヌ・ドルドンは、「市場ではこれまでシャルドネが人気だったけれど、今ではピノ・ムニエも注目され始めている」と言う。彼女が生み出すシャンパンの魅力は、このピノ・ムニエを活かしたブレンドにある。3品種のブレンドによる伝統的シャンパンも、内訳はピノ・ムニエ50%、ピノ・ノワール42%、シャルドネ8%と、ピノ・ムニエが主体。ヴィエイユ・ヴィーニュ(Vieille Vigne=古木)はピノ・ムニエ75%、ピノ・ノワール25%のブレンドだ。シャルドネのみを使用したブラン・ドウ・ブランも生産しているが、生産量はごくわずか。「ブラン・ドウ・ブランが夏向きなら、ピノ・ムニエを主体にしたブレンドは冬向き」とファビエンヌ。確かに、シャルドネ主体のクールで硬質な味わいと違い、ピノ・ムニエ主体のシャンパンにはふくよかさと包み込まれるような暖かさを感じる。そういえば、ファビエンヌのシャンパンの泡はふんわりと優しく、余韻は長く、覆い包むような泡だ。
現在、父親のサポートを得てシャンパン造りに取り組むファビエンヌは、栽培・醸造のほか、マーケティングにも力を入れている。「私の代になっても、父から学んだシャンパン造りの基本は変わらない。変わったのは、海外への輸出を考え始めたこと」という。ファビエンヌとは、ハンブルクで開催された「ヴィニュロンのシャンパン(Les Champagnes de vignerons)」、すなわち自社畑栽培のぶどうだけで生産している醸造所、ルコルタン・マニピュラン(RM)を中心とするグループ(協同組合なども含む)のプレゼンテーションで知り合った。この日は彼女の醸造所のように、真珠のきらめきを持つ未知のシャンパン・メゾンをいくつも発見することができた。
Champagne Dourdon-Vieillard
8, rue des Vignes, 51480 Reuil
Tel: +33-(0)3-26580638
www.champagne-dourdon-vieillard.fr