この秋、ビオディナミ農法の生産者団体デメター主催のワイン講座に参加しました。そこで学んだことを、4回にわたってお伝えしましょう。
ビオディナミ農法は世界最古のビオ農法と言って良いでしょう。20世紀初頭に人智学、そしてヴァルドルフ教育法を提唱したルドルフ・シュタイナー(1861~ 1925)が、亡くなる9カ月前に行った「農業講座」の内容を基本とした農法です。
シュタイナーは大変なゲーテ通だったそうです。1890年から97年まで8年間にわたってゲーテの自然科学に関する著作の編集作業を行い、ゲーテの自然観から大きな影響を受けています。ゲーテの『自然科学論集』もシュタイナーの『農業講座』も膨大な知恵の集大成であり、一度通読したくらいでは理解できないことも多く、将来も繰り返し読みたいと思っている書物です。
ビオディナミの考え方をご紹介する前に、少し農業の歴史を振り返ってみましょう。
人間は約1万年におよぶ農業の歴史の中で、試行錯誤を続けてきました。それは、肥料(窒素、カリウム、リン酸など)を探求する歴史でもありました。太古の農業には肥料という概念がなかったため、肥沃な土地で農業が発達しました。古代ギリシア時代の農業は非常に発展していたのですが、やはり肥料という概念はなかったようで、牛糞の有効な利用法は分かっていなかったと言われています。中世に入り、三圃式農業が実践されるようになった当初も、肥料というものは知られていなかったそうです。しかし、やがて休耕地で放牧された牛の排泄物が土壌を活性化することが分かるようになりました。耕作と放牧とが密接に繋がることで、持続可能な農業を実施できるようになったのです。この「農耕と牧畜の結婚」は農業における革命的事件でした。その後、植物を観察し続けることでも様々なことが分かってきました。例えば、畑にクローバーを植えると、そこではじゃ がいもがよく育つようになるといったことです。そうして、ある種の植物が肥料として利用されるようになりました。
並行して、化学の発達によってあらゆる元素が発見され、肥料の実態も解明されていきます。空気中には窒素が8割含まれていますが、揮散性の高いこの元素は、生き物の排泄物や空気中の窒素を土壌に取り込むことができる植物の存在によって肥料となることが分かってきたのです。しかし、硝石が肥料として有効であることが分かると、盛んにこの鉱物肥料が投入されるようになりました。
1916年にハーバー・ボッシュ法(窒素固定法・アンモニア合成法)が発見されますが、シュタイナーはこの発見に大変な危機感を抱いたそうです。以後、 硝石に頼る必要はなくなり、大量の窒素化合物(化学合成肥料)が農地に供給されるようになりました。こうして、不毛の地でも農作物の量産が可能になったのです。ハーバー・ボッシュ法は、硝石に代わって火薬・爆薬の生産にも利用され、第1次世界大戦時には兵器生産技術としても使われました。現在の農業は、この化学合成肥料によって成り立っており、ビオディナミ農法はこの動きに警鐘を鳴らしています。
※全4回の執筆に当たり、講師のロマナ・エッシェンスペルガー(Romana Echensperger)さんに助言をいただいたほか、デメター発行のハンドブックを参考資料として使いました。
ギースラー醸造所(ラインヘッセン地方)
アレクサンダー&ハイケさん夫妻。
長女ヨハンナちゃん、次女カロリーネちゃんと
Weingut Gysler
Großer Spitzenberg 8
55232 Alzey-Weinheim
Tel. 06731-41266
www.weingut-gysler.de
2011 Huxelrebe trocken
2011年 フクセルレーベ(辛口) 8.90€
2012 Scheurebe trocken
2012年 ショイレーベ(辛口) 8.90€
ギースラー醸造所の栽培ぶどうはリースリングが3割、その 他はブルグンダー種とラインヘッセン特有のフクセルレーベやショイレーベで構成されている。栽培しているリースリングは「トラウトヴァインクローン(Trautweinklon)」とも呼ばれるクローン。アレクサンダーの祖母が著名なリースリング栽培家フィリップ・トラウトヴァインの畑を相続したため、そのクローンを継ぐことになった。アルツァイは交配品種フクセルレーベとショイレーベが誕生した町。アレクサンダーはラインヘッセンでもすっかり珍しくなってしまったこれらの品種を、今なお大切に育てている。フクセルレーベは暑さが苦手で、温暖な地域での栽培は困難。冷涼気候の同地で収穫量を少なく抑えて造ることで、エキゾチックでフルーティーさ溢れるワインに仕上がっている。ショイレーベも絶妙のタイミングで収穫され、繊細な風味を醸している。いずれもラインヘッセンのワイン文化の繁栄を現在に伝える希少なワイン。