ドイツでは主にリースリングの形容詞として頻繁に用いられる「ミネラリッシュな風味」とは、一体どんな風味なのでしょうか? 土壌のミネラルとミネラリッシュな風味の関連性について、ガイゼンハイム研究所のペーター・ベーム博士(Dr. Peter Böhm)におうかがいした話を以下にまとめました。
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ワインの風味には、土壌の性質、土壌が含有するミネラルや水分、天候や温度、ぶどうの木や接ぎ木した根の性質、ミネラルの供給状態、ぶどうの成熟度、アルコールの量や熟成度など、ありとあらゆるファクターが影響している。
例えば、多くの専門家が、粘板岩土壌からはミネラリッシュな風味のワインが生まれると指摘している。また、あるワインから、濡れた岩石のような清冽な香りがして、硬質のミネラルっぽい味がする場合、そのワインに対して、ミネラリッシュという表現が使われる。
ただ、この場合のミネラリッシュというのは、ワインのアロマ成分から得られる感覚で、ワインの中にミネラルが多く含まれているという意味ではない。それは化学分析の結果ではなく、官能検査による香りと味覚の表現だ。個々の土壌が含有する個々のミネラルの吸収過程を化学的に分析することは非常に困難で、人間の味覚にも個人差がある。だから、ミネラリッシュな風味の由来は、はっきりとは分かってない。
土壌のミネラルにはいろいろあり、ぶどうに必要なものとそうでないものとがある。例えば、半導体産業には役に立っても、ぶどうには役に立たないミネラルだってある。岩石に含まれ、風化により分解されて地中の水分に溶け出したカリウム、マグネシウム、鉄などは、植物が成長するために必要なミネラルだ。
植物は硬質の岩場では何もできないけれど、岩石が風化し、細かくなると、水分がミネラル分を溶かすので、吸収が可能になる。また、ぶどうの根も根酸を分泌し、風化岩石に働き掛けてミネラルを取り込む。土中から得られるミネラルは植物の成長に活かされ、その成分はワイン自体には含まれる。
一方、アロマ成分は大まかに分けて炭素系、水素系の物質、酸素などで構成される。収穫量を低く抑えて造られるワインには、アロマ成分が充分に蓄えられている。でも、土壌のミネラル自体はアロマ成分には出てこないため、ミネラリッシュなアロマとの直接の関連性はない。
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このように、土壌のミネラルとミネラリッシュな風味との間には、直接の関連性はないとのことですが、何らかの間接的な働きかけがあるのかもしれません。それにしても、岩石などに由来するミネラルのイメージが、出来上がったワインの香りに表れてくることを思うと、ワインという飲み物にある種の神秘性を感じます。
フォレンヴァイダー醸造所(モーゼル地方)
モーゼル地方のワイン街トラーベン・トラーバッハで1999年にスタートした気鋭の醸造所。醸造所を興したのはスイス・グラウビュンデン地方出身のダニエル・フォレンヴァイダー。 92年に出会ったエゴン・ミュラー醸造所のワインの味わいに感動し、醸造家になろうと決意した。スイス・ヴェーデンスヴィールの大学で醸造学を修めた後、ニュージーランドのフロム・ワイナリーで1年、モーゼルのドクター・ローゼン醸造所で1年働いた後に独立。まずは、ヴォルフ村のゴルトグルーベに1ヘクタールの畑を入手、すでに植わっていたリースリングの古木に生命を吹き込み、ワインを造り始めた。初ヴィンテージは2000年。今では畑面積も4ヘクタールとなり、中部モーゼル地域を代表する造り手に成長している。
Weingut Vollenweider
Wolfer Weg 53, 56841 Traben-Trabach
Tel. 06541-814433
www.weingut-vollenweider.de
2011 Wolfer Riesling trocken
2011年 ヴォルファー・リースリング(辛口)14.50€
ダニエル自身、「シーファーのアロマがとりわけ印象的」と言っているように、フォレンヴァイダー醸造所のワインの中でも特にシーファーの個性が表現されているワイン。清らかでミネラリッシュな味わいだ。ぶどうは、すべてヴォルフ村の対岸にあるゴルトグルーベという畑のもの。この畑は南および南西向きの急斜面で、フォレンヴァイダー醸造所の所有畑の4分の3強に相当する。土壌は灰色、赤灰色のシーファー。栽培しているぶどうの6割が自根(アメリカ品種の台木を使用していない)。約2割が樹齢80~100年という。ゴルトグルーベからはこのほか、ファインヘルプ(中辛口)、カビネット、シュペートレーゼ(共に甘口)が造られている。