2010年3月、ドイツのジャーナリストが「コルクなしでもコルク臭―セラーの老朽資材(木材)もワインにコルク臭をもたらす」(フォルカー・ムラセク記者)というタイトルの記事を発表しました。ガイゼンハイムのワイン研究所にインタビューをして書かれた記事です。
その記事によると、従来、ワインに「湿っぽくカビ臭い匂い」が感じられると、それは必ずコルク臭であると表現されてきたが、コルクを一切使用していないワインにも、同様の悪臭が感じられるケースがあり、原因をコルクに限定することはもはや不可能だということです。もちろん、悪臭の原因がコルクにある場合もありますが、それまでのように100%コルク由来であるとは言えなくなったわけです。フランスでも、同様の調査結果が出ているそうです。
コルク樹皮は、自然素材であるがゆえに、塩素を含有するごく微量の化学物質を含んでいます。コルクが湿気を帯び過ぎると、カビがその化学物質をトリクロロアニソール(2,4,6- Trichloranisol / TCA)という化合物に変え、このTCAが後にコルクからワインに移ってしまうのです。TCAは湿度の高いセラー中に存在する、何らかの汚染物質(特に1980年代以降製造が禁止されている保存剤で処理された古い建築用木材や、ほかのあらゆる木材など)が原因となる場合もあるそうです。発生したTCAは、セラーの空気を汚染します。例えば、大量購入したコルクをそのような状態のセラー内で保管していると、コルクに悪臭が移ってしまうことがあります。この悪臭は、ナチュラルコルクやプレスコルクだけでなく、合成樹脂コルク、さらにはセラーの備品であるホース、シーリング材、フィルターにも移ってしまうそうです。
このニュースは、ハンブルクのワイン関係者たちの間でも話題になりました。コルク以外の栓、つまりスクリューキャップやプラスティックコルク、ガラスのキャップ、そしてステンレスの王冠を使用しても、コルク臭の問題は100%解決されないことが分かったためです。また、TCAはワインに限らず、ミネラルウォーターやチーズ、コーヒーなどからも検出されています。
TCA以外にも、木材処理剤やダンボールコーティング剤由来といわれるトリブロモアニソール(2,4,6-Tribromoanisol / TBA)や、かつては殺虫剤や除草剤に含まれ、現在では塗料などに使用されているペンタクロロフェノール(Pentachlorophenol / PCP)とカビが反応して発生するテトラクロロアニソール(2,3,4,6-Tetrachloranisol / TeCA)などが同様の悪臭をもたらすそうです。
コルク製造会社はTCAの発生を防ぐための研究開発を進め、着実に成果を上げつつありますが、ワイン造りにおいては清潔なセラーが何よりも大切な前提条件です。
(この章は、Amorim社のゲルト・ライス社長のご協力を得て執筆しました。また、3章にわたりドイツ・コルク協会にも資料を提供いただきました。)
(ラインヘッセン地方)
© Weingut Spiess - Riederbacherhof
ラインヘッセン地方南部ベヒトハイムにある家族経営の醸造所。ユルゲン・シュピースとウテ夫人、そして2人の息子、ヨハネス、クリスチャンのチームワークでワイン造りに取り組んでいる。「息子たちがワイン造りに加わってから、より自然に近いワインを造るようになった」とウテ夫人は言う。ベヒトハイムのハーゼンシュプルング、ガイアースベルク、シュタイン、ハイリッヒ・クロイツなどが特に優れた所有畑。土壌は主にレス土、粘土、そしてマール(泥灰岩)が混在する。健全な土壌から健全なぶどうを収穫することを最優先に、ワイン造りを行なう。赤ワイン造りにも意欲的で、ピノノワールのほか、1990年代半ばからカベルネソーヴィニヨン、メルローも栽培している。
Weingut Spiess - Riederbacherhof
Gaustraße 2, 67595 Bechtheim
Tel. 06242-7633
www.spiess-wein.de
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